景気後退局面における中小企業の対策(4)

公認会計士・税理士
小山光博

この記事を連載し始めて約一年になろうとしています。しかし(やはり?)この間景気は回復するどころか低迷したままのような気がします。一部業績が回復してきた業界もあるようですが、あくまで最悪期を脱しただけで先行きの不透明さは益々強まっています。
そんな中、政権交代を経て昨年12月に亀井金融担当大臣の下、鳴り物入りで施行されたのがいわゆる「中小企業金融円滑化法案」(正式名称は「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」)です。最終回はこの法律について触れたいと思います。

(1)制度の概要

この制度は、事業の苦しくなった中小企業者や所得の減少により住宅ローン返済に困っている個人に対し、その者から要請があれば金融機関は貸付条件の変更、つまり返済期間の延長や金利の減免措置などに、できる限り応じるように努めなければならない、というものです。ここで対象になる「中小企業者」とは業種により異なる(使えない業種もあります)のですが、例えば小売業の場合資本金5千万円以下又は従業員50人以下、卸売業の場合資本金一億円以下又は従業員100人以下となっています。
あくまでも努力義務規定ですが、金融機関はこの制度の申し込みがあった場合、無碍に断ってはならず、可能な限り条件変更等を受け入れる方向で検討をしないといけない、ということになっています。以前は条件変更を行えば「要注意債権」として不良債権とみなされたのですが、そのような取り扱いをしてはいけないと定められました。また金融機関は条件変更等の措置の実施に関する方針や措置情報を記載した説明書類を作成し、公衆の縦覧に供する(各種金融機関のホームページ等でも確認できます)とともに行政庁への報告義務がある(勿論チェックも入る)ことも特徴として挙げられます。


今年6月30日の金融庁の発表によると、この法律が施行された平成21年12月4日から平成22年3月31日までに中小企業が金融機関に貸付条件の変更などを申し込んだ件数は約48万件、うち金融機関が貸付条件の変更などを行った実行件数は約三十六万件、審査中のものが約九万件、取り下げ件数が約1万5千件あり、これらを除いた実質的な実行率は98.3%(ちなみに住宅ローンの条件変更の実施率は94.1%)と非常に高くなっています。

(2)制度の持つ意味

当初この制度が話題になった頃「こんな制度使い物になるのかよ」という批判が多かったような気がします。例えばこの法律の成立を受けて新設された「条件変更対応保証制度」は、既に政府系金融機関からの融資を受けていたり、信用保証協会の保証を受けている企業は利用できません。中小企業で、これらの融資を利用していない所が果たして存在するのでしょうか。
私も実は、この制度に意味があるのか、と疑問に思っていましたが、現場の声を聞くのが最もよいのではないかと思い、先日近所の信用金庫に、この制度について色々とお話を伺いました。
個人的にはこの制度、つまり貸し付け条件の変更等は信用金庫等で既に実施されている事例をいくつも見ていますし「何を今更」と感じていたのですが、担当者によると、努力義務規定とはいえ法律という形で明確に定められたということが非常に大きい、とのことです。しかし既に、平成20年11月に金融庁からこの法律とほぼ同じ内容の「指導」がなされていたため、このような事例を目にしているのは当然のことでした。信用金庫の担当者によると、法制化されたのは中小企業に冷たいとされるメガバンクを意識しているのではないか、とのことです。

(3)気をつけなければいけないこと

また担当者は、あくまでこの法律は平成23年3月までの時限立法であり期限終了後はどうなるかわからないので、この制度を用いる場合はしっかりとした経営改善計画を作成してそれを実行していかなければならない、ともお話しされていました。金融庁は金融機関が経営改善計画の策定・実践の支援にまで踏み込んで緊密な連携が取れているかどうかもチェック項目としていますので、金融機関と積極的に交渉を行い、積極的に活用する道を模索すべきだと思います。何はともあれ、まずは相談して欲しい、ということを担当者は強調されていました。
ただ相談に乗ってもなかなか思うようにいかないケースもしばしばあるとのことです。典型的な資金繰り改善の方法として貸付条件の見直し(他の金融機関も含め複数の借入を一本化して毎月の元利返済額を少なくする)と追加融資により資金的余裕を持つという方法がありますが、この方法に限らず融資を受けたらすぐその資金を使ってしまう方が多い(不測の事態に備えた資金として置いておくべきなのに、金があるからと余計な仕入をしてそれが不良在庫になってしまう)のだそうです。あるいはこのスキームに対して「また借入するのか…」と二の足を踏む方もおられるのだそうです。何かアクションを起こすには資金が必要なのは当然ですが、そういう場面で必要になる「積極的な借金」の意義が理解してもらえない、と担当者は困惑されていました。

全4回にわたりお送りしましたが、共通して言えることは、様々な景気後退局面における対策は全て「手段」にすぎない、ということです。それを活かすも殺すも最終的には経営者の判断次第です。景気後退局面と一括りで言っても企業の状況は千差万別です。最終的な目的は何なのか、それを達成するためにはどうすればよいのか。手段はたくさん用意されていますが、それを使いこなすのは社長の腕の見せ所ではないでしょうか。

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