体験的経営セオリー
(1)経営の原点は!

エデュース
代表 原 清

行きつけのホテルで、この頃の話。
○備え付けの湯沸しポットの中に布巾が丸まっていた
○小用を足すためにフタを上げると、今、誰かが使用した痕跡
○洋服タンスにビニール袋の放置…
名門と言われた鉄道会社が経営していたホテルを、安さで売る東京のホテルチェーンが買収。聞けば、効率倍増とかで、ホール、ルームクリンリネス、フロントのすべてで人員の30%カットをしているとか。効率アップ、は経営だから理解できる。しかし、サービス業で、外から電話をしてもつながらないようなサービスがあってよい筈はない。
ホテルは、もてなしの手本である。高校生がこのホテルでマナーを学ぶ…?「ジョークでしょ」。「30%カット!」をトップダウンで指示するのなら、指示したトップが自ら現場を確認しなければ、その先は知れている。
採算最優先、利益第一、効率一番…、失うものは大きい。
「何が売りものか」「お客様が求めるものは、サービスは」、「そのために、社員が明るく元気に楽しんで仕事をしているか」、の視点を外すと、それはもう、経営ではない。
“体験的経営の原点”と次号では“マネジメントのやり方”を記す。

1、経営者の原点に、

(1)“理念”は借りものではなく、純粋のソウル(魂)であり、社風・風土づくりの源

経営者の立場から言えば、経営目的の第一である、“会社が儲けつづけ存続するため”に役立つことはすべて是である。
「創業は易く、継続は難し」。私が26才で就職した機械メーカーは規模は業界No.3。創業以来25年間右肩上りの黒字であった。無謀、と思われた新事業のために、たった一棟のビルを建てただけで僅か完成後8カ月で倒産。私も含め、一族郎党はすべてを失った。経営理念は“感謝”。日頃の言動から、社長の意は「働かさせてもらって感謝しなさい」だ、ととった。
全社員にとっての心の糧であり、ものごとの価値判断基準として、チームワークの大切さと働く喜びを、どう実感するか、が具体的な行動にまでかみくだかれてこそ、理念の価値。もちろん、トップ自身が範を示さなければ、社風に迄昇華しない。
厳しい経営のあり方を言葉のオブラートで包みこむ、そして行動はあく迄ドロ臭く本音で、誰にでも理解できること。

(2)時々、日常生活の原点に戻る

会社のトップは、“会社”と言う小帝国に君臨する絶対的君主である。多くの人は、苦い言葉を本音で言わない。だからこそ、自分自身を省みるために、現場を歩くもよし、時には玄関前の掃除、手洗場を清潔に磨くもよし、自らを日常とは異なった行動に無理矢理、駆り立てるのも楽しく面白い。
自分としては日常、当り前と思っている生活の基本である作業や仕事をすることで、普段、何とも思わないことが新鮮に見える。又、「ありがとう」の気持が自然に言葉に出るし、何よりも人やもの事に対して謙虚になる。気持清々しく、創造力が泉のように湧き出てくる。すると、見えないものが見えてくるから不思議。

(3)石橋は叩いて渡る

石橋を叩いても渡らないのは、持てるものを失うのが怖い時か、叩いた音が自分の心に響かない時。しかし、どんなことでも、ヤラないことには始まらない。
今在るのは過去からの延長線上である。しかし、今の延長線上に明日があるのかないのか、誰にも解らない。ビジネスで成功する人は、おしなべて、とても臆病である。
現状の経済情勢から、ここ一、二年で景況が極端に好転するとの見通しは立たない。
経営はバクチではないがリスクでもある。先ずは安定が80%、リスクは20%以内に抑えるのが基準。(自社独自の戦略投資基準をもつ。座して嘆き評論などしていても得るものはなく、ジリ貧の一途。)

(4)ビジョン(将来実現したいこと)、目標を全社員が共有できる

中期経営計画を毎年ゼロベースで作成し直す会社がある。「毎年毎年、経営環境が変化するのだから…」と言うが、そんなことに多大な労力、費用をかける必要などない。よほどのことがない限りは、部分修正で充分。
それよりも、よくありがちな大きな問題点は、一部のトップ陣だけで作成、決定したものを全社に押しつけることである。
お仕着せのビジョンや計画には「我がもの」、との当事者意識は生まれてこない。
大切なことほどコンセンサス(納得・合意)。納得と合意なければビジョンに生命が吹き込まれることはない。“合意”は皆の心が一つになり、結果を出し、喜びあうチームワークづくりの源動力である。

(5)組織はトップ、会社はトップがすべて

良きにつけ悪しきにつけ、会社のありよう、社員のありようのすべてはトップ次第。だから業績成果もトップがすべて。
どのような集団であれ、集団を引っぱっていくリーダーのもつべき大切な要素は三つである。何れが欠けてもチームを引っぱることは出来ない。
その一、“仕事”に対する使命感であり責任感
その二、“仕事”に対する明確な価値基準
その三、自己犠牲の精神
自分の存在感と生きがいを実感し、世のため、人のため、その結果が自分のため、になり元気で明るくあり続けることが、輝く生き方につながる。

“利益”の源資である“売上”を上げることを通じて、一人一人の社員の「働きがい」に、心をくだき、知恵をしぼることだ。
当り前のことだが顧客満足(CS)の基盤は社員満足(ES)なのだから。

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