景気後退局面における中小企業の対策(3)

公認会計士・税理士
小山光博

今回は「役員給与」の話の続きです。前回役員給与は一旦支給金額を決定すればそれを期中で変更するのは難しいが、例外的に変更が認められるケースもある、という話をしました。経営状態が悪化したときには、“法人の存続”と“雇用の確保”のためには役員給与を減額することも考えられます。
しかし、「そうは問屋が卸さない」、というのも現実です。

1,「経営状態の悪化」とは

平成18年の法人税法改正の時点では、どのような状態を「経営状態が著しく悪化した」と判断するのかが明確に示されていませんでした。「法人税基本通達」においては、「法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなど」は著しい業績の悪化に該当しませんでした。
これではあまりにも抽象的すぎるため、平成20年12月に国税庁は「役員給与に関するQ&A」を公表しました。この中で「経営の状態が著しく悪化した」ことを次のように説明しています。
■経営の状況の悪化により従業員の賞与を一律にカットせざるを得ないような状況にある場合
■財務諸表の数値が相当悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけでなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない場合

 

(注)第三者との関係に係る減額改定を次の3つのように説明しています。
(1)(株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の減額が盛り込まれた場合

2,安易な改定にはご用心

このような状況に置かれた場合、事業年度の途中であっても役員給与を減額することが可能になります。しかしそのような法定の改定理由に該当しない場合、役員給与は税法上の経費にならないのです。当初は、過去に支払った分も含めて事業年度中に支払った全額が税法上の経費にならない、という噂もありましたが、さすがにそこまでするのは酷であり、先の「Q&A」においても「上乗せ部分」のみを税法上の経費としない、との見解が示されました。例えば、改定前、月100万円支払っていたのを、半年後に月50万円にしたとすれば、それまでに支払った分の内(100マイナス50)×6=300万円が税法上の経費にならない、ということです。
このようなことにならないようにするには役員給与の額を減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるように、その時の法人の現状を伝えることのできる資料を残す努力をしないといけないということです。また臨時株主総会等を開催するという会社法上の手続きも不可欠です。(注)の(1)(2)については「経営改善報告書」等を文書に残すことでこの課題をクリアすることができると思います。ただし、中小企業の大半を占める同族会社においては、(注)の@に関してはそもそも理由が成り立たないことになると思います。というのは、同族会社においては所有と経営が一致している場合がほとんどであり、「株主」が「第三者」に該当しないからです。

3,具体的な対策

いずれにせよ、役員給与の金額の変更は慎重に対処しないといけません。そもそも役員給与を減額できる場面が極めて限定されているのは、法人税法の「恣意的な経理処理を排除する」という基本的な姿勢からして当然のことです。法人の一時的な資金繰りの都合や、赤字決算を回避するため、というような「利益調整のみを目的として減額改定を行う場合」も業績悪化による改定事由には該当しないことが明らかにされています。それも法人税法の考え方の現われだと思います。「経営状態が著しく悪化した場合」の役員給与の減額は「最終手段」と考えるべきです。
故に、なるべく年に一度(決算期末後三カ月以内の定時株主総会後)役員給与を見直して、次の定時株主総会まで変更しなくても問題がないようにするべきといえます。そのためには経営計画を考慮した上での適正な役員給与の金額の見極めが重要になります。
具体的には役員給与がゼロであると仮定して、最終利益の予想を立て、その内どれだけを役員給与として取るのかを考えるのです。役員給与を支払う前の最終利益予想額の全額を役員給与としてしまえば法人税は支払わなくても済むかもしれません(会社に内部留保を残さないというのは将来のことを考えると好都合とは思えませんが)が、利益が予想より減少すれば役員給与を取ることすら難しくなりますし、利益が予想より増加したとしても役員給与を途中で増額することは出来ませんので思わぬ法人税の負担が生じます。故にどちらに転んでも大丈夫な金額に設定すべきです。また適正な利益水準を保てるような柔軟な計画を立てることも不可欠でしょう。


次回は最終回です。税法から離れて少し前に話題になった「中小企業金融円滑化法案」についてお話ししたいと思います。

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