やっているつもりで出来ていない『見える化』
〜その一、現場不適合編〜

株式会社エデュース
川島 康史

「現場での不適合品の状況はどうですか?」
「今年に入ってからの不適合品は?」
「昨年と比べてどうですか?」
品質管理担当者や現場責任者にこれらの質問を投げかけると、ズラリと立派な資料が目の前に並ぶ。  
日別・月別の不適合品の発生状況、原因別の発生状況、工程別の発生状況。それらをグラフ化して見やすくし、立派な作品に仕上げてある。
しかし、これらの資料に圧倒される一方で、ふと考えさせられる。
・どこまで現場で把握されているのだろうか?
・作業者本人にはいつフィードバックされているのだろうか?
・作業者自身は何がダメで、これからはどうすればいいのか、1つひとつ理解しているのだろうか?
と。
「見える化」と言われると、形にして見えるようにすることそのものだと考えている人も少なくない。確かに「見える化」と言えば、形にすることが「見える化」には違いない。
しかし、「見える化」の本質は、「誰もがすぐに見て、理解でき、やるべき具体的行動に繋がるように、情報を共有すること」、にある。特に重要なのは、具体的な行動に繋がること。いくら立派な資料だけを作っても、具体的な行動に繋がらなければ、「見える化」は実質、実効の無い「見栄る化」でしかない。品質管理は、品質管理担当者が机上でカチャカチャと資料作りに没頭することではない。現場で仕様どおりのモノづくりがされ、不適合品を出さないように、作業者を支援することである。現地現場で、現物を目の前にして確認する三現主義が現場に根付いてこそなのだ。誰のための、何のための「見える化」なのかを再度確認していただきたい。

1、作業者自身へのタイムリーな“不適合の見える化”

不適合品を出してしまった作業者本人にとって、一番の「見える化」は、やはりその時、その場で、現物を確認して指導してもらえることである。
時間が経ち、後になって「実はあの時不適合があったから気をつけてね」と言われたところで、作業者にしてみれば「何がいけなかったのだろう」と思うだけ。不適合品を出したときの状況が具体的でなければ、次の改善への発想は生まれない。というより、原因を探りようがないのだ。これでは、品質は良くならない。
作業者一人ひとりの作業レベルを把握する目的で、成績表として不適合のデータを時系列的に集計して知らせることは、作業者の能力アップと意識向上のためには意味はある。が、その前に、その時その時の不適合を解決することが先決なのだ。
ポイントは次の通り。

(1)必ず本人に直接指導する。
(2)ラインストップしてでもその時に指導する。
(3)必ず不適合を起こした現場で確認する。
(4)不適合品はすぐに処分せずに、必ず現物を手にとって確認してもらう。
(5)「今後はどうする」という結論を必ず導く。

 

2、作業者全員への“不適合の見える化”

不適合の発生状況を作業者全員に知ってもらって、品質意識の向上のために回覧したり、掲示している現場はよく見かける。不適合の発生状況を「見える化」するためには欠かせないことである。
しかし、掲示してある資料を見ていると、作成した人の自己満足か?とも思えるものもある。
・単に発生した事実が記されているだけのもの
・これまでの発生件数を集計しただけのもの
・必要以上に複雑な手法で分析してあるもの
・文字が小さい上に字数も多いもの
というのが、その典型例である。

 

(1)不適合一件ごとの内容をシンプルに表現せよ
不適合が発生したら、本人だけでなくほかの作業者にも内容を知ってもらって、同じような失敗をしないようにする。そのためにも不適合の内容を公開することだ。これはとても大事なことである。また、そこに書かれる中身が重要なのだ。起こった不適合が文章で書いてあるだけであったり、具体性の乏しい、難しいことがいっぱい書いてあると、読む気も失せてしまう。そんな面倒くさいものを、一体誰が読んでくれるだろうか?
「見える化」は、“誰でも簡単に見えて、簡単に理解できて、より多くの人が具体的行動に結びつけられること”でなくてはならない。
ポイントは次の通り。

(1)不適合の内容は、文章を読まなくても、一目見ただけで分かるように写真や絵を主体にして、補足説明程度のものにする。
(2)何がいけなかったのか、シンプルに書く。
(3)これからはどうするのか、具体的に書く。
(4)事務処理上の記載事項は、出来るだけ小さく(場所をとらずに)書く。


(2)不適合発生状況のグラフは、
現状の良し悪しが判断できるものにせよ
不適合の発生状況をグラフ化している会社は多いが、ただ事実を集計してグラフ化しただけでは、得られる情報はたかがしれている。そのようなグラフを見ても、「あぁ、そんなものか」としか感じない。当然、品質に対する意識も芽生えない。
しかし、昨年実績を示すグラフや、今年の目標値を示すグラフと併せて表示するだけで、去年と比べて不適合が多いのか少ないのか、目標が達成できているのかどうなのか、が一目瞭然で把握できる。そこで初めて、作業者には品質に対する意識が芽生えるのだ。
グラフは描けば良いというものではない。かといって、理解に苦しむ複雑な分析資料では尚更見てもらえない。
やはり、誰もがすぐ見て、簡単に理解でき、より多くの人が具体的行動に結びつくかどうかが大事なのだ。
ポイントは次の通り。

(1)昨年の実績を示すグラフを併記する。
(2)目標値など、目指すべき数値を示すグラフを併記する。
(3)毎月必ず新しいデータを更新していく。
(4)製品別や部署別など、層別する場合は5つ以内で層別する。

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