メンタリング制度の導入で、人材の定着と質レベルのアップを!

コムズケア
人財開発コンサルタント
木村 早苗

人事担当者の憂鬱

日本経済新聞社が毎年実施している新卒採用計画調査によると、主要企業の新卒採用者数は四年連続で増加し、高水準の採用が続いています。特に大卒は、3年連続で対前年20%増を記録し、驚異的な回復ぶりを見せています。大卒者の人数はほぼ横ばいで推移していますから、いかに売り手市場化が著しいかがわかります。
こうした売り手市場化は、学生の行動にも大きな影響を与えています。私が、キャリア支援で訪れる大学の模擬面接でも、学生が就職活動を安易に考えている傾向が顕著です。ほとんど企業研究もせず、真剣さが足りない印象を受ける学生の多さに、数年前の氷河期と呼ばれた頃が懐かしくさえ感じられます。また、学生の大手志向も明らかです。大手企業=学生に人気の有名企業を志望する学生の、イメージ先行の志望動機には頭を抱えたくなるときがあります。
企業側はこうした学生との対応を迫られ、「内定辞退者の増加」「採用基準に達する応募者の不足」「選考途上の辞退者の増加」といった問題と戦いながら、採用予定数確保に奔走しているのが近年の就職採用戦線です。

内定者対策としてのメンター制度

ようやく内定を出しても、今度はモチベーション維持、辞退防止のための内定者教育を開始しなくてはなりません。職業観があいまいで志望動機も薄弱という未成熟な学生に対して、早期に内定を出しているのですから、内定者教育は、教育以前の「自律」を目的に、内定者と企業がコミュニケーションを図りながら、職業観や人間関係の理解、資格取得といったキャリア支援を行うものにならざるをえません。
その際、若手社員にメンターの役割を課し、内定期間から入社後まで、メンティー(メンターの対象者)を支援させる方法を導入する企業が増えてきました。最近の若者は、自己中心的なのに、認められたいという思いは強烈で、自分だけに目を向けてほしいというタイプが多いことから、アタッチメント(愛着)型のフォローが効果的だからです。この役割は、入社3年程度の若手社員が担うことになりますが、内定者と頻繁に会い、相談にのるメンターには、人柄だけでなく、「すごい」「かっこいい」と思わせる仕事人(ロールモデル)であることが求められます。
このメンター制度を導入し、内定者フォローをしっかり行った企業には、
「メンティーの内定辞退が減少し、入社後 も組織によくなじんでいる」
「メンターの側が、メンティーへの指導を 通して、人を育て、新しい可能性を発掘 する楽しさや満足感を得ている」
といった成果が着実に表れています。また、メンタリング期間が終了したあとも、メンターとメンティーには強い絆が残ります。

また、早期離職の原因として、「10年後に自分が何をしているか、ロールモデルがおらず、将来像もみえない」という回答が多く寄せられている現状からも、ロールモデルと目標・キャリアについて語り合う機会が設けられていることは、定着率の向上にも繋がるはずです。


メンターとは…「よき先輩、よき相談相手」。仕事や私的な相談に気軽に乗ってくれる人。メンタリングとは…メンターがメンティー(メンターの後輩、メンターへ相談する人)に対して、一定期間継続して行う支援行動。社会化促進を目的として活用される。

 

人を育てる企業文化づくり

私もOL時代、「師匠」と呼びたいトレーナー、まさに私にとってメンターといえる存在の方と出会いました。本当にラッキーだったと思います。そんな、「ラッキー」を「当然」にするための制度、それがメンタリングです。
メンターには、2つの機能があります。1つが「キャリア的機能」で、メンティーに、社会の仕組みやスキルを教え、成長の機会を与えること。もう1つが「社会・心理的機能」で、メンティーがストレスや不安を感じたとき、それを取り除く支援や対応策をアドバイスすることです。そのため、メンタリングを成功させるには、メンティーの心を開き、目的意識や積極性をもたせるためのヒューマンスキルやコミュニケーションスキル、メンティーをサポートする心理・社会的スキル、特にカウンセリングを身につけておくことが必要です。
メンター制度の導入には、メンターにメンタリング技法を身につけさせることが不可欠です。それが導入に二の足を踏ませる原因にもなっていますが、それを継続させることによって、ともに学び、ともに成長する職場文化が醸成できます。
メンタリングが目指すゴールは、『人を育てる企業文化づくり』です。人材の採用、定着が困難な状況のなかで、学生が求める「いい会社」は、そこで働く社員が人に優しく、職場が人の育成に十分な体制が整っている企業だといわれています。それはまた、既存の社員にとっても、「いい会社」ですし、そんな企業づくりにメンタリングはよく効きます。
つまり、メンタリング(相互支援行動)は、カルチャリング(人を育てる企業文化づくり)なのです。

 

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