「そうだ、京都に行こう!」 ―小景〈深い京都〉―

東山三十六峰、最南峰は稲荷山。かの清少納言も詣でたお稲荷さん(伏見稲荷大社)は、鎮座1300年を迎えると言う。今回は、この神体山西麓、お稲荷さんの門前界隈に眠る〈深い京都〉を見つけに行こう。
お稲荷さん本殿の南に隣接するのは東丸神社。“賀茂真淵、本居宣長、平田篤胤”と共に〈国学の四大人〉と称され、江戸中期に国学草創期を築き上げた“荷田春満”を祀る、〈学問守護〉の神さんだ。東丸は春満の幼名。
東丸神社横の静かな小道を進むと、路傍にぬりこべ地蔵が見えてくる。「歯痛を封じ込める」、と江戸時代から信仰され、今日では日本各地、時には海外からも平癒祈願の人々が集まるという、高名なお地蔵さんだ。
お地蔵さんから更に進めば、石峰寺(禅宗)の石段にたどり着く。石段上の竜宮造りの赤門が印象的な構えだ。ここは“伊藤若冲(江戸中期の画家)”が晩年、隠棲した寺として知られる。若冲が描いた下絵で石工に彫らせた、五百羅漢の石仏が本堂裏山の竹林の彼方此方に安置されている。面差し豊かな石仏の風化は一帯の風情に、何とも言えない深い趣を与え、訪れる者の心を和ませてくれる。立ち止り、心静かに、石仏の声に耳を傾けてみよう…。
石峰寺の次は、宝塔寺(日蓮宗)。元々、平安時代に極楽寺(真言宗)として創建された寺が、鎌倉時代に改宗され現在に至る。〈源氏物語、第三十三帖「藤ノ裏葉」〉の恋物語の舞台となった極楽寺とは、この古刹のことだ。〈四脚門の総門、本堂、京都市内最古の多宝塔〉は重要文化財。
ぐるりと散策し、帰途につく前に立ち寄りたい処はランプ小屋。現存する〈国鉄最古(明治期)の建築物〉で、お稲荷さんの最寄り駅(JR稲荷駅)、駅舎横に在る赤レンガ造りの小屋だ。電気が普及するまで、客車・駅舎で使う照明ランプや燃料(灯油)などの保管場所として利用されていた。時を経た小さな〈文化遺産〉には、慎ましやかなノスタルジーが漂う。

(真木)

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