■■■台北日記・AK編■■■



早朝の中正紀念公園を中正紀念堂の上から見たところ。 左に見えるのが国家戯劇院、右に見えるのが国家音楽院。


台北到着


チャイコフスキー・フェスティヴァルの「のぼり」
10月11日午後。快晴の台北空港に着くと日本の8月の気候。 真っ青な空に向かって椰子の木がまっすぐに高々と林立していました。 日差しはまぶしく暑いけれど風はさわやかです。
リムジン・バスで市内に向かうと、目抜き通りには と書かれたのぼりがたくさんはためいていて、この3日間が 大きなイヴェントであることがわかります。ちなみに レーピンは「雷賓」で、香港での「雷比」とは表記が違うようです。

着いたホテルは美しくて豪華。それにしてはバス乗り場が 整備されてなくて、植え込みの土の上に着地しなければ ならなかったのはご愛嬌です。台北では歩道も突然なくなることがあり、信号が青でも注意しないとバイクが車を縫ってどんどんやってきます。自分の身は自分で守れ、というところでしょうか。
しかしホテルの雰囲気はホスピタリティーに溢れ、とても気に入りました。 フロントの女性たちは黒の詰め襟姿できびきびしてかっこよく、 男性たちは日本語も自然でなめらか。

ゆったりと広く清潔なホテルの部屋でくつろいでいると、 4時半頃突然電話のベルが鳴り響いてドキッとしました。 今回前もって音楽祭をマネージしている音楽事務所に、キャンセルなど何か 重大な変更事項などあれば知らせてほしいと、ホテルの名前や電話番号も メールしておいたので、もしかしたら、と不安がよぎりました。

電話はやはり事務所の方からでしたが、フレンドリーな女性で、キャンセルの知らせではなく、なんとその方も、ゲルギエフも 皆同じホテルに泊まっているそうで、これからチケットを お部屋まで持って行ってあげましょう、とのありがたいお申し出。 二人でお茶を沸かしてソワソワと待つ。 それにしても同じホテルだったなんて。
10分後に現れた事務所の方はボリュームのあるウェービー・ヘアの中国人女性で チケットを渡してくださったのですが、急いでいるので、と中には入らず、
「これからマエストロをホールにお連れします。またホールでお会いしましょう。」
とにっこりと言い残して足早に去って行きました。そんな忙しいときにわざわざチケットを届けてくださった親切に感激しました。

私たちは6時15分くらいに部屋を出ましたが、ロビーで誰かに呼び止められました。 来るときの飛行機でたまたま隣になっていろいろ教えていただいた台湾のガイドさんで、たくさんのお店の 紹介カードや割引券ををわざわざ持ってきてくださったのです。本当に親切な方で 彼女のおかげで観光の要所を押さえられ、美味しい食事にも恵まれ、 さらに充実した旅行となりました。


夜の中正紀念公園。大中至正門の向こうに中正紀念堂が見える。
門をくぐって左に国家音楽院(コンサート・ホール)、右に国家戯劇院がある。

中正紀念公園へ

外はもう暗く、タクシーで中正紀念公園まで行きましたが、降りてびっくり、 思わず歓声を上げてしまいました。夜空にライトアップされて浮かび上がった 大中至正門がとにかく大きい。これが中国のスケールかあ、としばらく眺める。 門をくぐると広大な中正紀念公園を吹き渡る強めの夜風が心地よく、 正面はるか彼方に厳かに中正紀念堂がそびえ、左手に国家音楽院(コンサートホール)、 右手に国家戯劇院(オペラハウス)がシンメトリカルに対峙しています。

国家音楽院(ナショナル・コンサート・ホール)

中国風の美しく威厳のある建物で、ふんだんに使われた赤が イルミネーションによく映えています。内部はゆったりとしていて 大理石が基調で高い天井と中国風のシャンデリア、厚い絨毯のフロア、 傾斜の緩い階段。コンサート前の時間をすごすのに申し分ない環境です。

私たちの席はチケットの表示を見るかぎり2階席の前の方でしたが 連番ではありませんでした。続き席がなかったのかなあ、などと 思いつつ案内してもらうとなんと1階で隣同士の席で、このホール には1階も偶数番号の席もないようなのです。いったいどうなって いるのでしょう。ちょっと前すぎるけど、演奏者はよく見えそう。


チャイコフスキー・フェスティヴァルのプログラムの表紙

ゲルギエフ

1曲めは「白鳥の湖」組曲でした。 ゲルギエフを生で聞くのは今回が初めてでしたが 精悍で身のこなしが軽く、全身を使って見た目にもわかりやすい指揮。 オケを完全に掌握していて、意のままに動かす様子は そのデモーニッシュな風貌とあいまってまるでサウロンのよう。 もしくは「脳」を思わせ、脳の指令が瞬時に身体の隅々まで 伝わるようにオケ全体が一つの肉体であるかのような錯覚を おこしました。偉大な支配者、しかしどこか悪ガキ風でもあり、 思わず「ゲルギー、かっこいい!」と言って piyata さんに あきれられる始末。
ゲルギエフの指揮は大変エネルギッシュで、黒いシャツの背中が汗で みるみる濡れていくのがはっきり見えました。前にピアニストの友人が
「怒涛のように駆け抜けて、指揮台の上で心臓発作起こしちゃうようなタイプ」と言っていたのが納得できました。

レーピン登場

「白鳥の湖」が終わってついにレーピンのチャイコフスキーの ヴァイオリン協奏曲です。 今回直前の北京がキャンセルになったこともあり、 最後の瞬間まで本当に実現するかどうか不安でした。
しかしいつものように黒の衣装でステージに現れ、第1音が 聞こえた時にはほっとしました。 これを聞くためにはるばる台北まで来たのです。
冒頭のほの暗い音色。メランコリックな低音のうめきと、一転して ヒステリックな高揚、ああ、これぞ柴可夫斯基の世界です。
第2楽章の控えめな歌は過度のセンティメンタリズムを排した 気品のある表現で、レーピンらしいなあと思いました。
第3楽章での内なるパワーの開放とフィナーレを駆け抜けるときの 切れのよい、エネルギッシュな刻みは、いつもながら胸のすく思いです。 最初から最後まで緊張の糸が途切れることなく深い満足感を味わいました。

台北の聴衆の反応はと言うと、大変熱心で熱狂的。 チャイコンでは例によって1楽章の終わりにも拍手が出ましたが、 これがかなり盛大で長く、ブラヴォーまで飛び交ったのは驚き。 終わったときは瞬時に会場を揺るがす地鳴りのような拍手と歓声、 あらゆる方向から沸き起こるブラヴォーの嵐はいつまでも 止む様子がありませんでした。
レーピンはアンコールにいつもの「ヴェニスの謝肉祭」を披露、 聴衆は大喜びでまた嵐のような拍手が鳴りやまず、 さらにイザイの4番を弾きました。その深い音色は心に しみ渡るようでした。

後半の交響曲4番も、生気とロマンティシズムにあふれる 演奏で、ゲルギエフの魔力にすっかり引きこまれてしまいました。

2日目のコンサート

2日目のピアノ協奏曲のソロははウラジミール・フェルツマン。 エネルギッシュでダイナミック、男性的な演奏で会場を熱狂させました。
中国語のプログラムをながめていた piyata さんが、いみじくも
「(中国語でピアノを意味する)「鋼琴」というイメージそのものねえ」、
と言っていましたが、その通りです。
後半の交響曲は1日目が4番、2日目が5番でしたが どちらもすばらしくてオーケストラの魅力を堪能しました。

最後に

こうしてたった2泊3日のあわただしい旅でしたが、初めての 台湾旅行は、チャイコフスキー・フェスティヴァルの3夜のうち2夜を聞き、 故宮博物院にも行き、コース料理や朝粥、豆漿など美味しい台湾料理を 満喫し、中国茶の作法も習い、はたまた早朝の大極拳を見に行ったり、 と大変充実したものでした。
何より約1年ぶりに聞いたレーピンのライヴに心身ともに活力を 与えられた気がして、やっぱり私にとって最高のヴァイオリニスト だという認識を新たにしたのでした。


Uploaded by AK, October, 2002

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