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【"RAGTIME" 観劇記 in N.Y.】

FORD CENTERの前(写りが悪い・・・)!
RAGTIME
AUG 11(WED),1999 FORD CENTER FOR PERFORMING ARTS 2:00PM

「RAGTIME」

ほとんど予備知識なしに行ったけど、今回の旅行で一番感動した作品となった。まず劇場はかなり新しくて(この作品のために改築したのかな?)装飾も美しく、ロビーもゆったり。珍しくグッズショップも充実。座席はなんと前から2列目ど真ん中。開演前、舞台上に天井から不思議な形の大きな立体がつり下げられています。おーっきなケン玉かと思ったら、2枚のちょっとズレた絵を立体的な1枚の絵として見ることの出来るナントカ・スコープ(ステレオスコープだったか・・・?)の大きなヤツ。開演するとこの特大スコープはスルスルと天井近くに格納されていき、ふと見ると舞台の上には実物大のスコープがぽつんと置かれてスポットが当たっている。このスコープを、Little Boyが手にとっていよいよ物語の始まり。
時代は今世紀の始め、場所はアメリカ。洒落たポーチや出窓のある邸宅に白いパラソル、テニスラケットといったものに象徴される、いわゆるWASPの社会に、黒人やヨーロッパ移民が今まさに入り込まんとしているという背景。各人種・社会層を象徴する3家族(WASP、黒人、ユダヤ移民)が、時代の流れの中で意図せずに関わっていき、この3家族の輪の重なりに、実在した歴史上の人物の糸も微妙に絡まって、「アメリカ」という国の20世紀初頭を見事に描いていく。冒頭のビッグ・ナンバー「Ragtime」では、素晴らしいコーラスと主要登場人物のソロによって、いま私が書いた時代背景や人物紹介が 巧みに綴られ、この数分間で完全にこの作品の虜にっ!
この作品の特長のまず1つめは、物語の幅の広さと奥行き。細かいストーリーは書かないけど、人種間の問題、女性や子供、労働者の権利、といった社会的な題材も含んでいれば、熱い恋や、静かな大人の愛、親子の情愛も描かれる。これだけの幅をもたせると底が浅くなる危険もあっただろうに、細切れのエピソードのつなぎ合わせに終わらず、「大河ドラマ」として人物も社会もしっかり描き切っている。こう書くと、重苦しいだけのミュージカルかと思われるかも知れないけれどそんなことはありません。楽しい場面もたくさんある。まあ物語の主軸は悲劇だと思うけど、ラストシーンはとても「救い」のあるものだった。いま、1つの世紀が終わろうとしているわけだけど、約100年前の物語のラストシーンが、まるで次の100年への希望や指針を示唆しているようにも感じ(我ながら大仰な表現ですがそうなんです)、私の観劇人生で初めてと言っていい程 「大泣き」してしまいました。台詞や歌詞の英語を全て理解できているわけではないので(かなり聞き取りやすい英語だったけどね)、ひょっとしたら私が都合のいいように解釈してしまっているのか、と不安になったのと、自分でも不思議なくらいボロボロ涙が出てくるので恥ずかしかったのとで、気になって回りの様子を確認してみると、目頭をハンカチで押さえている人多数! もちろんカーテンコールは熱いスタンディングとなり、終演後もしばらく放心状態・・・。
さて、特長2つ目はその音楽の多様さ。作品名ともなっているシンコペーションの効いた「ラグタイム」はもちろんのこと、ゴスペル調あり、重厚な合唱あり、軽妙なナンバーありで、バラエティに富んでおり、かつどれも美しい! 特に、黒人女性Sarahの歌う「Your Daddy's Son」、彼女が夫となるはずのCoalhouseと歌う「Wheels Of A Dream」には心を揺さぶられ、知らない間に涙がこぼれました。かと思うと楽しいショー・ナンバー「Crime Of The Century」や、野球観戦の場面で歌われる「What A Game」はユーモラスで笑わせてくれた。
そして3つ目はキャスト。いわゆるオリジナルキャストは数人が残っているだけのようだったけど、主要キャストも、アンサンブルも高レベルの歌を聴かせてくれたし、演技も素晴らしい!
要は、しっかりした脚本・音楽・役者の3拍子が揃ってるんですね。派手な衣装があるわけでなし、舞台機構も至ってシンプル。まさに直球をど真ん中に投げ込まれる快感を味わえる作品。宣伝文句に「今世紀最後の大作」みたいな言葉が羅列されているのも大納得。「レ・ミゼ」に優るとも劣らない完成度じゃないか、思うなあ。「The Lion King」とさえぶつからなかったらゼッタイにトニー賞を取っていただろうし、さらに言ってしまえばLKよりもこちらのほうが良いのになあ、と思った。もう、すぐさまCDも買い、日本に帰ってきて原作(もちろん邦訳)も買い、私の心は「Ragtime」状態。
さて、長くなりついでにもう一つだけ印象に残ったことを・・・。この物語の中心は、3家族の中でも黒人男女の運命にあると思うのですが、もう1本の太い縦糸として興味深かったのは、「女性の自立」というテーマが含まれていたこと。たとえば人種問題や労働者階級の問題は他のミュージカルでも題材として取り上げられているのを見たことがあるけど、「女性の自立」について描かれているものって今まであったでしょうか? ミュージカルに出てくるヒロインって、「女優」や「大統領夫人」や「娼婦」、さもなくばとにかく純真無垢な少女だったりするではないですか(もちろん違う作品もあるでしょう)。でもこの作品では、普通の貞淑な「主婦」が、夫や社会の既成概念から徐々に自由になり、自分で自分の人生を決めるという今では当たり前の生き方を選択していく過程が描かれている。今まで「ミュージカル」というカテゴリの中ではお目にかかったことのない素敵な女性像に出会えたことに、いたく感動した次第。


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