泉 依里 Eri Izumi

 

たくさんの窓の下には、尾っぽがみえる。さえぎる橋は影

57.5×40.5cm 不燃化粧板にガラス用プライマー、油彩、他 2023

傾いた、向かってくる厚みについてくる

54.4×78.8cm ケント紙に油彩、他 2022

重なるガサガサでふわふわは、隠れたりもする

78.8×54.4cm ケント紙に油彩、他 2023

(写真:右)ぶよぶよした腹は 曲がりながら上を続くことによって支えられている

78.8×54.4cm ケント紙に油彩、他 2023

(写真:左)その上に乗ることはびろびろと回ること

57.3×40.2cm ケント紙に油彩、他 2023

あいつは、うなだれてウロウロと歩きまわるだけ

54.4×78.8cm ケント紙に油彩、他 2023

ひっぱられて 進めずにいる半分沈んだふくらんだところ

93.4×38.5cm 不燃化粧板にガラス用プライマー、油彩、他 2023

降り立った地に、たなびく

54.4×78.8cm ケント紙に油彩、他 2022

 

 ■展覧会テキスト[Text]

支持体にマスキングテープを貼り、塗るべき形を区画する。泉依里の絵画を構成する最小単位は、テープを剥がしたときに浮かび上がる色面の一つ一つだ。シールのように薄く平らにせり出した色面どうしを、並べたり、重ねたり。事前の試行錯誤と、綿密な計画に基づくその仕事は、版画という出自にも由来するのだろう。泉は絵を描く、というよりも、組み立てる。構築という言葉が似つかわしいその制作スタイルは、彼女が好んで描く(農業用の)機械と、そもそも在り方からして共鳴していると言うべきか。

泉にとって重要なのは、色面のエッジを際立たせるための、余白だった。静物を描く場合も、風景を描く場合も、しばしばアンバランスに細長いその画面には、必ず白地が残される。どこであるかを説明しない寡黙な白を背に、あらゆる形態は断片とならざるをえなくなるはずだ。どこでもないどこかを漂うその機械や風景は、見えざる全体へと鑑賞者の意識を誘わずにはおかない。このとき白地は、鑑賞者の想像を受けとめる器として機能することになる。

こうした構造をもつ泉の絵画が、やがて展示室という現実空間へと射程を広げていったのは、いかにも必然的だと言えよう。アンバランスながらも矩形を保っていたその画面が、台形や五角形という、より複雑な形を帯び始めたのは2019年のこと。また、時を同じくして始められた紙作品では、支持体の折れ、めくれ、破れ、等々が積極的に提示されている。矩形ならざる画面と向き合いながら、その内部のイメージだけに集中するのは難しく、むしろ、いびつな形の画面を支える展示室の壁面そのものが、支持体として意識されるに違いない。

凝集と拡散。相異なるこの二つのベクトルが、泉の絵画を規定している。白地からくっきりと浮かび上がる静物や風景のシルエットが、意味ありげなタイトルを伴いながら、様々な読み解きを促すいっぽう、その画面は、白地へ、壁面へと意識を横滑りさせ、読み解きに専念させない。こんな両極間での引き裂かれこそが、泉の絵画を見るという経験の内実だと言えそうだ。

 

福元崇志(国立国際美術館 主任研究員)

 

 ■泉 依里 コメント  [Artist Statement]

私は、像をパソコンの中で、こねくりまわして模索します。

あちらこちらから持ってきた風景をなぞり、色の形や線となった像を眺め、みつめ、より変移させ続けます。

みることと感じることは、結びついている時間です。そのできごとを私の少し上の方で切なく感じているのです。

パソコン上で出来上がった風景を目指して、マスキングで境界をつけながら、色をつくり、重ねていきます。

誰もが、それを眺めようとしなければ、それは意味をなしません。

世界に存在するものを像として、感じたざわつきや、自分の揺らぎ、ざらざらとした感覚を再現しながら描きたいと考えています。

 ■略歴  [Artist Biography]

1976 兵庫県生まれ

1996 嵯峨美術短期大学美術学科版画コース卒業

1999 嵯峨美術短期大学専攻科混合表現コース卒業

2000 嵯峨美術短期大学芸術文化研究所研究生修了

 

・個展

1998 番画廊(大阪)※以降、同ギャラリーにて`99`05に開催

2000 立体ギャラリー射手座(京都)

2001 Oギャラリーeyes(大阪)※以降、同ギャラリーにて`02`03`07`19`20`21`22に開催

2002 SUMISO(大阪)

2003 Suspend(信濃橋画廊apron・大阪)

2006 dangle(ギャラリー島田・神戸)

2008 イマジン語学スタジオ(兵庫)

 

・グループ展

1996 印刷ライフ(ギャラリーココ・京都)

1996 大学選抜展(近鉄百貨店・京都)

1998 第50回京展(京都市美術館・京都)

1998 第23回全国大学版画展(町田市立国際版画美術館・東京)

1999 次代の版画(愛知芸術文化センター・名古屋)

1999 Compact Disk(神戸アートビレッジセンター・神戸)

1999 日印版画交流展(ビスババラティ大学ナンダアートギャラリー・インド/アートスペース嵯峨・京都)

1999 神戸アートアニュアル `99(神戸アートビレッジセンター・神戸)

2000 36℃のナルトブルー(ギャラリー白・大阪)

2000 PRINTS 12CITY GALLERY・大阪)

2000 CLOVERART LIFE みつはし・京都)

2000 日常の開示・感覚の視野(Oギャラリーeyes・大阪)

2001 New Year's Call 2001(立体gallery射手座・京都)

2001 その中にあるもの(ART SPACE LIFEPassage・東京)

2001 Puddles vs CLEAN BROTHERS ARTIST INITIATIVE LINKS IN 2001 Puddles Part 2SUMISO・大阪)

2003 UNEASYNESS 2(信濃橋画廊・大阪)

2003 トゥールビヨン(Oギャラリーeyes・大阪)

2005 “2005 新鋭美術選抜展”(京都市美術館・京都)

2005 第5回 ミニアチュール・神戸展(ギャラリー島田・神戸)

※以降、同展に`06`16`17`18に出品

2005 Presentation & Exhibition @ ARTCOURT Gallery

ARTCOURT Gallery・大阪)

2006 アート・ウェハース<21世紀絵画の重層性>

(海岸通ギャラリー CASO・大阪)

2007 Between the scene and the form `07Oギャラリーeyes・大阪)

2018 Group ExhibitionSpring(イマジン語学スタジオ・兵庫)

2019 Restriction 2019Three full daysOギャラリーeyes・大阪)

2021 間際の美(Oギャラリーeyes・大阪)

2022 泉の星(Oギャラリーeyes・大阪)

2023 赤坂とその周辺展(Oギャラリーeyes・大阪)

 

・アーティスト・イン・レジデンス

1998 青森県三戸町立現代版画研究所にて10日間滞在制作

 

・参考文献

「神戸アートアニュアル`99」展 カタログ

千葉淳一:「日本経済新聞」200731日夕刊(アート欄)

福元崇志:「泉依里」Oギャラリーeyes 2023 個展DM(テキスト)

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