川口洋子 Yoko Kawaguchi  「真ん中に向く」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真ん中に向く (スピッツ「あわ」)

8インチ (43) デジタルフォトフレーム、他 2020

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真ん中に向く (スピッツ「ヤマブキ」)

8インチ (43) デジタルフォトフレーム、他 2020

h2.0×w3.7×d3.7cm 鉛筆削りのフタにアクリル絵具、クレヨン 2020

14.0×18.0cm パネルにアクリル絵具、カラーペン、色鉛筆、他 2020

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真ん中に向く (スピッツ「猫ちぐら」)

37V (169)  プラズマテレビ、メディアプレイヤー、他 2020

130.3×97.0cm カンヴァスにアクリル絵具、墨汁、油性ペン、他 2020

21.0×29.7cm パネルにアクリル絵具 2020

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真ん中に向く (スピッツ「花と虫」)

10.1インチ (1610) タブレットPCモニター、他 2020

h7.4×w9.5×d9.0cm 木材、他 2020

h1.9×w1.4×d1.4cm 木材、他 2020

 

 ■川口洋子 コメント  [Artist Statement]

絵を描いている時、当時気になっていた小豆が思い出されてその形を描いたり、制作の途中で買い物に行った時に見た地面の「止まれ」に惹かれて、これも存在してるなあと思い帰宅してから「止まれ」の文字を画面に入れてみたり、最近見た作家さんの絵はこんなんだったなと思いながら描いたり、制作をしている中で色んなことが自分の中や周りで起こっていて、それらを積極的に受け入れて作品の中に取り入れる。画面が破綻したとしてもなお、一つの存在としてそこに在るように絵を描くというのが昨年の私の制作方法だった。描いている時に起こるあらゆることがモチーフとなることで、どこまでも世界が広がっていくように感じた。

 

今回は“スピッツの楽曲”と“五十音”をモチーフとして作品を制作した。作品を作ろうと画面に向き合っていると「この方があの人にうけるかも」とか「この写真が気に入っているから入れよう」とか「さっきうまくいった方法でやってみよう」というような考えや思いも頭に浮かんでくる。だけど今回は、自分や画面と同時に“楽曲”や“五十音”というモチーフもある。そこに向き直ると、今の自分の中と画面上に起こったことがモチーフそのものとずれていることがある。そのことに気がついて修正しても、目に見える物質としては存在しないそれらのモチーフの方を向くことは難しく、すぐに見失ってしまう。それでもモチーフの出来るだけ真ん中を目指すべきだと思った。今回の制作を行う中で気が付いたそのことが大事なことに思えたので、展覧会と動画作品に「真ん中に向く」と名付けた。

 

−スピッツの楽曲−

完成された楽曲や音源に後から映像をあてるプレスコ技法を用いて動画を制作した。

モチーフとなるスピッツの楽曲を聴きながら、絵を描いたり、家の中やベランダ、街の中で見たものや、歩いたり、ものを動かしたり、自分が動いたりするのを写真や動画におさめたりして、それらを動画編集ソフトのタイムライン上に並べていき、音を流しながら映像を確認して、動画内で起こっていることと楽曲が一致していると思えるまで、それを何度も繰り返した。

 

−五十音−

私は数年前まで作品にはタイトルをつけていなかったのだが、あることがきっかけで作品にやまと言葉を参考にして名前をつけるようになった。やまと言葉にふれていくうちに、その「名付け」の深く繊細な感覚に驚き感銘を受けた。やまと言葉の音に漢字を当てて記された『古事記』の“あめつちはじめのとき”から始まる一連の文章には、一文ずつ一語ずつはもちろん一音ずつにも意味や世界があるという。その、音の感覚と意味が同時であることを深く感じるために五十音をモチーフにして作品を作ることにした。「う」に似たものを作品として再現するのではなく「う」そのものとして存在するものを作品としてつくろうとしている。

スピッツについて

 

今回、スピッツの楽曲をモチーフに動画制作を行なったのは、昨年末に提案を受けたことがきっかけだった。

私は、音楽を聴く習慣をあまり持っていないが、大学生の時、友人にスピッツの曲を聞かせてもらい、それからスピッツが好きになってよく聴くようになった。その頃からスピッツの曲は私が思う芸術に似ているなと思っていた。

 

提案を受けた時、これまでにスピッツのライブに行った時の事や夜の車の中で曲を聞いた時の記憶の絵を描いたことはあったのだが、曲そのものを作品にするということに抵抗を覚えてしまった。それは、スピッツを好きで聞いている自分と作品を作る自分の間に隔たりがあるからだと気が付いた。曲から作品を作ることで、その隔たりをなくしたいと思い制作することにした。そう決めると、私の好きなものと作品を作ることが同じ場所にあって良いんだという喜びが溢れてきた。

 

早速、今年の2月には作品の素材集めを始めていたが、新型コロナウイルスの流行で起こった経験したことのない状況に戸惑い、制作の手が止まっていた。そんな中スピッツの最新曲が、今年の6月に配信リリースされた。「猫ちぐら」という曲で、緊急事態宣言中のステイホーム期間にメンバー同士が顔を合わせることなく、それぞれの自宅で個別に音を重ねて制作されたものだ。

 

初めて聞いたその曲は目立った凸凹がないように感じられ、聴き終わった後にどんな曲なのか印象が残ることがなかった。なぜ印象に残らないのかが気にかかり、もう1度、2度と聞いていると歌詞の中からいくつかの言葉が自然と心の中に届き始めた。それから、そこに合わせられた音がどこまでも優しく寄り添っているように感じた。今のこの状況の中をスピッツのメンバーも生きていて、そこでまっすぐ向き合って作られたということが、歌詞や音に溢れていた。そんな曲だから、不安定になっていた私や沢山の聞く人の心に無理なくゆっくり届くようになっていたのかなと思った。何度か聞くうちに「猫ちぐら」がとても大切なものになっていた。この曲で動画作品を作り始めることにした頃から、いつもと違った状況を受け入れきれずにいたのが、少しずつ今の自分がいる場所にちゃんと足を付けて立てるようになっていった様に思う。

 

ゆっくり届いてくる「猫ちぐら」に対して、前作である昨年リリースされたアルバムの「見っけ」は、心の奥まで直接届いてきていたんだなと思い返していた。そのアルバムは、作ることに向き合い続ける中で出会った、様々な豊かさとこれから向かっていくその先への希望のようなもので満ちていた。そんな特徴を持っているからか、制作に取り組めるくらいに心の状態が整うまでは聞くことが出来なかった。また聴き始めると、これまで気に留めていなかった音が愉快に跳ね踊るように耳に飛び込んできた。それを聞いた時に、生っぽい作り方がされていると思った。生っぽいというのは、私が絵を作る中で気が付いたことで例えると、ひと筆ずつが画面と新鮮な眼差しで対峙してその場で描かれ、描くことで変化する画面にまた対峙し続けながら描かれることで、絵の全ての部分が必然性を帯びてそこに息づいている様子に似ていて、その音が鳴らされることになったその瞬間が、私が今聞いた音に息づいているということなのかなと思う。私がまだ気が付いていないちょっとしたどの音や歌詞もそうなんだということを思うと、心の奥に届いてくる理由が少しわかる気がした。

 

「見っけ」のアルバムに入っている「ありがとさん」という曲のミュージックビデオを視聴した時、これまでになかったような感情の含まれ方をしているように感じて、また進化していることに驚いた。スピッツの作り出すそのことばや音色が含む様相は、新しい曲が出る度にどんどん複雑にありのままに近づいているように思える。

 

自分が捉えたものや、自分の中で起こることや、そこから作る事や、作られたものには、たくさんの物事が隠れていて、お互いに関係し合いながら存在している。そこにあるどんなに下らなく思える事も、素晴らしい事も、ささやかな当たり前の事も、その存在に気づき確かにあるのだと思えた自分で作ることによって、音や歌詞に新しく含ませることができるのだと思う。

 

私たちがいるこの世界はもともと全てを含んでいる。そのことにひとつずつ向き合うことで、世界の姿に通じるものが生まれるのではないだろうか。それは曲だったり、絵だったり、誰かの振る舞いだったり、発する言葉だったりするかもしれない。それらは、その真ん中で世界やそれぞれの人の真ん中に通じているみたいに、私の真ん中に迫ってくる。そして、世界のありのままの姿が向かう先を予感させてくれる。そんなものを見たり聞いたりすると心がわくわくする。私にとってスピッツの曲もそういうもののうちのひとつだ。

 ■略歴  [Artist Biography]

1990 大阪府生まれ

2010 京都嵯峨芸術大学短期大学部美術学科洋画コース卒業

2012 京都嵯峨芸術大学短期大学部専攻科美術専攻洋画コース卒業

2013 京都嵯峨芸術大学附属芸術文化研究所研究科修了

2013 第28回ホルベインスカラシップ奨学生

 

・個展

2009 京都嵯峨芸術大学アートプレイスU2(京都)

2012 ギャラリー301due(神戸)

2013 Oギャラリーeyes(大阪)

2014 Oギャラリーeyes(大阪)

2015 Oギャラリーeyes(大阪)

2016 Oギャラリー(東京)

2016 Oギャラリーeyes(大阪)

2017 点綴−絵画と日常(Oギャラリーeyes・大阪)

2018 讃む-homuOギャラリーeyes・大阪)

2019 絵のなりかたち(ギャラリーAO・神戸)

2019 しみと点(Oギャラリーeyes・大阪)

 

・グループ展

2010 ただ見てもらいたいんだよね(Art Community Space AKIKAN・京都)

2010 UMINO Yuka×KAWAGUCHI Yoko exhibition

(京都嵯峨芸術大学アートプレイスU2・京都)

2011 Paintingpoint(同時代ギャラリー・京都)

2012 ONEROOM'12(京都嵯峨芸術大学クラブボックス・京都)

2012 Tourbillon 10Oギャラリーeyes・大阪)

2012 GALLERY 301 GROUPEXHIBITIONGallery301・神戸)

2013 ONEROOM'13(京都嵯峨芸術大学クラブボックス・京都)

2013 Container Drawing Project

(神戸ビエンナーレ会場 メリケンパーク神戸港エリア・神戸)

2014  流れる風景(2kwギャラリー・大阪)

2014 les signes3Oギャラリーeyes・大阪)

2015 EXHIBITIONby ZERO!(あかね画廊・東京)

2015 With Art EXPO〜うまれてうれしい〜

(住之江公園・大阪、オランダ大使館・東京)

2015 LA VOZ 21stEXHIBITION(京都市美術館別館・京都)

2016  世界は同時に存在するvol.2(ギャラリー編 かのこ・大阪)

2016 EXHIBITHION by ZERO!(あかね画廊・東京)

2016 LA VOZ 22nd EXHIBITION(京都市美術館・京都)

2017 LA VOZ 23rd EXHIBITION(京都市美術館 別館・京都)

2017  sol nu 一つの黎明 この風の生まれたところ

(嵯峨美術大学付属ギャラリー アートスペース嵯峨・京都)

2018  6花セレクト合同展覧会「夏のあしあと」(6丁目の花野・神戸)

2019 COVER IVCAS・大阪)

2019 ONLY CONNECT OSAKA(クリエイティブセンター大阪・大阪)

2019 LA VOZ 25th EXHIBITION(京都市美術館 別館・京都)

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