●Depth 2019

 

 

■展覧会趣旨 [Purpose of Exhibition]

本展のタイトルである「Depth」とは、奥行きや深度といった距離や深みを意味しますが、私達が日常で体験する奥行は、現在の位置と対象との間隔を測るために視覚あるいは触覚を介在して距離を知覚するといったものです。この他にも2次元による像の中に3次元的な空間や距離を仮想的に知覚するといった奥行もあります。どちらも視覚や体験によってもたらされるものですが、人や社会から派生する親近や敬遠といった距離感、大規模な震災を通じて、平穏と思われた日常と想像を超えた現実との狭間で生じる隔たり等、これらは心的な距離も影響しながら捉えがたい奥行を生起させます。奥行とは距離を知覚しようとする身体と精神、それを取り囲む様々な事象とその背後にあるものと結びついて存在する一空間といえるでしょう。本展では、各作家がそれぞれの視点で「Depth」というテーマを捉え、そのイメージや奥行の有様に焦点をあてます。

OギャラリーeyesO Gallery co.,ltd.

■展覧会テキスト[Text]

depthless

平田剛志(美術批評)

 

Depth 2019」は大野浩志、岡本里栄、山崎亨の3名の作品を通じて、「Depth」(深み、深度、深遠)の現在を見せる展覧会だ。

映像やコンピューターによる3DVRARなど、フラットな液晶画面を介して没入感をもたらす視覚空間が創造されている現代、「depth」を再考することは、絵画や平面の根底を思考することに他ならない。

Depth」の始まりは、「遠近法(perspective)」の発明に由来する。三次元の奥行きある空間を二次元の平面上にあらわす遠近法は、15世紀のイタリア・ルネサンスの建築家フィリッポ・ブルネレスキ、レオン・バッティスタ・アルベルティによって理論化され、レオナルド・ダ・ヴィンチによって完成されたとする空間の幾何学だ。ラテン語で「明瞭に見る」「見通す」を意味する遠近法は、それまでの神話や宗教の世界観から科学的な体系をもつ「Depth」を絵画にもたらした。

だが、19世紀半ばの写真の発明によって遠近法は解体する。パブロ・ピカソの抽象絵画、アンディ・ウォーホルやジャクソン・ポロック等の平面的な絵画、村上隆のスーパーフラットなど、絵画は遠近法の「depth」から平面性、浅さへと解体していくからだ。では、遠近法なき時代の美術において、本展の3作家が生み出す「depth」とは何だろうか。

山崎亨は、彫刻と日用品、支持体と絵画の構造を合成したような立体作品の制作を経て、近年は正方形の紙の工作物をジオラマのように撮影した写真作品を制作している。浅い被写界深度(depth of field)によって生まれる奥行きのイリュージョンは、セザンヌの「自然を円柱・球・円錐によって処理する」形態観のように、立体、平面、写真というメディウムのフレーム間を超える遠近の視差、揺らぎを構造化する。

大野浩志は支持体の表面にペインティングナイフで油彩のプルシャンブルーを何度も塗り重ねる《since》シリーズを20年以上続けている。色彩は何度も塗り重ねられるごとに、絵具層は盛り上がり、波打ち、作家の意図を超えた「在り方/現れ方」を示す。その黒光りするテクスチャーは、絵具の深層にある時間の存在を暗示する。

岡本は、人物をモチーフにブレやボケによる曖昧、抽象的な絵画を描いてきたが、近年は室内に吊るされ、積み重ねられた衣服をモチーフに、ユポ紙にアルキド樹脂絵具で描いている。流動的、触感的な筆触の連なりは平面的だが、鑑賞を通じてモチーフと背景の境界が分離、再構成される揺らぐ絵画空間を創出している。

3作家の技法や素材、表現は異なるが、共通するのは具体的な素材や物質を介した物質の深度であり、見通せない「depth」の距離感だ。山崎は写真の被写界深度によって生成される鏡面的な奥行きのフレームをつくり、大野は絵具と時間の堆積=積層によって生まれる深遠な絵画を生み、岡本はバラバラな物と空間を筆触によって溶け合わせ、鑑賞者の視覚認知によって生まれる絵画空間だ。

遠近法による明瞭で秩序だった世界が解体した現代では、depthとは与えられ、習得する技術ではなくなった。本展3作家の実践が示唆するように、個々人がそれぞれの手法や素材によって探求する答えなき営みのなかに「depth」は現れるだろう。

 ■大野浩志 Hiroshi Ohno

BLUE 18-B1BLUE 18-B2

H41.5×W41.5×D2.8cm2点組) アクリル板、紙にアクリル絵具 2018

BLUE 18-A1BLUE 18-A2

H41.5×W41.5×D2.8cm2点組) アクリル板、紙にアクリル絵具 2018

在り方・現れ方  2019A-6

H64.0×W20.0×D2.0cm コンパネ、桧棒に油彩 20172019

在り方・現れ方  2019A-5

H64.0×W20.0×D2.0cm コンパネ、桧棒に油彩 20172019

 

 ■大野浩志 コメント  [Artist Statement]

私のメイン作品である「在り方・現れ方」は薄い絵具の皮膜が止まることなく長い年月を経て積層して行く。0.01mm 以下の皮膜が積み重ねられ極薄の物理的奥行が形成されていく。

そこに絵画的イリュージョンは存在しない。今回はそういった従来の作品に加えて、アクリル絵具で制作したペインティング作品も展示する。透明アクリル板の裏と表、画用紙の表面と内部への浸透といった現実的空間へのアプローチを駆使しながらも出来上がった作品からは絵画的イリュージョンが際立つ。今回この二種類の作品を呈示することで Depthについて問うてみたいと思っている。

 ■略歴  [Artist Biography]

1961年大阪府生まれ。1984年、大阪芸術大学芸術学部工芸学科を卒業。1985年、不二画廊(大阪)にて初個展を開催。以降、大阪府立現代美術センター(大阪)、信濃橋画廊(大阪)、MAT(名古屋)、NCAF'93(名古屋市民ギャラリー・名古屋)、CUBIC GALLERY(大阪)、ソフトマシーン美術館(香川)、CAS(大阪)、Oギャラリーeyes(大阪)Ami-Kanoko(大阪)等で個展を開催。主なグループ展に、1987年、第4 回釜山ビエンナーレ(釜山/韓国)。1990年、いま絵画は OSAKA'90(大阪府立現代美術センター・大阪)。1992 年、アート・ナウ'92(兵庫県立近代美術館・神戸)。1993年、大野浩志・丸山直文  2 人展(MAT・名古屋)。1994年、時間・美術(滋賀県立近代美術館・滋賀)。1996年、NCAF '96(名古屋市民ギャラリー・名古屋)。2012年、コレクション Vol.1(ソフトマシーン美術館・香川)。2015年、コレクション Vol.2(ソフトマシーン美術館・香川)2017年、日韓交流展「モノと精神」(海岸通ギャラリー・CASO・大阪)2018年、日韓交流展「個体―液体の臨界点はまだ発見されていない」(Space Willing N Dealing・ソウル)等、多数出品。

 ■岡本里栄 Rie Okamoto

Summer blanket

150.0×100.0cm ユポ紙に水性アルキド樹脂絵具 2019

Pillow and towels

150.0×100.0cm ユポ紙に水性アルキド樹脂絵具 2019

Green raincoat

33.3×21.8cm ユポ紙に水性アルキド樹脂絵具 2019

Blue striped shirt

38.4×27.0cm ユポ紙に水性アルキド樹脂絵具 2019

Brown blanket

33.3×24.2cm ユポ紙に水性アルキド樹脂絵具 2019

 

 ■岡本里栄 コメント  [Artist Statement]

薄いヴェールのようなカーテンに木漏れ日によって現れる光と陰の眩さが目に焼きついている。スクリーンに映し出された実体のない幻のようだった。

さっきまで、そこに誰かが寝ていたブランケットやシーツ。誰かが雨に濡れないように着ていたレインコート。身体から離れたそれらはただの布とは言い切ることの出来ない身体の気配をまとっている。私はそれらを身体の抜け殻と捉えている。

この抜け殻を透けるように薄い紙の上に描くことで、あの眩い幻のような身体の在処を探っている。

 ■略歴  [Artist Biography]

1988年、滋賀県生まれ。2014年、京都精華大学芸術研究科博士前期課程洋画領域修了。2012年、Gallery PARC(京都)にて初個展を開催。以降、Oギャラリーeyes(大阪)、Oギャラリー(東京)にて個展を開催。主なグループ展に、2009年、シェル美術賞展2009(代官山ヒルサイドフォーラム・東京)、第63回滋賀県美術展覧会(滋賀県立近代美術館・滋賀)。2010年、2010京展(京都市美術館・京都)、トーキョーワンダーウォール2010公募(東京都現代美術館・東京)、第23回 美浜美術賞展(福井市立美術館・福井、他)。2011年、See Here!Gallery PARC・京都)、2011京展(京都市美術館・京都)。2013年、京都府美術工芸新鋭展 2013京都美術ビエンナーレ(京都府京都文化博物館・京都)、2013京展(京都市美術館・京都)、科学のあとに詩をかくこと(galerie16、京都精華大学・京都)。2014年、私達の呼吸は浅い−Never forget our breath−(gallerie16・京都)、Semantic portrait 2Oギャラリーeyes・大阪)2015年、Sign of HappinessAntenna Media・京都)。2016年、みんなみにいく み・な・み・く エキシビション(ヒスロム作業場[仮称・東九条長屋]・京都)、びわ湖☆アートフェスティバル次世代文化賞受賞者展(滋賀県立近代美術館ギャラリー・滋賀)。2017年、icon いま人を描く。岡本里栄・四間丁愛(成安造形大学【キャンパスが美術館】ギャラリーアートサイト・滋賀)、WAC(ギャラリー菊・大阪)。2018年、ART FESTIVAL BORDER!(みやこめっせ・京都)。2019年、さとやま−ギャラリ (Gallery OUT of PLACE NARA・奈良)等、多数出品。

 ■山崎 亨 Toru Yamasaki

ツツヌケ−tyakui

25.7×36.4cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

眼のドライブ−Highway

33.3×58.9cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

眼のドライブ−Lose focus

56.8×84.5cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

ツツヌケ−mitosu

23.5×41.5cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

カドガタツ

20.2×28.5cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

ツツヌケ−datui

29.3×41.5cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

眼のドライブ−此処彼処

17.6×24.6cm 写真(越前和紙にプリント) 2019

 

 ■山崎 亨 コメント  [Artist Statement]

ソコにある何ラカのdepth

 

ソコにある紙で何ラカをこしらえテ。世界を獲らずにつくって撮ることヲ。大事な紙も忍ばせル。シャッターを押せば付いてくるdepthは光景とともにやってくル。でも作り込んではいけなイ。お見事の記録としてのソレではなく微かな仕草だけの工作を撮ル。茫漠として焦点を失うコトもアル。用紙の凹凸と焦点を探す眼差しはスレ違ったり、一致したり。ソコにもdepthはアルが余計なモノは映らなイ。写真機はシャッターの開いたその時間の光と闇の有り様を受け止めル。光景サイズは可変だがソレを決めて展覧会と成ル。

 ■略歴  [Artist Biography]

1960年、大阪府生まれ。1982年、大阪芸術大学芸術学部美術科を卒業。1982年、靭画廊(大阪)にて初個展を開催。以降、シティギャラリー(神戸)、オンギャラリー(大阪)、ギャラリービュー(大阪)、サイギャラリー(大阪)、ギャラリーNWハウス(東京)、ギャラリーココ(京都)、信濃橋画廊(大阪)、GALLERY wks.(大阪)等で個展を開催。主なグループ展に、1984年、ザ・カンサイ(ギャラリーパレルゴンU・東京)。1986年、アート・ナウ'86(兵庫県立近代美術館・神戸)。1989年、次代を担う作家たち展(京都府立文化芸術会館・京都)。1990年、脱走する写真−11の新しい表現(水戸芸術館現代美術ギャラリー・茨城)。1992年、彫刻の遠心力−この10年の展開(国立国際美術館・大阪)。1993年 美術の中のかたち−手でみる造形(兵庫県立近代美術館・神戸)。1994年、身体美術感(ハラミュージアムアーク・群馬)、眼の宇宙−かたちをめぐる冒険(兵庫県立近代美術館・神戸)。1995年、済州道プレ・ビエンナーレ'95(アート・センター・韓国)。1996年、美術鑑賞ってなんだろう(芦屋市立美術博物館・芦屋)、ハンド・メイド・オブジェ(滋賀県立近代美術館・滋賀)。2000年、Art Contact(名古屋市民ギャラリー・名古屋)。2019年、COVER W(CAS・大阪)等、他多数出品。パブリックコレクションとして滋賀県立近代美術館(滋賀)、兵庫県立美術館(神戸)に作品収蔵

 

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