山内裕美 Yumi Yamauchi

 

M.T 03

162.0×162.0cm カンヴァスに油彩 2019

M.T 05

162.0×162.0cm カンヴァスに油彩 2019

R.M 03

33.3×33.3cm カンヴァスに油彩 2019

M.T 04

33.3×33.3cm カンヴァスに油彩 2019

M.T 07

33.3×33.3cm カンヴァスに油彩 2019

study for A.H

24.0×30.0cm 紙にウォータレスリトグラフ 2019

first impression

91.0×91.0cm カンヴァスに油彩 2019

ざわめき_ざらつき03

18.0×18.0cm カンヴァスに油彩 2019

ざわめき_ざらつき04

18.0×18.0cm カンヴァスに油彩 2019

名称未設定のドローイング

29.7×21.0cm トレーシングペーパーに鉛筆 2019

 

 ■展覧会テキスト[Text]

絵画の貌

平田剛志(美術批評)

 

何を描いたらいいのかわからない。このような問いが画家から発されるとき、描くことが職能である画家像からすれば矛盾した問いに聞こえるだろうか。

 かつて絵画で描かれた宗教や神話、物語、歴史画や風景画などは写真や映画によって再現、視覚化されるようになり、現代絵画では再現機能は必須ではなくなった。では、いま絵画では何を描くことができるのか。

 その試みは多様だが、山内裕美にとっては、何を描くかではなく、何で描くのかを選択することで絵画を探求してきた。それは版画と油絵具だ。

 山内は、京都精華大学で版画分野を専攻し2003年に大学院を修了。活動初期は樹木や木漏れ日などの写真をもとに、ドットを用いた版画作品(リトグラフ)とアクリル絵画によって、見ることの曖昧さや距離感を抽象的な画面として定着させた。

 2010年からはどう描くかという方法論ではなく、「描くというよりも触るといった方がしっくりきます」 (1) と書くように、油絵具の物質性との関わりによって生まれる抽象絵画を描き、作風を大きく変える。

 そして2014年には、「顔、中でも個人的にとりわけ違和感を覚える顔」(2) をモチーフとした絵画に着手する。具体的にはSNSSocial Networking Service)に投稿された写真で目にする女子アナウンサーの顔を題材としている。

 だが、画面を見ればわかるように、山内の絵画は容貌を描くことが目的ではない。華やかな女子アナに対する羨望や偏見、嫌悪といった負の感情を抱きながらも、見ずにはいられない複雑な想念を油絵具という媒材を通じて描くのだ。山内の抽象絵画の背後には、本能的、生理的な感情、矛盾が潜んでいる。

 このような写真イメージをキャンバスに描写・転写する際の変容とズレ、多層的な画面構造や筆触への関心は、山内がかつて学んだリトグラフに由来するかもしれない。

 リトグラフとは、画家が描くイメージが直接、石版 (3) に記録され、水と油の反作用を利用して紙に印刷する化学的な版画技法である。山内は、リトグラフで経験した石版の肌触り、水と油、溶剤の化学変化によって生まれるイメージの転写、支持体の石の重さと刷り上がる版画の軽さ、描画の自由さと印刷の不自由さという矛盾する性質・特徴を、油絵具を通じて行おうとしているのではないか。なぜなら、油絵具がリトグラフよりも直接的で流動的、より画家との関係性や偶然性を含んだ描画材だからだ。

 つまり、水と油が反発する性質のリトグラフに対して、山内は自身が嫌悪を抱き執着する女子アナというモチーフと油絵具とが触れ合うことにより、虚像である女子アナの顔面とは異なる新たな画像を平面に描出、転写するのだ。

 かつて三脇康生は山内の個展に際し、「山内が抱え込んだ不自由さは色彩のためにこそあるような気がする。死んでいるのか、生きているのか分らないイメージに、人間的に右往左往させられないで済む方法とは、色彩のイメージからの解放であろう」(4) と書いたが、まさに「死んでいるのか、生きているのか分からないイメージ」とは、現代のメディアやSNSで日々映るメイクや画像加工を施された「顔」だろう。それらの「顔」から色彩を解放した山内の抽象絵画は、かつて見たことのない絵画の貌をしている。

 

1. 2010年−個展(作家ステートメント)

2. 2014年−個展(作家ステートメント)

3. 石版のほかに金属版、PS版、ウォータレスリトグラフがある。

4. 三脇康生「色彩について」

2003-個展[テキスト]会場:Oギャラリーeyes

 

 ■山内裕美 コメント  [Artist Statement]

きっかけは日々の暮らしの中でふとした拍子に不用意に目にし、「モヤっとくる」程度の、小さな感情である。

しかしその感情はどんどん増殖し、ざらっとした感触の違和感として、いつまでもこびり付いている。

切実とは言えない、言いようによっては空虚で軽薄とも言える自身の感情の揺れを画面に油彩というメディウムを用いて、レイヤー状のヴェールの積層として描き出すこと

で、油彩ならではの独自の画面を作りたいと考えている。

些細で個人的な感情を起点とし、今という同じ時代を生きる人の 心の琴線に、少しだけでも触れることはできないだろうか?普遍的な抽象空間を構築することはできない

だろうか? ということを試みている。。

 ■略歴  [Artist Biography]

1976 兵庫県生まれ

2001 京都精華大学芸術学部造形学科版画分野卒業

2003 京都精華大学大学院芸術研究科造形専攻修了

 

・個展

2002 アートスペース虹(京都)

2003 Oギャラリーeyes(大阪)

2005 アートスペース虹(京都)

2006 Oギャラリーeyes(大阪)

2007 Oギャラリーeyes(大阪)

2008 Oギャラリーeyes(大阪)

2008 アートスペース虹(京都)

2008 OギャラリーUPS(東京)

2009 Oギャラリーeyes(大阪)

2010 Oギャラリーeyes(大阪)

2011 Oギャラリーeyes(大阪)

2013 Oギャラリーeyes(大阪)

2014 Oギャラリーeyes(大阪)

2017 Oギャラリーeyes(大阪)

 

・グループ展

1999 tabula rasa 1999(京都市四条ギャラリー・京都)

2000 二人展(art boxアンフェール・京都)

2001 KINO PRINT(平安画廊・京都)

2001 第7回 韓・日大学版画交流展(弘益大学現代美術館・韓国)

2002 Work in progress '02(ギャラリーアーティスロング・京都)

2002 第8回 韓・日大学版画交流展

(京都精華大学ギャラリーフロール・京都)

2002 主張テン(ギャラリーアーティスロング・京都)

2002 第27回 全国大学版画展(町田市立国際版画美術館・東京)

2003 第9回 浜松市美術館版画大賞展(浜松市美術館・静岡)

2004 トゥールビヨンU(Oギャラリーeyes・大阪)

2004 UI Wang−国際プランカードアート2004(イワン市Pegun湖岸・韓国)

2006 3人展-3styles derived from print making(ギャラリー三条・京都)

2006 The new edge of art

(京都嵯峨芸術大学・ギャラリーアートスペース嵯峨・京都)

2007 Between the scene and the form 07Oギャラリーeyes・大阪)

2007 International Exchange Project Japanese Young Artists TRIAL in

PaintingIncheon Modern Culture Center・韓国)

2007 After Math program No.2 four quarters of a scene 4分の4の光景

The Art complex Center of Tokyo・東京)

2009 ひかりのどけき春−榊原ようこ・山内裕美二人展

(コウイチファインアーツ・大阪)

2010 “global connections and implicationsLouisiana State University

150th AnniversaryLouisiana State University・アメリカ)

2011 想像の森−奥田文子・奥田耕司・山内裕美三人展

(コウイチファインアーツ・大阪)

2012 The 13th Anniversary Pre ExhibitionKICKS

Oギャラリーeyes・大阪)

2013 Harmony・平和展(コウイチファインアーツ・大阪)

2016 STUDIES/Lithograph -リトグラフの方法について-

kara-Sギャラリー・京都)

2016 Enigmatic behavior なんで年寄って真夏に熱いお茶を好んで飲むの?

Oギャラリーeyes・大阪)

2017 トゥールビヨン 0Oギャラリーeyes・大阪)

2017 Stone Letter Project−石からの手紙#1

(宝塚大学 gallery TRI-ANGLE・兵庫)

2017 非在の庭 最終章(アートスペース虹・京都)

 

・パブリックコレクション

町田市立国際版画美術館

京都精華大学

 

・参考文献

三脇康生:「山内裕美 展」Oギャラリーeyes 2003 個展リーフレット(テキスト)

原 久子:「art scape20031115日号(レビュー)

小吹隆文:「art scape2007717日号(レビュー)

太田垣 實:「The new edge of art展」カタログ(テキスト)

酒井千穂:「art scape200841日号(レビュー)

平田剛志:「カロンズネット」2010930日号・編集部ノート(レビュー)

酒井千穂:「art scape20111215日号(レビュー)

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