西村みはるとENK DE KRAMER

 

 

 展覧会テキスト[Text]

一度もお会いした事もないエンク・デ・クラマー氏にこんな事を言っては失礼かもしれないが、作品と出会う度に、私は亡くなった父親に会うような、胸のキュンとする思いに包まれる。なぜそんな気持ちになるのかを深く考えたことはなかったが、作品の多くに見られる墨色の温かな黒や錆びを連想させる朱の色に、私のDNAが刺激されるからなのかと、ぼんやりと思い始めていたところだ。

しかし2016年に見た作品には、その黒も朱もほとんど使われていなかった。にも関わらずエンクカラー(と勝手に私が呼んでいる)がそこにはしっかりと感じられ、息遣いが溢れ出ていたのである。それは私にとってある意味衝撃であったが、お陰で勝手な色の先入観から解放され、作品の小さな要素にも目が向くようになった。正直に言うと、私は好きな作品に限って、できるだけ細部を読み込まないように見る(観る)癖がある。初めの印象が弱まることをどこかで回避しているのかもしれない。しかしもっともっと見るべきだったと今更ながら思う。銅版画が持つ独特のかすれや、版の重なりによる複雑な色層、日常のどこかに存在していそうな形態やその断片、それらの全てが不思議なくらい心に染み込んでくる。インクの微かなにじみが物事の追求を少し曖昧にさせて、私に新たな想像と懐かしさを突きつけてくる。今年はここで、エンク氏にようやく会える気がしている。

 

西村みはる氏に会ったのは、秋も暮れかかった日曜の午後であった。短い挨拶を交わした後、彼女は少しはにかみながらいくつものドローイングを取り出し、机の上に一つ一つ丁寧に並べることで、言葉の代わりにたくさんの話をした(ように私には感じられた)。

土佐和紙のザラついた表面に、あえて引っ掛かりを持ちながら進むオイルスティックの黒は、静かな中に潜む芯の強さを感じさせ、洋菓子店の紙袋に直接描いた軽やかな線は、その浮遊感が心地よい。また彼女の作品の特徴でもある「余白」と一般的に言われる「描かれていない部分」についても、単に図と地の関係を探っているだけではないことが、他の多くの作品からも伝わってきた。彼女は描かないところをもっとも描く。

一旦描き出したならその着地点を見失わないよう五感を研ぎ澄まし、慎重さと大胆さの両方を、一瞬の判断で画面に放り込むのだろう。『絵の周囲が大切なんです』と言った西村氏の言葉の奥を読み取るならば、彼女を取り巻く自然や家族、そして日々の小さな出来事が生み出すさまざまな空気感こそが、絵を鮮度ある形に決定づける大切な要素なのだと思えた。作品の成り立ちに比べて、タイトルが長く詩的であることは意外な気もするが、彼女の詩的な感覚に触れた後に再び作品に目を戻してみると、描かれていないところの芳醇さに改めて気付かされるのである。

渡辺智子(美術家)

 

西村みはる Miharu Nishimiura

行きたいのに行けない

31.5×50.0cm 和紙にオイルスティック、木炭 2016

枯れ葉が舞うように体に結びつく

64.0×101.0cm 和紙にオイルスティック、木炭 2016

見上げた空の先に小さな飛行機

64.0×101.0cm 和紙にオイルスティック 2017

息を詰めて歩く 太陽の下

50.5×64.0cm 和紙にオイルスティック、木炭 2016

小さな手から軽やかな雪の実

50.5×64.0cm 和紙にオイルスティック 2016

強い風と向かいあうと

28.5×24.0cm 紙袋にオイルスティック、木炭 2017

 

 ■西村みはる 略歴  [Artist Biography]

1974年、大阪生まれ。1997年、大阪芸術大学芸術学部美術学科を卒業。2000年にOギャラリーeyes(大阪)にて初個展を開催。※以降、同ギャラリーにて継続的に開催。2003年、アートスペース虹(京都)にて個展を開催。主なグループ展に、1999年、絵画劇場(Oギャラリーeyes・大阪)。2000年、誘発の相貌(Oギャラリー・東京)、2001年、波走の紡ぎ(Oギャラリーeyes・大阪)。2002年、ボーダー・見えるものと見えないもの(マサシ・ヤマギャラリー・東京)。2005年、SOURA05Oギャラリーeyes・大阪)。2007年、In MotionOギャラリー・東京)。2009年、第1 YOKOHAMA ART DOMAIN展(横浜赤レンガ倉庫・横浜)。2011年、SOURASAISAI展(Oギャラリーeyes・大阪)。2012年、ドラッグ&ドロップ(Oギャラリーeyes・大阪)。2013年、Kyoto Current 2013(京都市美術館別館・京都)。2014年、Absolute basis 沓澤貴子と西村みはるの場合(Oギャラリーeyes・大阪)に出品。

 

エンク デ クラマー Enk De Krame

untitled16-M1

34.0×50.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2016

untitled16-S4

25.0×34.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2016

untitled16-S3

25.0×34.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2016

untitled16-S8

25.0×34.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2016

untitled16-L1

44.0×63.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2016

untitled16-M3

34.0×50.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2016

 

 ■エンク デ クラマー 略歴  [Artist Biography]

1946年、ベルギー生まれ。ベルギーとユーゴスラビアの大学でアートを学び、1969年よりベルギーにて個展を開催。その後、ドイツ、フランス、イタリア、日本等、国内外の展覧会に多数出品。当画廊では2000年より定期的に個展を開催。2004年には名古屋芸術大学の招聘により、特別客員教授としてベルギーより来日、同大学にて公開制作と個展を開催。現在はベルギー/ゲントに滞在。2011年、名古屋市民ギャラリー矢田(愛知)で開催されたファン・デ・ナゴヤ美術展2011「黒へ/黒から」展や、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(京都)で開催された「日本・ベルギー版画国際交流展」に出品。2012年、日本版画協会主催の第80回記念版画展「Prints Tokyo 2012(東京都美術館・東京)に招待出品。2017年、セントニクラウス市美術館(ベルギー)にて個展を開催。

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