エンク デ  クラマーと渡辺信明

 

 

■展覧会テキスト[Text] 

−エンク デ クラマー氏について−

エンク氏の作品を目にしたのは、2014年の冬だった。今回のこのテキストを依頼されてから、その時に観た作品の記憶と画集を頼りに、エンク氏とはいったいどんな人物なのか?と想いを巡らせていた。逢ったこともない、遠くはベルギーで暮らすエンク氏は私にとって謎に満ちた人物だった。

私自身の話になってしまうが、私は明け透けで自分でも疲れてしまうぐらいガチャガチャとした性格をしている。そして、エンク氏はそんな私とは真逆な人物なのではないかと思っている。根拠はあるようなないような、あやふやではあるが画集を眺めていると、憧れと共にそんな気がしてならないのだ。

エンク氏の作品は、寡黙で穏やかだ。真摯に仕事を積み重ね、新鮮な絵心と高い技術で味わい深い作品を造りあげている。とても深くて優しい絵だと思う。作品に用いられている「ドライポイント」という技法は、銅板に直接傷をつけながら版にしていくことを指すそうだ。ピカピカの銅板に傷をつけ、次は色を置き、そしてプレス。そんな「手順」に基づいた作業から、あのライブ感のある線、色、テクスチャーが生まれているのだと思うと、ゾクゾクとする。そして再度作品を眺め愛おしい気持ちが込み上げてくる。

画集の最後にエンク氏のポートレイトが掲載されている。はっきりとした顔立ちの、少し神経質そうなモノクロ写真。私は彼のことをあまり知らない。だから彼のことを勝手に想像する、恋心にも似た気持ちで作品を愛でている、私は彼の作品が好きだ。だからこそそれは、私にとってとても幸福な空想なのだ。

 

−渡辺信明氏について−

「お日さんの力で、こんなにも甘くなるんやなぁ。」と渡辺氏が言った。

去年1116日、ご自宅兼アトリエに訪問させて頂いた際、自家製の干し柿をふるまって頂いた時のことだ。もともとは渋柿だったらしいそれは、渡辺氏のおっしゃる通り驚くほどに甘かった。

広々とした平屋、その奥にあるアトリエは白く明るく壁面には描きかけの大作が凛と並んでいた。そこで、渡辺氏のドローイングをはじめて拝見した。

そのドローイング作品は軽くて重たくて温かくて冷たくて不思議な感じがした。なんだか飄々としていて、優しくエッジの効いた線が踊り、下地のにじみは歌っていた。それに、うかつなことが言えない気がして少し困った。しかし、それは確かに魅力的で、そんなふわりとした困惑は心地の良いものだった。

気が付けば日も暮れていて「薪ストーブで温まりましょう。」と、渡辺氏は手際よく段取りをして、ストーブの中の薪に火をつけた。部屋も温まり炎も落ち着いてきたころ、なにやらストーブを操作しはじめた。ストーブから延びる黒い棒を渡辺氏が丁寧にひねる。すると炎は弱々しくなった薪から離れ、単独、炎のみで空中を生き生きと動きはじめた。「オーロラ炎」と名付けられたその炎に、私は心を奪われた。本当に素敵だった。そして、ふと隣を見るとそこには出来上がった炎を満足そうに眺める渡辺氏がいた。それは私にとってとても理想的な「絵描きの横顔」だった。

理想の絵描きとは、のんびりと太陽に感謝し、音楽を奏でるように描き、夜には炎を操るのだ。

 

高野いくの(美術家)

 

渡辺信明 Nobuaki Watanabe

稲妻ドローイング

38.0×30.0cm 水彩紙にアクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング

38.0×30.0cm 水彩紙にアクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング

38.0×30.0cm 水彩紙にアクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング

38.0×30.0cm 水彩紙にアクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング

102.5×73.0cm 水彩紙に墨、アクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング

102.5×73.0cm 水彩紙にアクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング

102.5×73.0cm 水彩紙に墨、アクリル、グラファイト 2015

稲妻ドローイング(2点共)

44.0×35.0cm 水彩紙にアクリル、グラファイト 2015

 

 ■渡辺信明  略歴 [Artist Biography]

1962年、滋賀県生まれ。1988年、京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了。19941995まで渡米(アメリカ/ニュージャージー州)。1987年、ギャラリー16(京都)にて初個展を開催。以降、ギャラリーすずき(京都)、ギャラリー白(大阪)、複眼ギャラリー(大阪)、ギャルリ・プス(東京)、テンバ・Aギャラリー(大阪)等で個展を開催。主なグループ展に、1991年、現代美術 '91−素材はいろいろ−(徳島県立近代美術館・徳島)、次代を担う作家展(京都府立文化芸術会館・京都)にて優秀賞を受賞。1992年、筆跡の誘惑−モネ、栖鳳から現代まで−(京都市美術館・京都)。 1994年、アート・ナウ'94−啓示と持続−(兵庫県立近代美術館・兵庫)。1996年、VOCA'96現代美術の展望(上野の森美術館・東京)。1999年、風の芸術展(枕崎市文化資料センター・鹿児島)にて準大賞を受賞。2001年、京展(京都市美術館・京都)にて京展賞、京都市美術館賞を受賞。2003年、吉原治良賞展(大阪府立現代美術センター・大阪)にて優秀賞を受賞。市展から京展へ、京都市美術館コレクション展(京都市美術館・京都)。2007年、“ダイアローグ”コレクション活用術vol.2(滋賀県立近代美術館・滋賀)。2008年、京都美術ビエンナーレ(京都府立文化博物館・京都)等、多数出品

 

エンク デ クラマー Enk De Kramer

untitled (14-S1)

34.3×50.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2014

untitled (14-S6)

34.3×50.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2014

untitled (14-S8)

34.3×50.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2014

untitled (14-S10)

24.5×33.5cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2014

untitled (14-S9)

24.5×33.5cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2014

untitled (13-08)

50.0×68.0cm 紙にカーボランダム、ドライポイント等 2012

 

 ■エンク デ クラマー 略歴 [Artist Biography]

1946年、ベルギー生まれ。ベルギーとユーゴスラビアの大学でアートを学び、1969年よりベルギーにて個展を開催。その後、ドイツ、フランス、イタリア、日本等、国内外の展覧会に出品。当画廊では2000年より定期的に個展を開催し、2004年には名古屋芸術大学の招聘により、特別客員教授としてベルギーより来日、同大学にて公開制作と個展を開催。現在はベルギー/ゲントに滞在。画面から滲み出るような色彩と絡みつくような線を銅版画やドローイングといった技法で表現し、植物図鑑から抜き取られたようなイメージをコラージュする等、多様な造形性が混在する作品を制作。昨年、名古屋市民ギャラリー矢田(愛知)で開催されたファンデナゴヤ美術展2011「黒へ/黒から」展や、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催された「日本・ベルギー版画国際交流展」に出品。2012年、日本版画協会主催の第80回記念版画展「Prints Tokyo 2012」(東京都美術館)に招待出品。他、数多くの個展、グループ展に参加。

 

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