東邦フランチェスカ「E.E.Jenny Selection

 

E.E. Jenny Selection(ふたつの場所)

インスタレーション 2014

 

 ■E.E. Jenny (東邦フランチェスカ 代表) コメント  [Artist Statement]

昨年の10月、派遣の仕事を終えて帰宅した私は、ベッドの上に座ってビールを飲んでいると、スマホの着信音が鳴った。

画廊(Oギャラリーeyes)からのメールで、私が属しているグループ“ 東邦フランチェスカ”の展覧会を翌年8月に開催するという内容だった。

今回、私がグループの代表を務めることになり、展覧会の方向性などを考えなければならないのだが、ものぐさな私は、作品や展示の内容について毎日1015分ほど考えたあと、音楽を聴いたり雑誌を読むなど趣味に時間を費やす。

元々時間をかけて思考することに抵抗があり、かつて経験した恋愛と同じく、深く考えたところでさほど実りがないからだ。

その年の大晦日、紅白歌合戦を見ながらゴールデンボンバーの出番を横目に歯磨きをしているときだった。

突然、祖母の家の庭と、画廊の中の様子がスライドショーのように頭の中を駆け巡る。

何か切掛けがあって記憶から引き出されたのかもしれないが、一瞬の出来事にしてはかなり鮮明であったことと、縁もゆかりもないふたつの場所が同時に思い浮かんだことに驚いた。(前日、友人からインドみやげで貰った歯磨き粉の臭いが原因?)

その日は奇妙な感覚を抱えたまま新年を迎え、その一週間後、大晦日に体験したことを消化するため、午後から祖母の家を訪ねる。

実家からほど近く、古い木造の一軒家に祖母は住んでいる。老朽化が進み、昨年末より外壁をリフォーム中で、一部の壁がブルーシートで覆われている。

家のわきを抜けて、庭の前に立ってみると、玄関から縁側手前まで続くブルーシートに太陽の光が反射して、庭の様相も微かに青みをおびていた。

その情景がとても美しく印象的だったせいか、大晦日の夜の出来事も、まるで役割を終えたかのように私の中から薄れて行く。

しばらく庭を眺めていたら、その場がなんだか愛おしく思え、足元の芝を軽く撫でたあと、祖母の家をあとにした。

その後は画廊へと向かうため、バスと電車を乗り継いで移動。

午後7時過ぎ、画廊に到着。中に入らせてもらい展示室や事務所を散策してみる。

独特の緊張感を放つ展示室とは対照的に、事務所は雑多にものであふれていた。

展示室の壁材からゲストルームにあるチラシやポストカード、事務所の机の上などを観察しながら、外から見えない場所も探りたいという欲求にかられる。

冷蔵庫のドアを開けてみたり、机の中も少し覗かせてもらったのだが、なんだか知らない人の家の中を物色するような、あるいはトレジャーハンター気分でお宝を探す感じ?で、ちょっと興奮。

一通り観察を終えた後、その場にあるものを今度の展覧会で使わせてもらえないか画廊に相談してみる。

社外秘に該当するものや個人情報に関するもの以外であれば、利用して構わないというお許しが出たので、その日のうちにプランをまとめメンバーに連絡、打合せと新年会を兼ねて翌日曜日に集まる事になった。

打合せの日、梅田駅近くのお初天神通りの居酒屋で、大晦日の夜から現在に到るまでの一連の流れをメンバーに説明したところ、画廊の中(主にゲストルームや事務所内)にあるものを用いてアレンジを加えながら制作を行うことになった。

今回のDMも、こちらでオリジナルの写真は用意せず、画廊のパソコン内から見つけた画像(事務所の写真)を、同じシチュエーションで撮影を行い、二次創作的にリメークを施したものを使用している。

展覧会に関しては、あらためて祖母の家と画廊を取材し、展示のイメージを考えた。

懲りすぎず、見え方がシンプルであることや、あまり多くのものを組み合わせないこと、ものとしての気配や存在感を損なわないように展示すること等をメンバーにお願いした。

結局、大晦日の夜の出来事は消化されないまま、展覧会のネタにしてしまったけれど、日常の中でのほんの一瞬、私の中で浮上してきた映像や発想は、画廊内のものや空間と交錯し、思いもよらない世界が体現されるのだろう。

色々探ってみて、お宝は見つからなくても、ものに触れ、何かをつくりながら心躍るような体験が出来ればステキに思う。

展覧会前に事務所の中を物色させてくれた画廊の皆様、私のオーダーに応えてくれた“東邦フランチェスカ”のメンバーに心から感謝。

そして、Oギャラリーeyes開廊15周年、おめでとうございます。

 ■E.E. Jenny 略歴  [Artist Biography]

2010年より“東邦フランチェスカ”のメンバーとして活動を開始。2011年にOギャラリーeyes(大阪)で開催された展覧会「The Galaxy−パラノイア銀河」では、ワイシャツにドリッピングとデコレーションを施した作品「君とYシャツとGalaxy」を発表。2012年、既成の素材を組み合わせて断熱機能を謳った作品「断熱式」や、小型のソーラーパネルを観賞用に仕立てた作品「光電式」等、安価な素材でエコに関わる製品の機能性を装った作品を発表する。2013年、Oギャラリーeyes(大阪)で開催された「ENK DE KRAMER」展のテキストを担当。

■東邦フランチェスカ 略歴 [Artist Biography]

2009年に結成。2010年に開催された「ENK DE KRAMERと東邦フランチェスカ」展(Oギャラリーeyes・大阪)では、戦争や宗教画等を対象に写真や図版を下敷きにしたドローイング作品を発表。様々な歴史や政治的背景を画面上で扱いながらも、それらを抑え込むように上から描画を施し、情報の真意を実体として捉えることが出来ない不安や不信感を感覚的に描き重ねた作品を制作。同年に開催された「未来は僕らの手の中」展に出品された作品は、胎児の写真を用いて、命の営みとそれを取り囲む痛みや希望が混在する世界をイメージして描いた作品を発表。2011年、「The Galaxy−パラノイア銀河」展(Oギャラリーeyes・大阪)では、E.E. Jennyが作品制作を担当。2012年、開廊13周年記念展「KICKS」(Oギャラリーeyes・大阪)にて、米軍機MV22(オスプレイ)と山口県岩国市でのデモ集会の集合場所(地図)を描いたドローイング作品を出品。

東邦フランチェスカ初の個展となる本展は、代表を務めるE.E. Jennyの過去の経験、記憶の中から特定のシチュエーションを選択し、そこからイメージされたものを画廊の事務所内にある物品(文具や工具、雑誌、地図、ラジオ受信機等)を用いてインスタレーションを行う。この展覧会は「3.11以降、震災や原発の影響で日常が瞬く間に非日常化してしまうという現実を突き付けられ、ものや素材に関わる意識の変革は大きかった」というメンバー全員の共通認識を経て、日常での出来事を軽やかにモノへ暗示させるという試みの場となった。

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