エンク デ  クラマーと柴田麻衣

 

 

■展覧会テキスト[Text] 

エンク デ クラマーの作品から感じるのは湿り気を帯びたような色彩-赤、茶褐色、黒、青などの色面と、動物の背骨を思わせるものや、何かしら器のような形態が有機的に織りなす画面構成。そして、その中にある、ときには鋭くときには執拗なまでに重なり合う筆致によってもたらされる緊張感です。一方、柴田麻衣の作品で描かれているのは風景です。ただ風景といってもありのままのものではなく、作家本人が旅先でみた風景やそこから誘発されたイメージ、歴史的事象などを再構築したものです。具体的には自然空間-空、雲と地平線等の中に、植物、ボート、構造物といった様々な形体が画面に対し比較的小さく描かれています。また、近づいてみると、それぞれは不規則かつ小刻みに振幅しながらかたちづくられ、重層的に構成されているのが判ります。

性別、世代、国籍は異なり、その出自において共通項が多いとはいい難い上記2名の作家ではありますが、その作品について考えていくと不思議と似通ったものをみてとることができます。まずひとつは絵画の構造、レイヤーについてのことがらです。エンク デ クラマーにおいては、展開される空間において暴力性と寛容、反発と共鳴といった、対照的な要素を抑制し纏め上げる手段としてレイヤーが機能しています。柴田麻衣の作品では物理的なレイヤーによってもたらされる距離感に、モチーフが内包する物語の中にある隔たり(時間軸におけるものであったり、心理的なものであったり)を暗示させているようにみえます。

そしてもうひとつは、画面における肌理の魅力についてです。エンク デ クラマーの作品はカーボランダム・ドライポイント・コラージュという技法を用い、版を介して間接的に描かれているにも関わらず、インクや版材の生々しさが感じられ、紙の風合いと相俟って、そっと撫でてみたくなるような気配が漂っています。柴田麻衣は稜線の部分において、自らの癖を消去するためにマスキングを使用しているといいます。この作業の痕跡であるところの稜線は画面の隅々まで張り巡らされ、あたかも呼吸しているかのようです。

それぞれの作品(絵画空間)の中に描かれている世界観もさることながら、その立ち上がりようにも想像を巡らせてみたいと感じます。描かれた線を、プレスされた凹凸を、眼でなぞる。時間をかけてゆっくりと、何度も繰り返したりして。視覚だけでなく、日頃眠っている感覚を喚起して、丁寧に味わうように。あるいは各々の作家の目線を、身振りを追体験するように。この展覧会にはそんな愉しみも与えられているのではないでしょうか。

 

                                    山内裕美(美術家)

 

柴田麻衣 Mai Shibata

cold time "Bridge"

97.0×388.0cm パネルにアクリル絵具 2013

cold time "Fence"

162.0×130.3cm パネルにアクリル絵具、オイルバー 2013

cold time "Gate"

162.0×130.3cm パネルにアクリル絵具 2013

purple sea  #2

27.3×45.5cm パネルにアクリル絵具 2013

purple sea  #1

27.3×45.5cm パネルにアクリル絵具 2013

Blue hole #2

29.6×21.0cm パネルにアクリル絵具 2011

 

 ■柴田麻衣 略歴 [Artist Biography]

1979年、愛知県生まれ。2002年、名古屋芸術大学版画専攻を卒業。2004年、同大大学院造形専攻同時代表現研究を修了。2004年、ギャルリーDECO(名古屋)にて、初個展を開催。以降、ギャラリーSUZUKI(京都)、ギャラリー芽楽(名古屋)にて個展を開催。主なグループ展に、2007年、版の方法論-京都と名古屋から(海岸通ギャラリーCASO・大阪)。2009年、outpos展(ギャラリーAPA・名古屋)、International visual artists workshopRemisen academy in Brande・デンマーク)。2010年、愛知アートの森・堀川(東陽倉庫・名古屋)、Japani scher Blick:Kunstler aus Japanpunp werk in Siegburug・ドイツ)。2011年、CROSSING OVER The SEA(愛知芸術文化センター・名古屋)。2012年、A tree of peace from JapanNordic House・フェロー諸島/デンマーク)。2013年、VOCA2013(上野の森美術館.東京)にて“奨励賞”を受賞

 

エンク デ クラマー Enk De Kramer

untitled13-2

34.3×50.0cm カーボランダム、ドライポイント等 2013

untitled13-3

34.3×50.0cm カーボランダム、ドライポイント等 2013

untitled13-4

34.3×50.0cm カーボランダム、ドライポイント等 2013

untitled13-7

24.5×33.5cm カーボランダム、ドライポイント等 2013

untitled13-8

24.5×33.5cm カーボランダム、ドライポイント等 2013

 

 ■エンク デ クラマー 略歴 [Artist Biography]

1946年、ベルギー生まれ。ベルギーとユーゴスラビアの大学でアートを学び、1969年よりベルギーにて個展を開催。その後、ドイツ、フランス、イタリア、日本等、国内外の展覧会に出品。当画廊では2000年より定期的に個展を開催し、2004年には名古屋芸術大学の招聘により、特別客員教授としてベルギーより来日、同大学にて公開制作と個展を開催。現在はベルギー/ゲントに滞在。画面から滲み出るような色彩と絡みつくような線を銅版画やドローイングといった技法で表現し、植物図鑑から抜き取られたようなイメージをコラージュする等、多様な造形性が混在する作品を制作。昨年、名古屋市民ギャラリー矢田(愛知)で開催されたファンデナゴヤ美術展2011「黒へ/黒から」展や、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催された「日本・ベルギー版画国際交流展」に出品。2012年、日本版画協会主催の第80回記念版画展「Prints Tokyo 2012」に招待出品。他、数多くの個展、グループ展に参加。

 

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