エンク・デ・クラマー Enk de kramer

 

untitled (13-01)

21.5×31.2p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-02)

21.5×31.2p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-03)

21.5×31.2p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-04)

74.0×107.0p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-05)

50.0×68.0p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-06)

50.0×68.0p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-07)

50.0×68.0p カーボランダム、ドライポイント等 2012

untitled (13-08)

50.0×68.0p カーボランダム、ドライポイント等 2012

 

 ■展覧会テキスト  [text]

E.E. Jenny (美術家 ※「東邦フランチェスカ」メンバー)

派遣の仕事を終え、駅前の本屋で「VOGUE」を買って帰宅すると、画廊からメールで「エンク・デ・クラマー」展のテキストを書いてほしいという依頼がきていた。

作品は以前、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(アクア)で開催された「日本・ベルギー版画国際交流展」で目にしたことはあったが、そこでは確か1点のみの展示で、あまり印象に残っていない。

後日、画廊にてベルギーで出版されたエンク氏の画集と過去の展覧会資料等を預かり、作品も1点持ち帰らせてもらったのだが、私が住むワンルームの部屋で、服や下着を脱ぎ散らかした雑多な空間で見るには相応しくない静謐な面持ちの作品だ。

一息つきたいと思い、シャワーを浴びてさっぱりしたあと、髪を乾かし裸のままベッドに横になる。

腰まわりの弛みを気にしながら毛布にくるまり、しばらく作品を眺めていると、徐々に赤い色だけが膨らんで見えはじめた。

数分後、目が疲れたのか少しぼーっとしてきたので、ベッドから起き上がり、よれよれのTシャツを着て作品の前に立ってみる。

先程感じた赤い膨らみは次第に暖かさを増していくように見え、薄着の私の体には心地よく感じた。

作品の細部も気になりはじめたので、作品を手に取り画面に顔を近づけてみる。

深みのある色合と執拗に絡み付くように描かれた線など、ちょっと“かっこいい”と思えるようになった頃、携帯電話が鳴った。

元彼からだ。

夜遅くに電話をしてくるのは、きまって彼なのだが、最近別れたばかりなので電話に出る気分ではなかった。

顔は私好みでイケてるのだが、思っていた以上に優柔不断なところがあり(最初はそういうところも可愛いと思ったのだが)、こちらから連絡を取らなくなると、半年後には関係が終わっていた。

電話の着信が止むと、だんだん作品を見る気持ちがなえてしまい、画廊から預かってきた資料を読もうと、バッグから書類を取り出す。

エンク氏の作品は、ドライポイントやカーボランダムという技法を用いた版画作品で、事前に画廊から説明を受けていたのだが、カーボランダムという技法の説明がいまひとつ理解できなかった。

資料によれば、カーボランダムとは研磨剤の名称で、ケイ素(石英砂)と炭素(コークス)を高温加熱により混合された結晶状の合成物質らしい。カーボランダム版画とは、それをボンド等の結合剤と合わせてペースト状に処理し、版(金属板等)の上に描画することで、凹凸の起状ができ、その上からインクを馴染ませて、紙にプレスする技法・・・ということだ。

そう言えば元彼は京都の美大出身なのだが、版画を専攻していたのを思いだし、着信を無視した事も少々気が引けたので、電話をかけ直した。

電話に出た彼は「イギー・ポップのCD、そっちに忘れてない?」とちょっとテンション低めな声で尋ねてきたが、探すふりをして「う〜ん、ここには無いかな」と返事をしたあと、「カーボランダムっていう技法、知ってる?」と尋ね返した。

彼は「ちょっと待って」と言うと、電話の向こうでカタカタとキーボードをたたく音が聞こえてくる。カーボランダムについてネットで調べているのだろう。「だったら自分で調べるよ!!」と言いたいのを我慢して、待っている間にエンク氏の作品を眺めていた。

赤と黒を基調とした作品なのだが、あらためてディテールが気になり、もう一度画面に顔を近づけてみる。

電話から淡々とした口調で説明をはじめる彼の声をよそに、私は作品に見入っていた。

自分好みの作品ではないはずなのに、植物や構造物を連想させるような線やかたち、赤と黒の色調が浸透し合うように交錯し、画面から奥深い空間を引き出している様など、どれも嫌な感じはしない。

版画の技法に疎い私でも、とても洗練された仕事であることは分かる。

男に例えると、イマドキな感じでは無いのだけれど、顔は凛々しく、強い意志と温もり感じさせてくれる奴。

その夜は元彼との電話も適当に切り上げ、作品の前に座って思った事をメモして行く。

メモの内容をパソコンに入力したあと、ベッドの上で「VOGUE」を読みながら眠ってしまった。

 

朝目覚めると、目線の先に作品が見える。

この日から私の男の好みが変わった。

 ■略歴  [Artist Biography]

1946年、ベルギー生まれ。ベルギーとユーゴスラビアの大学でアートを学び、1969年よりベルギーにて個展を開催。その後、ドイツ、フランス、イタリア、日本等、国内外の展覧会に出品。当画廊では2000年より定期的に個展を開催し、2004年には名古屋芸術大学の招聘により、特別客員教授としてベルギーより来日、同大学にて公開制作と個展を開催。現在はベルギー/ゲントに滞在。2011年、名古屋市民ギャラリー矢田(愛知)で開催されたファンデナゴヤ美術展2011「黒へ/黒から」展や、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催された「日本・ベルギー版画国際交流展」に出品。2012年、ベルギーにて138頁に及ぶ作品集が出版され、昨年8月に出版記念展としてOギャラリー(東京)にて個展を開催。東京都美術館(東京)で開催された日本版画協会主催の第80回記念版画展「Prints Tokyo 2012」に招待出品。

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