[U] 支援住宅プログラム

[プログラムの概要と目的]

 アメリカの都市部の住宅問題は二種類ある。一つは市内のスラム化、そしてもう一つは異常なまでに高い私営住宅賃貸料である。これらの問題に対応するために設置されたコモングラウンドの支援住宅プログラムの目的と内容を理解するには、まずこの両極端なアメリカ都市部の住宅問題とホームレス問題との関係を理解する必要がある。

 1937年、アメリカ政府は新しい公営住宅法を制定した。この新しい法律は下層階級の人々の住宅状況を改善するために公共住宅の数を増やす目的で制定されるはずだった。しかし、公営住宅が増える事によって私営住宅の値段が下がる事をおそれた都市の不動産業の実業家や政治家たちは、政府にプレッシャーをかけこの法律の当初の目的をゆがめてしまった。その結果、制定された法律は「新しい公営住宅を一件作るたびに、古い老朽公営住宅をつぶすことによって公営住宅の質を向上させる」という内容となってしまう。

 この法律の制定後、老朽化の進んだ公共住宅は新しく改善されることになり、建設現場が増え市内の低賃金の仕事を増やす事が出来た利点もあったが、その一方で公営住宅の数は増加しなかったため私営住宅の競争相手になれず、私営住宅の賃貸料は頭をうつことなく上がっていった。最終的に、この法律は公営住宅と私営住宅の賃貸料の格差を大きく広げてしまい、低所得者を公営住宅あるいは悪質な市営住宅へとに閉じ込めてしまった。

 1949年、公営住宅法は再度改善されるが、またしても低所得者の住宅不足を解消すると言う内容のものではなく、都市で増加するホームレスとスラムを一掃することを目的に制定される。この新しい公営住宅法により、公営住宅の入居資格である所得設定は厳格化され、超低レベル所得者のみが公営住宅の入居を認められる事になり、公営住宅に入れなかった他の低所得者たちは値段の跳ね上がってしまった私営住宅に入居できるわけも無く、スラムや市内周辺の条件の非常に悪い住宅や荒廃したスラムに移り住むことを余儀なくされる。(参考資料:J・ウィルソン“When work disappears”)。

 1950年代と60年代、アメリカの都市部の産業は殆ど郊外に移動したこととホームレス問題との関係はこの報告書のほかのところで既にのべた。この産業構造の変化は、すでに住宅状況が悪化して経済的に苦しんでいる低所得者達を襲ったのである。こうした公営住宅状況の悪化と産業構造の変化は、アメリカの都市部における貧富の差を大幅に拡大させてゆき、19701980年代の麻薬・エイズの浸透は社会的に弱りきっている都市部の貧困層を半死半生状態においやった。すでに荒廃状態にあった市内の低所得者地帯を一挙にスラム化させ、都市部のホームレスの数をどんどん増やしていったのである。

 この複雑な歴史背景と現状をふまえ、コモングラウンドはホームレスの住宅問題を解決するには通勤寮などの通過的住宅ではなく、彼らが安心してずっと住みつづけることが出来る支援住宅が確保されなくてはならないと主張をした。特に、コモングラウンドの活動拠点であるNYマンハッタンの住宅市場は需要の方がつねに大幅に上回っている上に、私営住宅の賃貸料はべらぼうに高い。低所得者達が賃貸できる安全で清潔な私営住宅など皆無に等しいと言っても過言ではない。ホームレスを通過的住宅に入れて経済的な自立を援助しても、彼らがその先引っ越していける安定した住宅が慢性的に不足していては、彼らはまたホームレスになりかねず悪循環を繰り返してしまうことになる。この問題意識のもとに、コモングラウンドは、他にはあまり例のない終身制、つまり()永久住居型の支援住宅の運営と建設に取り組んでいる。

 また、住宅だけがホームレスの問題の原因ではないと言う事をよく理解している彼らは、住宅の中に就職支援活動サービスをはじめ、その他医療・カウンセリング・ソーシャルワークなどのサービスを設置し、支援住宅を単なる建物としてではなく一つの小さな町として発展させ、社会的に孤立しがちな低所得者・元ホームレスの人々が必要とする情報、サービスが常に彼らの身近にある環境を作り出していった。この点において、コモングランドの住宅サービスは斬新かつ効果的であるといえる。以下にこれらの多様なサービスと住宅ニーズを統合して作られたかれらの支援住宅の詳細を報告する。


 @ザ・タイムズスクエア

  タイムズスクエアは、コモングランドが手がけた最初の住宅である。タイムズスクエア支援住宅は、元々1923年に長期滞在型のホテルとして建設されたが、その後経営者が何度も変わり経営は不振におちいり1980年代にはホテルとしての機能はまったく果たさなくなった。その後ホテルは経営の悪化のため、ついに市に引き渡されることになる。市が引き取ってから市営の福祉受給者用の短期ホテルとして使われるがその管理は殆どなされなかったため、一度は華やかな観光客用のホテルとして繁栄したホテルはホームレスで溢れ、麻薬と犯罪の巣と化してしまった。

 1990年、ついに市はこのホテルを取り壊す事を決めるが、それに反対した地元の住宅問題の活動家達の努力によって、取り壊し事業は取り消されることになる。このホテルをホームレスと低所得者の支援住宅へと改造するためにコモングラウンドは生まれた。

 その後公的資金援助と私的な寄付を元に、ついに1994年ホームレスと低所得者達が様々な支援サービスを受けながら()永久的に住むことが出来る支援住宅へと生まれ変わった。総開発費は3千2百万ドル(約35億円)で、公的資金と寄付から成り立っている。

 【住宅内の諸サービス】

−コミュニティーとしての支援住宅を目指して

  ザ・タイムズスクエア支援住宅は、現在、全部屋独身者向けの部屋が652部屋あり、各部屋に小さな台所、お風呂、トイレ、冷暖房がついている。全部屋、ベッド、引出、キッチンコンロ、冷蔵庫など必要な家具は全てそろっており、部屋の大きさは日本で言う大体7畳〜8畳ぐらいの大きさで、正直言って私が以前住んでいた学校の寮などに比べるとはるかに広くて綺麗だった。

 住宅の中にあるサービスは以下の通りである。

@)就労トレーニングサービスセンター

 就労・就職に関する全てのサービス機関であるCGJTC(Common Ground Job Training Center)のオフィスがタイムズスクエア住宅の中に設置されており、住人あるいは他の諸団体から紹介されてきた人々が、明日の自立を目指し就労トレーニングをここで受けている。もちろんここは通過住宅ではないので、仕事を見つけた後も収入が入居規定を超えない限りここに住み続ける事が出来る。(入居規定後述)

A)医療サービス 

 医師は常勤していないが正看護婦が朝8時からから夜8時までおり、住人の健康に関する相談にのっている。

B)ソーシャルワークサービス

 コモングラウンドのパートナーであるアーバンコミュニティサービスセンター(CUCS)は福祉、公的補助手当てなどの受給などに関する相談サービスを中心に行っている団体で、CUCSとコモングラウンドのソーシャルワーカー達が月曜から土曜、朝8時から夜8時半まで常勤しており、住人が持つ問題の管理、精神病治療サービス、患者が危機的な状態になったときの介入、他の施設への紹介、情報提供など、それから建物全体のコミュニティつくりなどのサービスが提供されている。

 C)リクリェーションサービス

 タイムズスクエア住宅の各階には様々なリクリエーションルームがあり、その内容は図書館、コンピュータールーム、家庭科室(ミシンがおいてあり編物や縫い物が出来る)、音楽室、美術用アトリエなど実に多種多様である。最上階にはカフェテリアがあり、パーティなどもここで行えるようになっている。カフェテリアでは住人やオフィスで働くスタッフ達が安い値段で栄養のバランスの取れた朝食と昼食を食べることができる。

 さらに、CUCSとの協力を得ながら、コモングラウンドのテナント・サービス部門は、これらのリクリエーションルームを使い、教育、芸術、健康、フィットネスの分野で様々なプログラムを行っている。住人たちの生活の質を向上させ、独立・自立するための必要な技能を身に付けさせるために、授業・レクチャーを開いたり、映画上映会・アウトドアイベントを行ったりと、様々なイベントが定期的に行われている。月ごとの行事予定の載った月間スケジュールや、ニュースレターなども作成され、建物内のコミュニティの活性化を図り、また、住人に建物外のニューヨークの市内で行われている様々な行事へも目を向けさせる努力も為されている。

D)その他      

 住人への直接のサービスではないが、タイムズスクエア住宅のロビーとメザニン・レベル(中2階)は元のルネッサンス調の輝きを保ちたいへん美しく、建物は歴史的遺産として登録されている。中二階には地元や住人の芸術家たちの作品を展示したりしており、現在は写真家の個展を開く予定がある。また、最上階の15階のリクリエーションルームはイベントスペースとして結婚式や企業・団体のパーティー会場などとしても活用されており、その売上はコモングランドの活動運営資金にあてられている。

  ザ・タイムズスクエア支援住宅は、その目的通り単なる住宅施設というより一つのコミュニティーとして機能していると言って良いだろう。

【入居者規定と規則】

 @単身者であること

 A収入:申し込み者の年収は最低12,000ドル(130140万円)以上あり最高28,500ドル(約300万円以下)でなくてはならない。タイムズスクエアの支援住宅は政府の低所得税のガイドラインに沿って入居資格の収入規定を定めている。ただし、市や州の役所からの紹介があったものは年収が12,000ド以下であっても入居が可能な場合がある。

 B個人資産(土地等の財産、貯金などで衣服や車などは含まれない)5,000ドル以上ないこと。

 Cセクション8(賃貸料補助)を行政から受けている場合は申し込みの際にそれをコモングランドに申告しなければならない。

 Dフルタイムの学生は入居できない。

 Eペットは一人の住人に対し一匹だけで、きちんと予防接種を受けさせ他の住人に迷惑をかけないようにしなくてはならない。    

 F他の住人のプライバシーを守ることができなくてはならない。

 G精神病、身体障害、エイズ、犯罪前科、および元ホームレスの人々が住人の中にはおり、その多様性を尊重しなくてはならない。

【入居審査とプロセス】

 全ての申込書は厳密にチェックされ、規定を満たした申し込み者は3回にわたるインタビューを受けなくてはならない。最後のインタビューは申込者が現在住んでいるところで行われる。現在、空室はないため今申し込みをしても直ぐに入居はできないが、いつ入居できるかどうかは電話や手紙でチェックできるようになっている。

【住人構成】

−住宅はニューヨーカーのコモングラウンド

  住人の構成は大変ユニークである。まず住人の半分は元ホームレス、高齢者、元麻薬中毒患者、精神病疾患者、エイズ患者、HIV感染者などで構成されている。そしてその他の半分は、元ホームレスでない低所得の人々で、その中にはブロードウェイの近くに住むことを希望する多くの(まだ)無名のダンサーや役者、芸術・音楽家、あるいはそうなることを目指して活動している人たちもたくさんいる。

 他の支援住宅では見られないこのユニークな住人構成は、ホームレスの支援住宅が一般社会とのつながりを失い隔離されないようにするという目的意識と、「住宅問題はホームレスに限らず、全ての低所得者達の問題である」という考えから来ている。先に述べたようにNYの住宅問題は深刻で、仕事があって働いていても常に安定した住居を確保できるわけではない。そんな明日のホームレス予備軍でもある低所得者たちに支援サービスを提供する事によって、将来のホームレスを予防するのと同時に、社会から逸脱したホームレスの人々と自分の夢に向かって生活する低所得者の人々たちの間に「住宅=家」というつながり(コモングラウンド)を生むことができるとコモングラウンドは考える。実際、コモングラウンドの支援住宅では住人の為に様々なイベントが企画されており、バックグラウンドの違う住人達の交流が生まれる機会を作っている。これらの交流活動を通じて、今まで互いの人生が交差する事が無かったバックグランドのまったく違う人同士の出会いが芽生え、それらの出会いを通じて元ホームレスの人々は社会とのつながり、ホームレスではない人々は「ホームレス」という社会問題に対する認識を深めていっている。


 Aザ・プリンスジョージ

 ザ・プリンスジョージもザ・タイムズスクエア同様、コモングラウンドが所有・運営する支援住宅である。ザ・プリンスジョージは、高級ホテルとして1904年建設されるが、1970年の観光不況の波にのまれ経営は悪化し、1980年にはニューヨーク市からの基金により、ホームレスの家族を受け入れる施設となった。ピーク時には、合計で1600人もの女性・子供を受け入れるが、あまりの混雑と運営の不備から、ザ・プリンスジョージはザ・タイムズスクエアと同様に次第に混沌と犯罪の巣窟となってしまった。1990年に入り建物は、誰も手を施すことができなくなり、そのまま見捨てられた状態になってしまった。

 1994年後半になって、ザ・タイムズ・スクエアでのビル再建の経験を基に、コモン・グラウンドがザ・プリンス・ジョージの終身制の(半)永久型支援住宅への再建を提案し、権利獲得のための長いプロセスを経て、ついに1998年コモングランドは所有権を獲得、復興工事を始めることになった。現在、殆どの内装は修理され、今年あるいは来年までには再建は完成する事になっている。

 ザ・タイムズスクエア同様にプリンス・ジョージは低所得者、特別な助けを必要としている人、そして元ホームレスだった人々のために416部屋を提供している。プリンスジョージ住宅でもタイムズスクエア住宅のように、コモングラウンドはアーバンコミュニティセンター(CUCS)と提携関係を結び、現場でのサポートサービス、コミュニティつくりのためのサービス・プログラムを提供している。プログラムの内容はザ・タイムズスクエア住宅とまったく同じで、唯一違う点は、就労トレーニングのサービスセンターがないと言う事だけである。しかし、プリンスジョージ住宅の住人もタイムズスクエア住宅の住人同様にタイムズスクエアの就労センターで就労トレーニングを受けることが出来る。(プリンスジョージ住宅からタイムズスクエア住宅までの距離は歩いて25分、地下鉄で8分程度で、そんなに離れてはいない)

 プリンスジョージ支援住宅の入居資格規定はタイムズスクエアのものと大体同じであるが、収入の規定がややタイムズスクエア住宅より高くなっている。プリンスジョージ住宅の入居者の最高年収額規定は30,000ドル(310万円前後)、最低年収額は15,000ドル(160万円前後)で、タイムズスクエア住宅と比べ約1〜2割ほど高い。これは、プリンスジョージ住宅の部屋の大きさがタイムズスクエア住宅のそれよりも若干大きく、新しい為だと思われる(プリンスジョージの部屋の大きさは9畳から10畳程度)。それ以外は部屋の内装・設備はタイムズスクエア住宅のものと殆ど同じである。             

 タイムズスクエア住宅同様に、コモングランドのサービス部門はCUCSとの協力を得ながら、ここでもリクリエーションルームを活用し教育、芸術、健康、フィットネスなどの様々なプログラムを行っている。住人たちの生活の質を向上させ、独立・自立するための必要な能力を身につけるための授業・レクチャー、映画上映会・アウトドアイベントもここでも活発に行われている。また月ごとの行事予定の載った月間スケジュールや、ニュースレターなども作成され、建物内のコミュニティの活性化を図っている。また、住人に建物外のニューヨークの市内で行われているの様々な行事へも目を向けさせる努力も為されている。タイムズスクエア住宅同様、住人同士の交流の機会が持てるようなイベントなども企画され、タイムズスクエア住宅と同様多様な人々の「つながりの場(コモングラウンド)」として機能するよう様々な努力がプリンスジョージでもなされている。

 プリンスジョージ住宅の最上階(ペントハウス)は、コモングラウンドのセントラルオフィスとコモングラウンドのパートナー、アーバンコミュニティセンターのオフィスがあり、住人達のケースワークやソーシャルワークのサービスがここで行われている。その他、最上階には広々としたイベントスペースがあり、イベントスペースの壁は住人達が芸術工作の授業で作ったタイルを用いてデザインされておりとても綺麗な場所である。ここは結婚式の披露宴など各種のパーティ・スペースとしてニューヨーカーたちに提供され、その売上は活動資金に当てられている。

 プリンスジョージ住宅の1階ロビーは再建活動によって高級ホテルだった当時の美しさを取り戻し、超一流ホテルと引けを取らない美観を保っている。ロビーの奥には住人のためのカフェテリアがあり、見学させてもらったがその美しさには思わずため息をついてしまうほどである。さらに、ロビーの横のボールルームは貸店舗として運営されレストランが入る予定である。そのレストランはコモングラウンドの職業訓練プログラム卒業生の新たな就職口になることも決まっている。

 現在この建物は歴史的建造物としての国の認可を受け、歴史的な建造物(特にロビー、ボールルームなど)復興のための特別な税金の適用を受け、民間からの資金を取り付けることもでき、それらの資金援助によって再建がなされた。総開発費は $40, 000,000(約44億円)である。


Bファーストステップハウジング 

 ホームレスの支援活動を通じて、コモングラウンドはホームレスの中には様々な理由によって、彼らが提供する就労支援プロジェクトやカウンセリングを受け入れられない人々がいるということに気付き始めた。ホームレスと一口にいってもそれぞれ様々な理由でホームレスになり、多様なかたちでホームレス状態をすごしており、一人一人違ったニーズをもっている。そのため全てのホームレスが同じ方法で救済されるわけではないのである。その事実に気付いたコモングランドは、「サービスレジスタント(支援サービス拒否)」のホームレス達が宿泊できるシェルターや路上よりもサービスの整った安価な宿泊施設を開発する事にした。ファーストステップ住宅はそんなホームレスの人々を支援するための短期宿泊施設で、現在開発途中にある。

 これはタイムズスクエア住宅やプリンスジョージ住宅と違って(半)永住型の住宅ではなく、短期滞在型の宿泊施設をめざしており、清潔で安い値段で提供することにしている。この施設は、「サービスレジスタント(支援サービス拒否)」のホームレス達、あるいは他のプログラムで拒否された、あるいは努力をしたが上手く自立できなかったホームレスの人々を対象としている。

 現在コモングラウンドでは、路上やシェルターで寝泊りしているホームレス達とのインタビュー調査に基づいて彼らのニーズが満たされるサービスを提供できるよう細心の注意を払ってこの施設の開発をつづけている。将来、ファーストステップハウジングは清潔で安全で、かつ安く(一泊10ドル)小規模でプライバシーのある短期の宿泊施設として、(半)永久住宅に入れない、入る事を拒否している人々の為に運営されていく予定である。この宿泊施設のなかに他の住宅・職業案内などのサービスの他、医療・依存症のリハビリ治療のサービスも設置していくことを計画している。


 [V] 産業の開発

 タイムズスクエアといえば、マンハッタンで最も人気のある観光スポットで、人通りがとても多い繁華街である。その土地柄を利用したビジネス活動もコモングラウンドは行っている。 

@貸店舗

 プリンスジョージ住宅の1階がレストランとなり、就労トレーニング訓練生達の就職先になることや住宅の最上階のイベントスペースが一般に提供されその売上は運営資金とされていることは既に述べた。その他に、コモングラウンドの支援住宅では住宅の建物の一角(1階や地下)を一般企業に貸し店舗として提供し、その賃貸料はコモングラウンドの活動資金となっている。また、ただスペースをテナントに貸すだけではなく、そのテナントとなった店がコモングラウンドの就労トレーニングに参加している人々の就職先になるように、テナント企業に卒業生の雇用を義務付けている。ザ・タイムズスクエアに入っているテナントは、コーピーショップのスターバックス、アイスクリーム店のベン&ジェリーズ、ホットドッグ店、ジュースとホットドッグを売っているパパイヤキングなどがある。スターバックスとパパイヤキングは彼らの店のスタッフの25%のポジションを、コモングラウンドの卒業生を採用してうめていくことを約束している。

Aベン&ジェリーズパートナーショップ

 コモングラウンドは、人気アイスクリーム会社ベン&ジェリーズの小売店「ベン&ジェリーズスクープショップ」をタイムズスクエア、ロックフェラーセンター、ブライアントパークのキオスクで運営している。これらの店舗はベン&ジェリーズ社との提携のもと、コモングラウンドが直接運営しているため、売上は活動資金となり、コモングラウンドの卒業生が店舗のスタッフとなって働けることになっており、卒業生の就職口の拡大にもつながっている。


【コモングラウンド取材後の一言】

 コモングラウンドは今まで紹介してきた活動の中で、最もアメリカのホームレス問題のことを理解している団体だと思った。全米には星の数ほど大小沢山のホームレス支援団体がああり、その多くが包括的な活動内容を目指している。しかし、本当にそれを行っている団体はとても少ない。コモングラウンドはそれをきちんと行っている団体の一つだと言える。

 代表者で創始者でもあるロザンヌ・ハゲットリーさんは日本にもきて釜が崎の活動家とも交流をしたこともあるという勉強熱心な活動家である。恐らくこの団体の活動は、既に日本の皆さんも知っておられるのかもしれないと思ったが、その活動の質の良さからあえて紹介する事にした。

 この団体の魅力はなんといってもホームレスの多様なニーズを理解し、それに見合ったサービスを生んでいこう常に努力している点と、ホームレスとそうではない人々とのつながりを大切にしている点である。ただ、あえて弱点を指摘するなら彼らの支援活動はホームレスの中でももっと弱い立場の人々たちに支援の手が届きにくいと言う事である。ホームレスの人が皆、コモングラウンドの支援住宅に入居できるほど自立への準備が出来ているわけではない。しかし、このコモングラウンドのすごいところは、この弱点にすばやく気付いてファーストステップハウジングを開発しているところで、「お見事」と言うしかない気がした。