ケースC コモングラウンド (マンハッタン、NYC)    

  コモングランドはおそらくNYで1番大きな規模の長期型支援住宅を確保し運営しているホームレスの支援団体である。その活動内容は住宅支援から就労トレーニングと幅広く、おそらくこれまで報告した団体の中で最もバランスの取れた活動をしている団体であり、日本のマスコミでも紹介された事がある。

 【団体の歴史】

 コモングラウンドは1990年に、長年経営が上手くされていなかったタイムズスクエアガーデンの市営の福祉受給者用ホテル[1]が閉鎖する事が決まった事に対して、取り壊しの反対を要求するために立ち上がった活動家ロザンヌ・ハガットリーさんとその仲間にによってはじめられた。このタイムズスクエア市営福祉ホテルをホームレス達のための支援住宅へと改造したのをきっかけに、その後コモングラウンドは市や他の団体から他の老朽建築物(ホテルなど)を引き取り、ホームレスや低収入の人々の為の支援住宅へと改造し、ホームレス問題とマンハッタンの住宅問題に対しに斬新な支援活動をつづけている。

 彼らの支援・補助住宅は元ホームレスの人々だけに対象を絞らず、低所得者で住宅問題を抱えている人々も支援対象に含まれており、NYの住宅不足のために困っている人々すべてが清潔で安心して住める住宅施設と環境を作る事を活動目標としている。コモングラウンドは、ホームレスの人々が自立していくため、また将来のホームレスの増加を食い止めるには、住宅サービスのほかに、就労トレーニング・就職紹介サービス、精神・身体の医療サービスといったその他のサービスがなくてはならないという事を運動の基本理念としている。つまり、「部屋を与えるだけが、ホームレスの問題への解決策ではない」と彼らは訴えているのだ。コモングラウンドのホームレス支援サービスはその基本理念に忠実に、住宅・就労・心身のための医療サービスという多様なサービス全てが一つのパッケージになっており、これまでに多くのホームレス及び明日のホームレスである低所得者達を救済してきている。

 【コモングラウンドの団体宣言】

 我々は安全かつ清潔で安価な住宅のあるコミュニティーを作ることで生まれた非営利団体である。我々は安価で安定した住宅を提供するだけではなく、医療・就労トレーニングといった支援サービスも導入している。我々は住宅や仕事を得るだけで人間がホームレス状態から脱して人生を再建していけると考えていない。彼らがホームレス状態から自立し、社会復帰していくために必要なのは、仕事を見つけるために必要な就労トレーニングのサービス、そして心や身体のケアサービスなどが一つにまとめられた支援サービスプログラムなのである。様々なサービスが一体化した包括的な支援活動こそ、我々、コモングラウンドがホームレスの人々に提供せんとする支援プログラムなのである。


−なぜ我々の活動はユニークなのか?

       @ 我々の活動は実用的である。 

 コモングランドでは、社会に存在する貧困のサイクルを止めるように努力がなされている。我々の究極の目的とは、元ホームレスであった人が再び路上に放り出される事無く、ずっと家に住みつづけることが出来るようになる事である。我々はいかにホームレス問題が深刻で複雑な問題であるかを理解しており、常に多様で柔軟な対応をするように目指している。

     A 我々の活動は協力の元になりたっている。

 我々は同じホームレスのための活動をしている人々、とくにアーバンコミュニティーサービスセンター(CUCS)と協力し合って活動している。CUCSのスタッフは、我々のビルの中にオフィスを構え、コモングラウンドとともにソーシャルサービスをはじめ様々な支援サービスを支援住宅住居者に提供するよう努めている。CUCSのケースワーカーや就労トレーニングのカウンセラーは、我々の支援住宅住居者たちのニーズに耳を傾け、彼ら一人一人に合った支援を提供している。

        B 我々の活動は効果的である

 我々は短期ではなく長期の結果を求めてホームレス支援活動を行っている。我々の運営する支援住宅は通勤寮などの通過的住宅ではなく、永久・半永久的に住み続ける事が出来るようになっており、住宅状況がひどいNYの街にでて彼らがまたホームレスに逆戻りをしないように努力をしている。我々の支援住宅は住居者の所得に見合った家賃で運営されている。その運営費は入居者一人につき1年間で10,000ドルという効率の良さで、これは刑務所が入獄者一人に使う運営費の2分の1であり、精神病院が入院患者一人に使う運営費の10分の1にしか過ぎない。

−なぜ、我々の支援は機能するのか?

@安定

 コモングランドの3つの支援住宅は、住居者の収入に見合った安価な家賃を設定している。そして、これらの住宅はただ単なる住宅として運営されているのではなく、一つの小さなコミュニティーとして運営されている。住宅に設置されているサービス施設は図書館、医療サービス、コンピュータールーム、美術用アトリエ、音楽スタジオ、そして住居者同士が談話できる広々としたロビーなどがあり、リクリエーション施設は住居人同士が互いに交流し合える場としても活躍している。住居者とスタッフはお互い名前で呼び合い、「ここに来て自尊心が高まった」という人は少なくない。

A進歩

 安定した住宅こそが新しい人生と生活の基盤となる。そして、そこから仕事を見つけて働いてこそ、自立が可能となる。我々の住宅では、就労トレーニング、就職支援活動サービスが提供されており、心身ともに健康な住居者がきちんと働いて自立していけるようサポートするシステムを用意している。一般企業との提携を通し、入居者が先のある安定した仕事につけるようにも常に努力をしている。

 B結果に焦点を当てる

 コモングラウンドは様々な支援サービスを提供する一方で、サービスを受ける人々に対して彼らが人生に目標を持って、さらに責任と近所づきあいがきちんとできるように指導している。1,850人以上の人々が1991年以来我々の支援住宅に住んでいる。そのうち300人以上が我々の元で就労トレーニングをうけ、就職をしていった。

 −斬新なコモングラウンドの活動分野とは

              コモングラウンドは、以下の目的をもって活動をしているからである。

@より多くの永久支援住宅を作っていけるよう、それにあった住宅を探しつづける。

Aホームレス予備軍の人々とホームレスとなってしまった人々との輪をつなげるプログラムを作る。

B企業のスポンサーの数を増やす。

 

原文

              We start by creating communities where housing is safe, attractive and affordable.  We then add support services, like access to medical and mental health care, job training and job placement.  We believe that transitioning out of homelessness requires more than just a home, more than just good health, more than just a job and more than just a supportive community - the entire package is necessary.  And that's exactly what Common Ground provides: a comprehensive support system designed to help people regain lives of stability and independence.

 

Why We're Different

Our work is practical. 

At Common Ground, we do not try to reinvent the wheel.  Our bottom line is to help the formerly homeless stay housed.  Whenever possible, we draw on the knowledge and expertise of others to help us do our work effectively.  We recognize the complexity of homelessness and the need for holistic responses.

 

Our work is collaborative. 

We rely on a network of partners, in particular, the Center for Urban Community Services (CUCS).  Their staff, located within our buildings, provides a full range of support services to tenants.  By building one-on-one relationships with tenants, CUCS case workers and vocational counselors anticipate tenant needs, and deliver the individualized assistance each individual requires.

 

Our work is effective. 

We offer long term results at a fraction of the cost of alternative responses to homelessness.  Our permanent housing programs cost between $10,000 and $12,000 per person each year--compared with prison cells at $22,000, shelters at $60,000 and mental health institutions at $113,000 per year.

 

Why it Works

Stability

Common Ground's three Manhattan buildings offer affordable rents, which are set at approximately thirty percent of a tenant's income.  They operate and feel more like small towns than apartment complexes.  They are safe and well-maintained.  Services and amenities such as a library, clinic, computer center, and art studio as well as gracious building lobbies foster regular interaction with fellow tenants.  Tenants say that their self-confidence is increased by the network of contacts that they have with staff and neighbors.  They are known by name.

 

Progress

Stable housing is the foundation on which a new life can be built.  Those able to work must learn to compete in a changing workplace.  Employment assistance is an integral part of what we provide through the Common Ground Jobs Training Corporation.  Working with corporate partners such as Marriott International and Home Depot, we focus on training our tenants for living wage positions with career potential.

 

Focus On Results

Common Ground challenges individuals to realize their goals and meet high standards of personal responsibility and neighborly behavior, while offering the support and services needed to succeed.  Over 1,850 tenants have been housed since 1991.  Over 300 residents of supportive housing in New York City have been trained and placed in jobs through the Common Ground Jobs Training Corporation.

 

Where We're Headed

Common Ground is focused on these goals:

Identifying sites for additional permanent supportive housing

Developing new programs to link subgroups of the homeless population to stable housing

Expanding the number and involvement of employer sponsors

 


【自立へのハードル】

―コモングラウンドが指摘する元ホームレスが就職する上で困難な点

  ここまでの報告で既に言及したように、アメリカのホームレス達が自立する上で共通した問題は、@住宅、A低学歴・希薄な就労意欲、B麻薬、C精神病、という4点である。その問題のうちどれに重点を当てるかは各団体の基本理念や団体の成り立ちによって少しづつ異なるが、共通しているのは、この4点を押さえないことにはホームレス問題の解決は不可能だと認識していることである。

 これまで報告をしてきた団体の中で、コモングラウンドは特に住宅面において斬新な活動をしている団体である。コモングラウンドが指摘する「ホームレスが職に就き、自立するために最も困難な問題」とは、「安定した住宅の確保」である。後で詳しく述べるが、NYの住宅問題は、ホームレスに限らず一般市民にとっても深刻な問題である。6畳程度の大きさのワンルームマンションがマンハッタン市内では1,500ドル〜2,000ドル(15万円〜20万円)が平均と言うのだから、低所得者の手の出る住宅は殆どないに等しい。ホームレス達の自立支援活動をしていくうえで直面する問題は、まず「住宅の慢性的な不足」、つまりホームレスや低所得者たちを収容するだけの住宅スペースがNYには存在しないという事実である。

 「存在しない住宅スペースをどうやって確保するのか?」この難解な問題に対して、コモングランドは老朽化した市内の建造物に目をつけた。経営不振のため倒産したホテルやその他のビルを市やオーナーから引き取り、それらの建造物を寄付と公的支援によって改造し、支援住宅にしていくことにしたのである。しかし、それでもスペースには限りがあり、今彼らが持っている支援住宅だけで市内のホームレス全体を収容できるわけではない。また、彼らの住宅はホームレスシェルターと違い無料ではないため、ある程度の自立をしていないことには[2]入居できない。一般社会に復帰して、家賃を払い自活していけない人々(精神障害者、長期路上生活者、老人)が住める場所は、コモングラウンドでもまだ十分に確保できていないのである。

 また、ドゥ・ファンドの報告で既に述べたように、市内には元ホームレスの人々が就職していく低レベル技術で高賃金といった仕事を見つけることが大変難しい。たとえ依存症を絶ったとしても、大都市NYで仕事を見つけ、住宅を確保していくことは簡単なことではないのである。


 【コモングラウンドのプログラム】

 [T] 就労トレーニングプログラム

 [活動の概要と目的]

 「ホームレス問題の解決に必要なのは、無料の衣食住配給だけではない」という考えの元にコモングラウンドの就労トレーニングプログラムは運営されている。コモングラウンドが運営する支援住宅及びその他彼らと提携をしている60以上に及ぶNY市内ホームレスシェルターや他団体の支援住宅に住む元ホームレスの人々を対象に、このプログラムはこれらの人々が安定した仕事に就職して自立していける手助けをしている。この点はドゥ・ファンドのプログラムと類似しているが、ドゥ・ファンドの住宅施設はシェルターと通勤寮であるのに対し、コモングラウンドの住宅施設は()永久的に住めることになっており、また就労トレーニングの内容もドゥ・ファンドと微妙に違っている。

 コモングラウンドの就労トレーニングセンターは、“コモングラウンド・ジョブトレーニング・コーポレーション(CGJTC)”と呼ばれ、彼らが所有・運営するザ・タイムズスクエア支援住宅内に設置されている。CGJTCはコモングランドのパートナーであるアーバンコミュニティーセンター(CUCS)と共同で、給与が支払われる就労トレーニングであるJET(JobExperience Training)や短期集中就労トレーニング、および職業カウンセリング、就職説明会、専門技術講習、そして個別就職案内といった就職に関連した多様なプログラムを参加者に提供してる。この就労トレーニングの目的は、参加者の多様なニーズに見合ったプログラムを提供し、一人でも多くの参加者が競争率の高い就職市場で積極的に仕事を見つけ、自立していくことを支援する事である。 

[参加資格]

 このトレーニングは、コモングラウンドが運営する支援住宅の住人達の為に基本的には設置されているので、参加者の殆どは支援住宅の住人である。しかし、ここの住人でなくてもコモングラウンドが提携関係を結んでいる他のホームレス支援団体やホームレスシェルターからの紹介があれば、誰でも参加することができるようにもなっている。

 基本的な参加資格は、まず@)麻薬やアルコールを最低6ヶ月以上服用しておらず、依存症を絶ちきるライフスタイルを継続する意志があり、その努力をおこなっていること、さらにA)プログラムを継続して参加していける状況にあること(衣食住が福祉かその他の援助によってある程度生活が安定している事)の二つだけで、その他年齢や性別の制限などは一切ない。

 ただ、依存症のリハビリ施設や精神病の特別施設などはないため、重度の依存症や心身の障害を持つ人は基本的に参加するのは難しい。既に述べたように、参加者は原則としてコモングラウンドの支援住宅の入居者ということになっており、その他にはコモングラウンドと提携している他のホームレス救済活動団体及びエージェンシーからの紹介が無ければ参加できない。

 参加者の殆どがマイノリティで、年齢は4050代前後で、何らかの身体障害(殆どは薬物やアルコールの依存症、あるいは精神病)を持っている人が多い。また、参加者の大半が公的な福祉援助を受けている人々で、元ホームレスであった人たちである。中には、不就労のためホームレス状態になりかけている人もいる。参加者は女性が多いが、トレーニングの内容は男女両方を対象にしているため、女性が圧倒的に多いと言うわけではない。

 [給与手当]

 短期間の就労トレーニング(2〜7週間)は給与が支払われないが、就労トレーニングのうち長期間のもの(4〜5ヶ月間)に関しては、実務トレーニング参加時間に対して5ドル60セントの時給が支払われる。トレーニングの参加時間は週25時間なので、月々560ドルの給与が支払われる事になる。長期間のトレーニングの参加者はこの給与のほか福祉援助(メディケア、食料配給券)を受ける事ができるので、福祉援助とトレーニングからの給与とで参加者は生活を支える事になる。参加者の中には身体障害者手当ての中に家賃の免除が含まれている人もおり、家賃を支払わなくてもよい場合があり、これだけの収入でも贅沢は出来ないが十分生活を送る事は可能である。

 また、コモングラウンドの就労トレーニングは行政が福祉受給者に義務付けている就労トレーニングと同様のものと見なされるため、コモングラウンドのトレーニングに参加して給与を受け取っても彼らの福祉受給に支障をきたさないことになっている。 

[規則とカリキュラム]

@規則

 麻薬に手を出さないことが参加の鉄則である。そして指導員の指導に必ず従う事。その他は参加時間を必ず守ること(遅刻・無断欠席・長期欠席しない)など。3回以上の規則の違反者はプログラムから除名される事になる。

 Aカリキュラム

 コモングラウンドの就労トレーニングは4種類あり、内容は其々異なる。@)〜A)のトレーニングは短期のため給与手当てはないが、B)〜C)は長期間にわたる訓練のため給与手当てがつく。トレーニング期間の長さに関わらず、就労トレーニング参加者全員が10回にわたって行われるオリエンテーションならびにトレーニング中ずっと続けられるコアトレーニングというライフスキル(生活基礎能力)の授業に出席しなくてはならない。オリエンテーションは月曜から金曜日まで毎日あり、2週間続く。オリエンテーションでは、就労トレーニングの内容・規則などが、こと細かく説明される。コアトレーニングプログラムは、社会で通常に生活していくために必要な常識、マナー、対人関係のこつ、それから仕事場で必要な価値観、マナー、エチケット、勤務態度、仕事を続けていくための努力の仕方、ストレスの対処の仕方などが指導される。 また、訓練生は職業カウンセリングを受けなくてはならず、これについては後で説明する。

@)カスタマーサービス就労トレーニング (2週間)

 これは、コモングラウンドと提携を結んでいるホームディポーという材木や造園・園芸用品専門の大型スーパー、そしてその他の大型スーパー(日本でいうダイエーやコーナン)のカスタマーサービスのポジションに就くため、お客さんのクレームの対応や接客の仕方を学ぶプログラムである。プログラム提携会社のホームディポー社は、このプログラムの卒業生を優先に採用することを約束しており、この会社のカスタマーサービスの仕事は時給が良い上に(9ドルから10ドル以上)、諸手当がついており、会社の株を買うチャンスも与えられている。

 A)ホテル接客業プログラムMarriot Internationals Pathways to Independence”(7週間)

 これは、将来一流ホテルで就職できるよう、ホテルでの接客指導が行われるプログラムで、マリオットインターナショナルがスポンサーをしており、「マリオットインターナショナルズ・パスウェイトゥインディペンデンス」という名前がついている。このプログラムでは参加者はホテルのドアマン、受付、ルームサービス、といった仕事をきちんとこなせるよう接客マナーなどを学習することになっており、このプログラムの提携パートナーであり、スポンサーのマリオットホテルインターナショナルは、卒業生の就職口でもある。このプログラムの卒業生はマリオットをはじめ、その他NY市内の様々な一流ホテルの仕事に就いている。これらの仕事は高給のうえ手当てがしっかりついており、昇進のチャンスもあるため(海外勤務も可能)、就労トレーニングを受ける人々の間でとても人気が高い。毎回、トレーニング参加定員11人という限られた窓口に、80人以上の応募者が殺到するという。

 B)調理就労トレーニングNeighborhood Kitchen”(5ヶ月)

 DCセントラルキッチンのロバートエガ−氏が「コモングラウンドにうちと同じシステムを導入するよう奨めている」と言っていたので、おそらくこのトレーニングのアイデアはDCセントラルキッチンから来ているのだと思う。実際、プログラム内容は、規模は小さいがDCセントラルキチンのそれと類似している。ただ、食材の救済活動などはされておらず、このプログラムではタイムズスクエア支援住宅内のカフェテリアのシェフにより基礎的な調理技術のほかにサービスの仕方の指導などが行われている。このプログラムの卒業生の多くがタイムズスクエア周辺企業のカフェテリアなどへ就職している。このプログラムに参加する訓練生が作った食事は、NY市内の非営利団体やホームレスのシェルターなどに配給されているが、DCセントラルキッチンのような大規模な配給活動は行っていない。またケータリングサービスなどもしておらず、あくまでも調理とサービスの指導のみが行われている。

 C)オフィスワークトレーニング&ビル管理整備就労トレーニング(6ヶ月)

 このプログラムでは、オフィスでの一般事務の仕方やビルの整備作業の仕方などが教えられる。このプログラムは先に紹介した短期間の就労プログラムと違い給与手当てが出るので、タイムカードをきちんと作って実際の職場と同様スーパーバイザーに提出しなくてはならず、それをしていないものは給与をもらえない。また残業は一切してはいけない事になっている。

 プログラムの基本的なスケジュールは、午前中はコアトレーニングに出席し、生活能力・一般常識などの授業を受け、昼からは実務をふくむ就労トレーニングをするというもので、就労トレーニングの内容は、オフィスワークかビルの整備・清掃のどちらかとなっている。どちらを選ぶかは個人とケースワーカーが相談して決められる。

 オフィスワークの場合はコンピューターの使い方、ファイリングの仕方、電話の応対の仕方などが教えられ、毎日一般企業や各種団体のオフィスで一般事務をしていくために必要な能力と知識が教授される。このトレーニングは若い、あるいは中年の女性・男性に人気がある。ビルの整備・清掃に関するトレーニングは、コモングラウンドのビル整備士が指導にあたり、基礎的なビルの整備技術を指導する。技術者として免許を取れるほどの専門技術や知識をこのトレーニングを通して得るわけではないが、一般的なビルの管理・整備のための従業員としての仕事は処理できるようになる。また、もしここで指導する以上の技術を学びたい人がいる場合は、他の団体へ紹介する事もここではできる。このトレーニングを受ける人の多くは男性である。ビルの清掃や管理は、人とのコミュニケーションをあまり要しないので、特にホームレス歴が長かったり、長期の投獄生活を送った人で対人関係がうまくできない人がこのトレーニングを受ける事が多いという。

[職業カウンセリング]

 職業カウンセリングは、就労トレーニングの中で最も大切なプログラムで、既に述べたように就労トレーニング参加者全員が受けなければならないことになっている。参加者は職業カウンセラーと定期的に面会し、訓練で何か問題がないかどうか話し合われる。さらに、カウンセラーは参加者が受けているトレーニングの指導講師とも面談し、訓練生が問題無くトレーニングを受けているかどうかチェックをする。もし何か問題があった場合、カウンセラーは参加者や指導教官と話し合い、問題の解決のための仲介役を務める。よく起こる問題はホームレス状態の間に身につけてしまった自己中心的な考え方のせいで、他の訓練生と上手くやっていけない、指導教官の指導を聞けないなどである。このような問題があった場合、職業カウンセラーは訓練生と面会し、それらの性格上の問題を訓練生が乗り越えていけるよう根気良くカウンセリングにあたることになっている。

 さらに、カウンセラーは訓練生が受けているトレーニングが彼らに本当に合っているかどうかを綿密にチェックし、訓練生達がそれぞれのニーズと関心に見合った職業訓練を受けられるようにコーディネートをする。たとえば、訓練生が求めている職に対し、彼らの学歴が見合っていない場合はきちんと彼らがそれなりの教育を受けられるよう、専門の団体に紹介したりすることもある。

 職業カウンセラーはコアトレーニングの講師として、彼らがどうすれば仕事を失うことなく自立しつづけていけるかなどの生活・就労姿勢や仕事への価値観に関する指導にもあたることになっている。これらの職業カウンセリングはグループで行われる事もあれば、訓練生と一対一で行われる事もある。

 また、カウンセラーは、訓練生の就労・自立能力がきちんついているかを定期的に査定し、就職活動を開始出来る準備が出来ているかどうかを判断しなくてはならない。就職していけると判断された訓練生は、2ヶ月から3ヶ月間にわたる就職活動を職業カウンセラーと共にはじめる。この間、履歴書の書き方、面接の受け方、難しい質問(依存症や前科についての質問)の対応の仕方などが職業カウンセラーやケースワーカーによって指導される。

 プログラム卒業基準は、@職業カウンセラーときちんと定期的に面接をしていること、A週2025時間、5日間の就労トレーニングを規則違反なく修了していること、そしてこの期間内に少なくとも4ヶ月間の実務トレーニングを修了して、トレーニングの成績が優秀であること、Bライフスキルトレーニングの授業にきちんと出席していて、その成績が優秀である事、C職業カウンセラーと共にきちんと就職活動をし、仕事を見つける努力をしていること、などである。

 これらの基準を満たした訓練生はプログラムを卒業し、就職していく。訓練生がプログラムを卒業した後、カウンセラーは6ヶ月間卒業生と彼らの就職先の雇用者と連絡を取り合い、きちんと卒業生が仕事を続けられているかどうかチェックする。もし問題があった場合は、カウンセラーは仲介役となり問題解決に向けて双方と話し合いをすることになっている。また、卒業生がさらにステップアップするため他の仕事を探したい、あるいは転職をしたいと言う場合の相談に乗ったりするのもカウンセラーの仕事である。卒業生には卒業後もライフスキルトレーニングの授業に出るように奨励し、彼らが問題無く社会に順応し、自立をし続けていけるようにする支援するようにカウンセラーは補助している。

 職業カウンセラーは、コモングラウンドとアーバンサービスセンターのスタッフが勤めている。

 



[1] 福祉受給者用ホテルとは、通常Welfare Hotelとよばれている施設で、福祉援助を受けている人が安価な料金で短期間(1週間から1ヶ月程度)宿泊できるようになっている。しかしその他の支援サービスは皆無で、殆どの福祉受給者用ホテルは犯罪と麻薬の坩堝となってしまっている。

[2]ここでいうある程度の自立とは、仕事をもっており自活ができるということである。彼らの支援住宅の入居者規定は詳しく後述する。

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