ホームレス自立支援活動海外事例報告書

ケース@ コーリーションフォーザホームレス (マンハッタン、NYC)

【団体の歴史】

 20年前、NY市内の路上で眠っていた一人のホームレス男性と一人の弁護士との出会いがこの団体の生まれたきっかけとなった。路上で野宿していたホームレス、ロバート・カラハンと通勤途中出会った弁護士ロバート・ヘイズが、「NYの全ての人間がベッドで寝る権利が法律で保護されるべきである」と共に訴え、同士を集いNY市と州を相手取り裁判を起こしたことが、この団体が生まれる基盤を作り上げた。この裁判で勝訴した後も、この訴訟の為に立ちあがった人々が引き続きホームレスのための運動を続け、その活動がその後団体としての形を持つようになり現在のCFTHに至ったのである。

CFTHの団体宣言―Mission Statement】

CFTHは全てのホームレス(男性、女性、子供を含む)を援助するアメリカにおいて最も古く最も進歩的な非営利団体である。我々は“市民社会において、全ての個人は適切な住居、十分な食事、そして生活を営めるような仕事に就労する機会を持つという基本的権利を持っている”という理念に基づいてホームレスの救済活動に全身全霊をささげている。1981年のカラハン-キャリー裁判における我々の初の勝訴は、全てのNY市民がシェルター(避難所)で眠る確固たる権利を保障した。その勝利は、困難の度合いに関わらず全てのホームレスが尊厳と威厳をもって生きる価値のある人間であるという我々の信念を世の中に広めてくれた。以後、CFTHは様々な訴訟、草の根運動、教育、そして直接支援活動をつづけ、多くの野宿者たちから貧困の永遠の解決を目指し闘いつづけている。ホームレスと貧困問題の唱道に努めると同時に、我々は直接支援活動によって、毎日NYの3,500人以上のホームレスたちの窮乏に援助と支援を行っている。CFTHはホームレスの男性、女性そして子供達の目前のニーズに対応する傍ら、彼らの窮地に対し長期にわたる問題解決の支援を行っている。このホームレス救援活動の経験と知識をもって、人間が人間らしく生きていけるように、効率のよい抜本的なホームレス問題解決策を提唱することに我々は日夜、努力を惜しまない。

 原文 (Original)

The Coalition for the Homeless, the nations oldest and most progressive organization helping homeless men, women, and children, is dedicated to the principle that in a civilized society every individual has a fundamental right to decent shelter, sufficient food, and the chance to work for living wage.

Challahan v. Cary, our first legal victory over the City of New York in 1981, guaranteed the bedrock right to shelter for all New Yorkers.  The triumph helped broadcast our conviction that every homeless person regardless of his or her level of turmoildeserves to live with dignity and respect.  Since then, the Coalition for the Homeless has fought for lasting solutions to the crisis of mass homelessness through litigation, advocacy, grassroots organizing, public education, and direct services.

While the Coalitions advocacy efforts address the large-scale issues of homelessness and poverty, our direct service programs provide immediate, critical relief to more than 3,500 homeless New Yorkers everyday.  The Coalition meets the immediate needs of homeless, men, women and children while we work for long-term solutions to the crisis of mass homelessness.  We provide a continuum of care from emergency assistance, to transitional services, to programs that enable permanent self-sufficiency.  We use this frontline experience in serving the homeless to advocate for fundamental solutions that are humane and more cost-effective than current government programs.


インタビューから・・・・ 

(コミュニケーションディレクター、ジェン・ナッセルさんとの会談をもとに)

【自立へのハードル】

―CFTHが指摘するホームレスが職につくための困難な点

 

 ホームレスの自立にあたって困難な点は、日本におけるホームレスのそれとほぼ差異は無いと考えてよいと思う。インタビューから聞き取ったホームレスが直面する困難な点は、
1)連絡先の無い事、
2)安定した職業につくだけの教育レベル、技術、知識の欠落、
3)自尊心の低さ、
4)就職情報の届きにくさ (ネットワークが無い、紹介してくれる人がいてない、新聞などの広告を見る機会が無い)、
5)薬物、アルコールなどの依存症、
6)就職活動をするために安定した生活基盤を気付くだけの経済力がない、ことなどである。

 日本と同様に、NY市内でも住宅は慢性的に不足しており、マンハッタン市内において空き部屋のテナントが48時間以内に決まらない事はないと言われるほど、賃貸住宅の競争率は高い。また、NYで仕事をみつける事はとても難しく、どのような職種でも、空けば直ぐ埋まるというのが現状である。また、アメリカは学歴だけではなく、経験と能力を重視する実力社会であるため、技術や経験が乏しいホームレスの人々が安定した一般職業に就職することはきわめて難しい。工場などの単純作業の仕事は市内を離れ、郊外に渡ってしまったことも、技術経験の少ないホームレスを含む下層階級が就職できたとしても不安定なサービス業にしか就けないという現状を生んでおり、結局またホームレスに逆戻りと言うケースが少なくない。このような背景から、特別な職種の開発をしている団体がアメリカでは増えているが、CFTHはあくまでも一般的な社会生活への帰還と自立を目指し、特別な職種の開発ではなく、一般職種への再編入を目指したプログラムの開発をしている。そのプログラムの一部の内容を以下に報告しようとおもう。

  CFTHの自立支援プログラム:COALITION PROGRAMS】

[CFTHの自立支援プログラム概要とコンセプト]

 CFTHの自立支援プログラムの成功の秘訣は、ホームレスの目前の必要に応じるだけではなく、一人一人の個人の個性とニーズにそってその人に合った長期的な自立支援プランを立てて支援するところにある。ホームレス状態から脱出し持続した自立を獲得するためには、ホームレスの一人一人が確実に経済・社会的自立および精神的安定を再得できるように援助する事が重要である。そのために、CFTHは住宅確保、就労訓練を助けるさまざまな直接支援プログラムを提供している。


 [T]危機仲裁プログラム−Crisis-Intervention

 これはホームレスの緊急のニーズに対し事務的遅延のない、早急な対応と支援を行うプログラムである。CFTHのオフィスには相談窓口が設置され、常時約30名からなるカウンセラーが彼らの要求の対応に努めている。長期的なホームレス状態からの脱出より、ホームレスになりかけている人をホームレス状態に陥る前に助けるほうがより効率的で、簡易であるという経験的見地から、このプログラムは設けられている。相談窓口には、日々50人から75人のホームレス状態の人、あるいはホームレス状態に陥りかけている人達(家賃を滞納して追い出されそうになっている人々)が、団体のスタッフに相談に来ており、スタッフ・カウンセラーは公的機関と比較にならないほど迅速にホームレスに陥る危機的状態にある人々の要求と問題の相談に応じている。

 私がインタビューに訪れたとき、この危機仲裁プログラムを訪ねた人々のための待合室で、私もネッセルさんを待っていたが、待合室にはケースワーカー達との面談を待っている老若男女のホームレスの人々が30人ほどいてた。待合室のスミには食事が出来ない人々の為に無料のマフィンとミネラルウォーターが置かれており、それを無心に食べている男性たちの姿が印象的であった。見るからにホームレスと言う人もいれば、最近ホームレスになったとしか思えないほどきちんとした身なりの人まで様々で、NYの住宅事情の悪さを物語っていた。

 

例−1)アンドレアは緊急の家賃の援助を求めて当センターに来る。彼女と彼女の小さな娘は立ち退きまであと1日と言う切羽詰った状況だった。アンドレアは夜勤をしており、幼い娘の面倒を見てくれる託児所やベビーシッターを見つけられなかったため、子供の面倒を見てくれる親戚が見つかるまでの間、彼女の勤務時間は減ってしまい、収入がどんどん減っていき家賃を滞納してしまった。子守りがみつかり勤務時間が増えてた後、なんとか家賃の滞納金のうち2000ドル(約20万円)を工面できたものの、残りの1,050ドルが工面出来ず、ついに立ち退きを迫られる事になった。公的援助の窓口で援助を断られた後、ついにCFTHに最後の望みを託してやって来た。CFTHの危機仲介のカウンセラーはアンドレアに家賃援助金をその日のうちに受給し、アンドレアと彼女の娘はホームレスにならずにすんだ。(CFTHのプログラムサマリーより引用・翻訳)


[U]リハビリテーション (Rehabilitation)

 これは経済社会自立の基盤となる心身の自立への一歩を踏み出す手助けをするプログラムで、医療知識のあるカウンセラーたち(医師免許ならびに看護免許があると思われる)が常勤しており、アルコール、麻薬等の依存症、精神病、およびエイズなどのホームレスの人々の身体的問題に対応している。カウンセラーはあくまでもクライエント(CFTHに援助を求めてきた人々)が病院や施設に入る必要があるかどうかをチェックし、その必要がある場合はその施設との仲介、紹介を行う。カウンセラーは紹介作業だけでなく、その施設にクライアントを移した後も、モニター活動をつづけ、リハビリがちゃんと行われており、本人がきちんとリハビリを受けているかなどを定期的にチェックもしている。


[V]就労支援プログラム First Step Job Readiness Program

 CFTHの就労支援プログラムは女性のためのトレーニングで、男性のためのトレーニングはやっていない。なぜ彼らが女性のためだけにトレーニングを行っているのかと言う理由は、このプログラムがもともとホームレスの女性たちとのカウンセリングから生まれたという背景が一つにある。ホームレスとなった女性の多くは家庭内暴力の被害者で、自分で生活をしていく能力が欠落している人が多い。CFTHではもともと就労トレーニングのプログラムはなかったが、これらホームレスの女性たちのカウンセリングをしているうちに、彼らが自立をするためには就労意欲を促進させるカウンセリングだけではなく、実際に就労するための技術、能力を身につける手助けをする必要があるという、経験的発見からこのプログラムは生まれた。

 男性のトレーニングをやっていないのは、トレーニングが男性には必要無いというのではなく、たまたまこの団体ではやっていないだけだと言う事らしい。時間と予算と、十分な人材でさえあれば、男性のトレーニングのプログラムも始めたいとCFTH関係者は述べている。

 このプログラムは正式には、1991年に「ファーストステップ・ジョブ‐レディネス・プログラム」という名前がつけられ、ホームレスの中でも特に弱い立場に置かれている女性、シングル・マザー(独身の母親達)のために設置された。このプログラムは、毎年約150人の低収入でホームレスの女性たちに対し、就労トレーニングおよび自尊心の再構築といった彼女たちが労働現場に再参入し、経済的自立を獲得するために必要な価値観や姿勢などの習得を支援している。

 新しい福祉制度下において福祉を受けてから労働現場への再参入をするまでの期間が定められるようになり、福祉受給中労働現場へ参入するための就労トレーニングを受けなくてはいけない事が義務付けられている。しかし、殆どの者がまともな職業を得るだけの技能や能力を持っておらず、またNY市の就労訓練は不適当な内容(ファイルの整理や公園の清掃など)で福祉受理者の根本的自立支援にはなっていない。そこでCFTHは、彼女たちがまともな職業、つまり保険や休暇などの手当てがついてこない不安定なサービス業ではなく、高給で手当てのついたオフィスなどの事務職につけるような技能を身につける手助けをしている。 

【就労トレーニングのカリキュラム】

 このプログラムは16週間にわたって行われ、初めの4週は授業、そして残りの期間は一般企業(一流企業である事が多い)での実務研修からなっている。初めの4週間は毎日(月曜から金曜)CFTHで授業がある。授業時間は合計40時間で、授業では、まずコンピュータの使い方(ワード、エクセル、インターネット、電子メールの使い方など一般事務で必要とされる知識)、事務経理などの知識などの実用的技能などが指導される。

 これらの授業は、The Fund of the City of New York (CFTHのパートナー機関)によって行われる。クラスのサイズは小さくするよう心がけられ、1人の教師に対し7人の生徒というのが一般的である。また、これらの授業と平行して医療・診療カウンセリングの専門家が家庭内暴力、子供や家族とのトラブルなどの問題を抱える女性のためのカウンセリングも必要に応じて行われ、プログラムの参加者がプログラムをきちんと続けて就職し、自立していくための精神的安定を保てるよう支援している。

 実務的授業のほか、一般企業の研修がはじまる直前に、特別授業としてビジネスマナーとコミュニケーション(挨拶の仕方、話方、電話の応対、ビジネスランチ、ディナー、パーティーでの作法、服装、髪型、化粧の仕方など)が指導される。これは、CFTHのスタッフではなく、一般の企業からのボランティアが、CFTHの就労プログラムに参加している女性の為に行っている特別授業である。参加している企業は、世界的に有名な化粧品会社のエスティーローダー(Estee Lauder)やスタイルワーク(Style Work)などで、これらの会社のビューティーコンサルタントによって、就労トレーニングの参加者は専門的な化粧法、身だしなみの指導を受ける。生活に追われ、お洒落をして自分を磨くなどという精神的及び経済的余裕の無い女性達の自尊心を向上させるために、これらの活動が行われている。また、仕事場に来ていく服が無いという人の為に、ドレス・フォー・サクセス(Dress for Success)や ザ・ボトムレス・クロセット(the Bottomless Closet)というブティックが仕事場で着るスーツなどを無料で提供している。

 これらの授業のあとはインターンシップ(実務研修)がある。インターンシップ(研修)は12週間にわたり一般企業でおこなわれ、主に事務職員の研修生として実務研修をすることになっている。詳しい研修内容は研修が行われる企業と職場によって少しづつ異なるが、殆どの場合が一般事務(ワープロ、表計算、伝票整理など)である事が多い。研修期間中は、CFTHのケースワーカーに週2〜3回、研修内容などを報告することが義務付けられており、研修生として本当に研修をきちんと問題無く行っているか、定期的にチェックされる。研修生が直面する問題としてセクシュアルハラスメント、同僚からのいじめ、上司からの冷遇などがあるが、このような問題があった場合は、ケースワーカーが仲介者となり問題解決に向けて支援する(研修現場を変えるなど)。 基本的には研修職場では、上司以外の人にはあえて研修生がもともとホームレスであったと言う事実は知らさない事になっている。 それはあえて個人のプライバシーに関わる事をわざわざ職場の人間に伝える必要が無いと言う考えによるものであって、あえて隠しとおすべきであると言うのではない。

 このプログラムをきちんと卒業できた女性の数は年間全受講生の70%で、卒業生の90%以上は研修したところより良い職場に就けている。この高い就職率は、まずハードな就労プログラムを卒業して就職するだけのやる気が本人にあるかどうかを、事前のカウンセリングで確かめてからプログラムに参加させているということ、そして研修をすると言う事によって、一流・一般企業での実務経験を積むことができたということのお陰であると思われる。

 アメリカでは、実力と経験が就職の鍵を握っているため、職歴がまったく無いというのでは、まともな仕事を持つことは大変難しい。それゆえに就職活動前に就労プログラムに参加し、一流企業での研修を終えたという事を履歴書に書ける事は就職するのに大きなプラスになっている。また、研修現場が中小企業ではなく、大手の一般企業(ChaseBank, Citibank, TimesWarners 等)であり、研修する事によって紹介状をこれらの一流企業の上司から書いてもらえると言う事も、ネットワークのない彼女らがマイナス点を乗り越えていく上で大変役立っているようだ。

就職活動支援】

 NYのホームレスが就職しにくい点として、ネットワークの無さ(紹介する人がいない)、情報の届きにくさ、そして競争率の高い就職市場で勝ち残るだけの経験、技術が無いと言う事があることは既に述べた。技術と経験に関しての支援としては、先に述べた就労トレーニングがあり、このトレーニングの一環である研修が就職活動の情報を得るのにも役に立っている。さらに、企業での研修活動は実務経験を積むとだけでなく、研修中の仕事振りさえ認められれば研修先の上司から新しい職場の紹介、あるいは其のまま職場に残こることも可能であるため彼らの就職先にもなっている。それ以外の就職先に関してはCFTH自体に寄せられる求人情報、あるいは求人雑誌、一般求人広告に目を通し本人に合った仕事先を見つける手助けをケースワーカーがしている。

 ホームレスのための特別な産業の開発にはCFTHは取り組んでいない。特別産業や職種の開発にあたっていないのは、「ホームレスの自立とは、彼等を普通の社会で自分の力で生きていくことをであり、社会から隔離したかたちで支援しても彼らの自立を実現する事は出来ない」というCFTHの基本理念からきている。特別職種を開発する事によって、そこでしか働けなくなったり、そこでの人間関係でしか生きていけないというのでは、本当の自立の支援にはならないというポリシーに基づき、あくまでも一般社会の中へ還元していける自立の支援のあり方を彼らは模索している。この考えは彼らの就労トレーニングのあり方にも反映されている。


[W]教育支援

 日本も同じであると思うが、学歴社会のアメリカにおいて安定した職業に就くには、まず最低でも高校の卒業資格、あるいは其れに相当するGED(通信教育による高卒の資格)が必要である。しかし、多くのホームレスはその資格を持たないことがある。CFTHでは、その資格が無い人々のために通信教育で資格が取れる手助けをしている。スタッフ、あるいはボランティアの手助けによって、マンツーマンで卒業資格が得られるように教育指導をしている。


[X]カウンセリング

 カウンセリングは、CFTHのホームレス自立支援の中で必要不可欠なものである。しかし、CFTHではカウンセリングプログラムという独立したプログラムをもたず、カウンセリングは、その他のプログラム(医療、リハビリ、就労、住宅 など)と併用して必要に応じて行われている。また、プログラム別にケースワーカーを振り分けるのではなく、一人のクライアントにつき一人のケースワーカーがつくというのが一般的で、殆どのケースワーカーが危機救済から、就労、住宅確保までのカウンセリングとモニターリングを継続的に行っている。(ただし、医療カウンセリングに関しては例外で、医療カウンセリングは専門の職員がカウンセリングにあたっている。)

 CFTHで働く職員の殆どがケースワーカー、ソーシャルワーカー、カウンセラーとしての役割を果たしており、危機救済援助のカウンセリングにあたっているのが約30名、其のうちの半分以上がカウンセラーとしての資格を持っている。全てのプログラムはこれらのスタッフの献身、厳格そして誠実なカウンセリングが潤滑油的役割を果たす事によって、成功していると言って良いだろう。ホームレスとして孤独と挫折、絶望を味わった人々にとって、ケースワーカーたちの持続的な激励、支援は彼らが求めている最も大切な心のケアであり、CFTHは時間が許す限りクライアントのニーズ、問題に対応するよう努めている。また、一対一のカウンセリングが苦手な人には、立場の似た人達と合同のグループカウンセリングなどが用意されている。


[Y]住宅支援      

【住宅支援の基本的コンセプト】

 CFTHの住宅支援の基本的なポリシーは、「家と呼べる場所を探す」ということである。つまり、寮やシェルターと言うのではなく、心身ともに安らぐ事が出来る「家」探しが彼らの住宅支援のモットーである。といっても、NYCの住宅状況の悪さは世界的に有名で、本当に「家」と呼べるまともな住宅を確保するのは中産階級の人々でさえも極めて難しい。安定した住宅を確保できなければ、いくら安定した仕事を持っていてもそれを継続できず、ホームレス状態に逆戻りという悪循環が起こる。こうした事実を背景に、CFTHではとにかく何でも良いから住居を与えるというやり方ではなく、あくまでも「その住宅を彼らの心身の安らぎと安定を与える家になるかどうか」ということを念頭において彼らの住宅確保の支援にあたっている。

 この考え方から、CFTHの住宅支援プログラムは、ホームレスであれば誰でも参加できるという風にはなっていない。参加するには、確保した住宅を手放すことなく継続的に住みつづけることが出来るだけの経済力があるか、あるいはその能力を獲得しようとするやる気があるかがまず問われる。つまり彼らの住宅支援プログラムは、ホームレスの誰もが受けられると言うのではなく、一定の自立能力(あるいは潜在能力)が備わってきたクライアントだけが受けられるシステムになっている。プログラムの参加条件として、1)薬物アルコールなどの依存症が無いか、あるいは克服できているか、2)高校卒業資格あるいはGED(高校卒業資格に相当する資格)があるか(あるいはその資格獲得に向けて努力をしているか)、3)2)に関連して、あるいはそのような職業につくだけの能力と動機があるかなどがある。

 こうしてみると参加条件はとても厳しいように見うけられるが、実際ホームレスに逆戻りしないためには、これぐらいしっかりと基盤を築いてなければいけないと関係者は述べている。またホームレスから住宅を確保するまでにいたる全ての段階でしっかりと必要な時間をじっくりかけて彼らをサポートするシステムを持っているので、この条件を満たすのは決して無理ではないというのがCFTHの意見である。実際、世間一般のステレオタイプとは裏腹にホームレスの人達の多くが、これらすべての条件に合うようになって、まっとうな社会生活を送りたいが、そこにいたるまでにある全ての段階のハードルを自分一人で乗り越えていくのは難しいというのが現実である。CFTHはそのハードルを一つ一つ越えていく支援を提供している。そしてCFTHの支援の手をかりて、この参加条件を満たすまでの努力を続けるホームレスの人は決して少なくない。実際、この条件を満たすまで努力をしたホームレスの人のほうが、CFTHの住宅プログラムで確保できる住宅件数よりはるかに多い。この事実からも、いかに住宅状況がホームレスの増加に深刻な影響を与えているかが分かるだろう。

【レンタル・アシスタント・プログラム:Rental Assistant Program (RAP)】

 このプログラムは、心身、経済的自立をするまで後一息と言うところまで来ているホームレスの人々に、200ドルから400ドルまで(平均300ドル=約3万〜3万2000円)の家賃の援助を行うと言うものである。この援助は2年まで(延長される事もある)続き、個人の場合の平均援助額は200ドルから300ドル、家族の場合は300ドルから400ドルである。

 このシステムはホームレスの人々が自立していく過程での給与とNY市内の平均家賃のギャップを少しでも埋めて、彼らの継続した自立を支援しようと言うものである。このプログラムの利用者の属性は老若男女、実に様々な人が利用している。

 日本も同じような考え方があるが、個人主義が主要な文化的価値観であるアメリカでも、「福祉に頼って生活する」というのは恥ずかしい事だと考えられている。また、福祉に頼る人間は怠けていると一般的に強く信じられている。このレンタルプログラムの内容を私の大学の教え子に話したときも、「援助に頼って自分で稼がない人が逆に増えるのではないか?」という声が圧倒的に多かった事実は、このアメリカ社会に浸透する一般的な誤解を裏付けていると思う。しかし、実際はこのレンタルプログラムの支援を受けた3分の1の人が2年の期限を待たず、この支援から自立し、さらに安定した住宅や仕事にへと就いていっている。全体の85%のRAPの卒業生が最終的に社会、経済、精神的自立を果たしている。現在CFTHではこの卒業生がその後も継続的に自立しているかのフォローアップ調査・カウンセリングを計画している。

 このプログラムはその成功から、現在NY市及び州からホームレス支援のモデルプログラムとして奨励され、このプログラムの補助金の支給が市と州から出されるようになった。その結果、他の支援グループも同じプログラムを始めている。

【分散型住宅プログラム:Scattered Site Housing Program】

 分散型住宅プログラム(SSHP)は1989年にはじめられ、ホームレス状態およびエイズ(ならびに不治の病:精神病、癌など)に苦しむ個人と家族に対して設けられたプログラムである。病気のため入居拒否にあっているホームレスの人々を救済するために、カウンセリングと医療サービス、そして住宅確保といった心身と経済的ケアのサービスの提供もこの住宅プログラムはおこなっている。また病気とホームレスと言う事情のため、家族と連絡が取れないで死期を待つ人々の為に、家族との連絡を取り人間が人間としての尊厳を保ち死を迎えるための手助けをすることもしている。

 クライエントたちが、より心地よい生活が出来るようにカウンセリングだけでなく、食事配達やより良い家具等の設備の設置、そして必要に応じてクライエントの為に買い物を代行、車での送迎、服の提供、彼らの病気の治療に必要な医療品及び器具の提供なども行っている。また、彼らの病気と精神状態によっては、彼らがもう一度働けるようになるための就労トレーニングも行っている。また、彼らが孤独に苦しまないように、地域のイベントへの参加(詩の朗読会、博物館・美術館ツアーなど)が出来るよう協力している。現在SSHPは、このプログラムに参加しているもの同士が助け、励まし合えるように、クライエント同士の交流の場を増やす努力をしている。また、クライエントへのサービス向上のため、現在勤務にあたっている全てのケースワーカーは福祉介護トレーニングを受け、専門知識を増やすことに努めている。さらに、このプログラムの参加者を増やすために、クライエントによる昼食会、ニュースレターの作成を行っている。さらに、死期を迎えているクライエントたちが、後世に彼らが生きてきた証と意味を残せるように、そして彼らの病気との闘いの記録を同じように苦しんでいる人々と分かち合えるようにするため、彼らの自伝をビデオで作成をするプロジェクトも行っている。 

【ブリッジ(橋渡し)住居:Bridge Building】

 ブリッジ住居は、最大定員17名の家族(特に子供達)と離散してしまったホームレスの女性たちにアパートを提供する事によって、彼女たちが自立し自分の子供達ともう一度共に暮らせるように支援するプログラムである。このプログラムでは、自分の住居を持つということによって、彼女たちがGEDの獲得、ならびに安定した就職先を持つ為の就労トレーニングを受ける前向きな姿勢と意欲を促進できるようにと、はじめられた。ケースワーカーは、この住宅を提供された女性たちに、カウンセリング、就労トレーニング、学習トレーニング、医療リハビリなどの様々なサポートサービスが行き届くよう世話をしている。また、ケースワーカーは彼女たちの離散した家族、子供達を見つけ、彼らが一緒に暮らせるように、必要な法的手続きからカウンセリングまでの支援を行っている。現在CFTHでは、ブリッジ住宅の住居者同士が交流を深められるよう、読書会やニュースレターといった共同活動が出来るようなプランを製作中である。

 例−2)フローラと彼女の娘は、住んでいたアパートの大家が夜逃げをしため、彼女のアパートは市が没収する事になり立ち退きを命じられた。立ち退かざるを得なくなった彼女は、ホームレスのための緊急センターに娘と共に移ってきた。しかし、緊急シェルターでの生活は彼女と彼女の娘にとっては大変困難なもので、彼女はとうとう娘を他の町の親戚の家に送らざるをえなくなった。フローラは懸命に生活を改善しようと試みるがどうしてもNY近辺でアパートを見つける事が出来なかった。フローラは仕事がみつかったと言う理由で、その月給ではとても家賃がはらっていけないにも関わらず、公的福祉援助が止められてしまい、結局仕事が見つかる前以上に悲惨な状態に陥ってしまった。ブリッジ住居のスタッフは、フローラはこの住居プログラムの条件を満たすと見なし、彼女にブリッジ住居の入居許可を与えた。その直後、彼女は娘と再び暮らす事ができ、彼女の娘は以前の学校に通い出す事が出来た。彼らは現在、元気に暮らしている。

【コアリション住宅:Coalition Houses】

 コーリーション住宅とは、38軒の終身制の独身専用アパート(Single Room Occupancy Housing:SRO)で、殆どの住居者が特別な介護が必要な人(長年にわたる麻薬・アルコール中毒を持っていた人、精神病者、特別な身体障害をもつ人、老人あるいは10年以上路上で暮らしていた人々)である。コーリション住宅は他の支援住宅と異なり、終身的に居住することができ、家賃は殆どの場合無料で、払ったとしても100ドル(一万円)前後である。このプログラムの目的は、経済的自立がきわめて困難な人々が路上で一生を終わらせるのではなく、人間らしくもう一度家で暮らす事が出来るよう支援することである。 コーリション住宅となっているビルは、市の住宅法改正[1]に伴い廃墟となったビルを市から受け渡してもらい、CFTHのスタッフが寄付と市からの援助で、特別なケアが必要なホームレスの人達の為に改築し支援住宅に改造した。残念ながら中の見学をする事は出来なかったが、一人の住居者の部屋の写真を見せてもらった。写真の部屋の住居者は元ホームレスの初老の男性で、彼の唯一の家族であるペットの3匹の犬達と彼の趣味で植木と花で飾られたその彼の部屋は「支援住宅」と言うよりは、まさにアットホームな雰囲気の「家」と呼ぶほうがふさわしいものだった。

 この支援住宅では、経済的自立が出来ない彼らがそのために社会的に孤立してしまわないように、映画会、コンサートや美術館、ブロードウェイミュージカルの鑑賞会、誕生日パーティー、ドミノ倒し大会、など様々なイベントを計画している。この住宅のディレクターはこのほかにも様々な面において、住居人たちを支援しており、昨年の春など、ディレクターは住居者の一人のために40年ぶりに彼の母親と彼との再会を実現させ、彼が彼女のもとに会いに行けるようバスのチケットをプレゼントしたなどのエピソードがこの支援住宅には沢山ある。

     例−4)ロジャーは1987年にノース・カロライナから仕事を探すためにNYに移り住んできた。彼は様々なドロップ−インセンター(一時宿泊所)や教会に泊まり、仕事を探そうとしたが、家が無い状態では仕事を見つけるのは難しかった。公的福祉援助を受けても、住居を見つける事は大変困難だった。1988年8月、彼は我々のセンターを訪れ、コーリーション住宅に受け入れられた。ロジャーは我々のスタッフの援助で、季節的な仕事を得ることが出来たが、この仕事を得ることで、彼の公的福祉援助ならびにメディエイド(公的医療補助金)までも差し止められる事になった。それからロジャーは仕事をクビになり、公的福祉援助を再度申し込む事になったが、彼の申請は拒否された。我々の団体のソーシャル・ワーカーはNY市の公園局の常勤の仕事に就けるようロジャーをサポートし、結局彼はこの仕事を得ることができ、ついに自立する事が出来た。(注:ロジャーのように経済的自立ができる人の場合は、住居費として100ドル前後の家賃を回収する事があるが、基本的にはこの住宅は無料である。)

 

 現在、2年にわたる改築作業の末、ついにコーリション住宅の全ての部屋に住居者個人専用の台所とお風呂がつけられた。このほかに、リクリエーションルームがもう直ぐ出来る予定がある。また、CFTHはこの住宅の住居者同士が仲良く生活できるようにするための話し合いが出来る集会を今後も継続していく予定をしている。


[Z]ボイスメール・プログラム (Community Voicemail)

 ボイスメール・プログラム(CVM)はホームレスである為、連絡先となる電話番号が無いという彼らの共通した問題の克服のため設置されたプログラムである。連絡先となる家の電話番号が無いということは、ホームレスの人々の仕事や部屋探しの障害となっているだけでなく、何らかの事情があって(借金取りに追われている、暴力を振るう夫に追われているなど)連絡先を持てない為、連絡を取りつづけたい思っている家族との絆も壊してしまうという問題も生んでいる。こうした様々な問題を抱えるホームレスの為に、このプログラムは現在2万6000人の電話を持たないNY市民の為に、一般家庭用の留守番電話と同様の留守番電話システムを提供している。1995年にはじめられたこのプログラムはこれまでに9千142人の連絡先の無い人々に連絡先となる電話番号を与え、家族との絆を失うこと、仕事や部屋を得る機会を失う事などからホームレスの人々救っている。このサービスを利用した76%の人が安定した仕事を見つけ、42%の人が長期的に住む事が出来る住宅を見つける事ができた。

【ボイスメールの仕組み】

 このサービスの申し込みは無料で、必要であれば誰でも申し込む事が出来る。ボイスメールの利用を申し込んだ人は、直ぐにその場でその人専用の電話番号が与えられ、もらったその当日から使用できるようになっている。この電話番号は、直接留守番電話サービスに(一般家庭用や携帯などで流れる自動録音メッセージが応答する)つながるようになっており、ボイスメール利用者本人が、自分と連絡を取る必要がある人々(不動産屋、就職しようと思っている職場の雇用者、家族など)に自分の連絡先として渡す事が出来る。留守番電話の録音音声は、一般家庭のものと変わらないので、これが自宅の留守電なのかCFTHのボイスメールなのかは分からないようになっている。留守番電話に残されたメッセージの確認は、ボイスメールボックスの番号をかければできるので、何処からでも留守番電話のメッセージを確認する事が出来る。メッセージをチェックするためにボイスメールの番号に電話をかけるだけのお金が無い人の為に、現在CFTHではボイスメールの番号のトールフリー化(電話受信者払い:日本で言うフリーダイヤル)に努めている段階で、今のところまだ現実化はしていないが、ただでボイスメールにつなげてくれるオペレーターの数を増やしている(アメリカではダイヤル0版で、全国の公衆電話からオペレーターに無料でかけることが出来る)。

 CFTHでは留守番電話サービス専用のコンピュータを設置して、各種の問題に対応できるオペレーター(1〜2名)を常勤させている。このオペレーターはボイスメールの登録者の番号に残されたメッセージをチェックすることが出来るため、登録者が使用しなくなったり、当初の目的以外(売春や麻薬の売買など)で使われたりした場合はサービスが停止することが出来る。あくまでも自立支援の目的に使われるようにボイスメールを管理できるようになっている。オペレーターは登録者のプライバシーを護るため、頻繁にはチェックする事は無いが、ボイスメールの登録者には事前に悪用出来ないようなシステムになっていることは利用者に告げられ、あそのサービスが悪用されないようにしている。


[1] 住宅問題―極端な住宅不足、老朽住居を改善するために、老朽化して居住者に危険が及ぶ可能性のある住宅の賃貸をいっさい禁止し、老朽化した賃貸住宅の所有者に新築を命じる条例をNY市は出したが、NY市内で新築するには莫大な費用がかかるため、多くの所有者は其のまま住宅を市に明渡してしまい、結果的にはさらに住宅不足を生み低所得者のホームレス化を進行させると言う悪循環を生んだ

CFTH取材後の一言】

 この団体の活動で1番気に入ったのはボイスメールシステムである。なんとも単純な発想だが、誰かが言い出すまではなかなか考え付かない支援サービスの一つである思う。CFTHは細かい事に良く気がつく団体だと思った。小さいことだが大切なことに気を配っている団体であるというのが、彼らの支援活動の一つ一つににじみ出ている。私のインタビューに直ぐに対応してくれたのはこの団体だったことも、そんな彼等の活動理念から来ているのではないかと思った。

 彼らの就労支援活動は女性を対象にしたものだったが、基本的な考え方は日本の活動にも役に立つのではないかと思った。彼らの自立支援の成功の秘訣は大手の企業との提携関係ということもあるが、カウンセリングを通してクライアントのニーズをしっかり把握している事であるとも思った。ただ、ホームレス人口の多様性を考えると、彼らの就労トレーニングはやや多くのホームレスの人にとっては敷居が高い気がした。就労トレーニングを中心に行っている団体ではないので仕方ないかもしれないが、ホームレスの根本的な自立の支援をすることを目的にしているのであればもう少し多様なプログラムが無くてはならないのではないかという気がした。
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