釜ヶ崎における福祉型自立の障壁と課題 by Naoko Kawamura
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第4章 福祉型自立の可能性

これまでの靴福祉型自立の障壁となる、日本の社会保蛙制度の鯨や・不適'一切な運用方法などを見てきた。しかし、すべての受給希望者に・生活保護が支給されれば済むのかというと、問題はそう容易では帆釜ヶ崎支援燃の聞き取りで広福祉型的こ流した高齢者の約機が・慢性的疾患を抱えて(自覚して)おり、加齢により、その数は一層増加すると考えられる。またアルコール依存症や老人性痴呆症、それらの重複疾患等は、個人の力で解決できる問題ではない。本章では、福祉型自立の可能性について、さらに詳しく考察する。

第一節:簡易宿泊所のアパート化と釜ケ崎のまち再生フォーラム

諸外国の進歩的な社会保障制度・野宿者対策から、日本は多くのことを学ぶことが。、一でき私しかし、これほど高齢期の野宿者を抱える縫駄1本以外に龍し帆'1釜ヶ崎では、福祉型自立のよりよい方向性を探る取り組みが、謝テ錯誤の中で進められている。

釜ヶ崎の簡易宿泊所は、全部で約曼万人分存在する57が、野宿者の増加と比例し^碁て入所者は減少し(ドヤ代を支払えないために路上生活へ桝テする)、その稼働率は'1紘約・・%といわ帆こうした中から・生活保護受給幅祉型自立)を脳して・.''1簡易宿泊所からアパートヘと転用する動きが、簡宿業者の中で生じている。本節では、一…その中でも、地域N・Oなどと連携し、地域づくりの視点に配慮を示している・3件'∴.1の転用アパートと、そうした動きを支える「釜ヶ崎のまち再生フォーラム」について紹介する。

2000年6月の「アプリシエイト」を皮切りに、2000年中に「陽だまり」「'おはな」{と3件のアパートが、半径100m以内の地域にオープンした。3件とも、エレベータ一付きの6階程度のマンションで、約100室の居室はすべて3畳一間、各室冷暖房・テレビ・冷蔵庫付き。1階に共同浴場、各階にごく小さな共同炊事場と洗面所がある。また、居室の狭小性を緩和し、入居者同士の交流を促進するために、1階に11〜12畳程度の共同リビングを設置している。こうした簡宿の改修工事は、NPO元気百倍一、書ネット(まちづくり再生フォーラムに賛同するNPO)が組織した元大工などの釜ヶ崎高齢労働者らが手がけた。保証金・保証人不要で、家賃は、生活保護の住宅扶助上.限ぎりぎりの月額41,800円。共益費・電気代・冷暖房費などを合わせた約5,000〜8,000円を、各人の生活補助費から支払うことになる。

転用アパートの最大の効果は、保証金・保証人が不要なため、即入居でき、生活保護申請前に、住所を確保できることにある。第一章で述べたように、現在の生活保護運用では、「住所不定者」の居宅保護申請は受理されないが、「アプリシエイト」「陽だまり」「'おはな」の3件の存在は、野宿生活者約300人の速やかな居宅保護への移{∫行を可能にした。さらに職員は、入居者を生活保護受給者として最初から想定しているため、保護申請や申請後の各種処理に対して、丁寧に応対してくれる。

これら3件の簡易宿泊所のアパート転用について助言を行い、その問題点・課題を共有し、地域づくりの視点から支えているのは、労働福祉センターや更正施設職員、住宅福祉専門家・や地域住賊ど一こよって構成される「釜ヶ崎のまち再生フ1(、.一;オーラム」である。99年9月に設立されたこのフォーラムは、地域連携プレーの中で、寄せ場機能崩壊後の新しい地域福祉・居住福祉のしくみを創出することをその目的としており、フォーラム内に分科会をつくり、地域通貨流通や、釜介護・リサイクノレ作業等の雇用創出手段の検討など、さまざまな取り組みを行っている。なかでも、高齢野宿者の居住問題を最優先課題として捉え、野宿から恒久住宅への即時移行が不可能な現状を踏まえて、簡宿の改善と活用を提唱していた。現在は、福祉型自立者の生活づくりや生保受給後のアフターケアについて、簡宿経営者らと検討を重ねている。

第二節:地域ケア

約300人の転用アパート入居者は、地域NPOや支援団体に対して居宅保護の希望を申し出た人や、アパート職員が公園などでチラシを配り声を掛けて募った人、噂を(聞いて自分から入居相談に来た人たちからなる。各アパートにおいて100の個性が、・一般的なアパートとは比較にならなレ'ほど狭小な離空間に集っている。彼らの多くが、長い野宿生活から身体的・精神的な疾患を抱えている。

転用アパートにおいて、集団生活が困難と思われる入居者の事例はいくつか存在し、何名がはすでに退所している。転用アパートは営利企業として、マスに対する快適さ1の提供を仕事としており、一人のために他の入居者が迷惑を被るならば退所してもらうしかない、という。一方で、アノレコーノレ依存高齢者の入居を援助したNPOは、彼をアパートから引き取り、NPO事務所が入っている別の簡宿に入居させて、部屋の掃除.瀧、管理などを請け負ってい私どちらの対応も、大変な労力を要しているが、一時避難的な対応でしかありえない。

福祉施策における国際的な流れは、ノーマライゼーション(i)であり、施設への入所を出来る限り避けることである。特に日本の施設環境(居室有効面積・建物総面積・職員数等)は、生活の場ではなく、収容空間でしかないものが多い。釜ヶ崎において、居宅における福祉型自立の可能性が、いまだ転用アパート入居しか、ほとんど見当たらないことを考えると、地域資源を活用しながら、疾患を抱えた人たちの転用アパートにおける自立を支える手立を考えることが、現実的に必要となる。

施設入所までの期間を最大限延ばすために、また、福祉型自立者の増加に対応するために、汎用性を持つ地域ケアシステム(ケア利用者のQOLを保障するため、保健・医療・福祉サービスを再編成するシステムii)の構築が急務である。対応困難な入居者',{一人に対して、異なる領域のサービス主体がそれぞれ専門性をもって対応し、ケースカンファレンスにおいて、問題を共有化し、連携したサービス提供を行う。ケースカンファレンスによって、現状の連携で解決可能な問題なのかどうか、その対処方法について、全ての関係者に理解される。さらに、解決できない問題について、それぞれの専門職としての課題や不足領域が明確になり、新たな専門領域との連携の開発や、織の向上をもたらし、次の事例の対処にフィードバックさせることが可能になる。また、親族のいないケア利用者の人権を保障する観点からも、異なる領域の援助者が一。1関与することは適切である(58)。

福祉に関する文化は、地域の価値観やライフスタイノレによって異なるため、地域ケアシステムは、個々の地域で、その事撤こ適応した形で創造していかなければならない(59)。釜ヶ崎において、こうした地域ケアの先駆的な取り組みになると予想されるの(が、「喜望の家」関係者によるグノトプホームの設立(2000年4月開設予定)である。「喜望の家」は釜ヶ崎において、アルコール依存症の問題を抱える人たちを、入院や施設入所ではなく、自立支援プログラムにより、簡宿など住み慣れた場所・地域から引き離さずに支援していくことを活動の中心とする組織である。併設している「のぞみ作業所」への適所などを通じた、プログラム終了後の社会復帰支援・生活支援なども同時に行っている。

「喜望の家」の設立者でもある村松氏によれ民rアプリシエイト」の一階の一部'1を、「喜望の家」が抱える精神障害(主にアルコール依存)を持つ人たちの居住空間に…充てる。すなわち、3畳一間の個室を、一人一人の居住空間とする。対象者は5,6名である(グノレープホームとして補助をうけるため)。共同リビングとして「アプリシエイト」の裏手にあるマンションの一室(6畳・4畳・2.5畳と台所)を利用する。

グループホームの居室面積基準は、一人あたり4.5畳だが、個室であること、その分共有スペースを広くとっている(マンションの1室全て)ことを評価、(簡易宿泊所を長年居住空間として利用してきた)釜ヶ崎住民の特殊性が考慮され、大阪市環境保健局によって、グループホームとして許可されることによって、月額43万円の補助金をうける。
さらに、のぞみ作業所の他に、第2作業所を立ち上げ、作業内容を「介護」にし、姜雇用の創出と釜ヶ崎における要介護者のケアを担っていくことも考えておられる。
ここには・デイケアをグループホームや傑所で、ナイトケアを転用アパートで分'≡(払連携するどい1・既存の社会資源活用の中1・ら地域ケアシステムを創っていこうとする試みがある。

第三節 釜ケ崎における介護問題と介護よ険制度

あいりん職安に登録している(白手帳保持)日雇労働者の中で、60歳以上が占める割合は全体の26,9%、白手帳を持たない高齢労働者の存在を考慮すれば、現在、釜ヶ崎の高齢化率は・割を軽く超える。さらに全体の45.7%を占める50歳以上60歳未満労働者が、高齢予備軍として控えており、釜ヶ崎における高齢化は猶予を許さない問題となっている。

日本の高齢者福祉は、ノーマライゼーションの理念よりも財政負担上の観点から地域ケアを推進する流れの中で、社会保険制度の中に高齢者介護を組み込む介護保険法を制定した。しかし、介護保険制度によるサービスは、家族による世話を前提にした(在宅サービス給付量でしかない60。家族介護が困難な者は、追加サービスの購入か、施設入所牽選択しなければならない。釜ヶ崎高齢者のほとんどは、勘ロサービスの購入が困難な単身高齢者である。

転用アパートでは現在、入居者の医療・介護二一ズが高まった場合の出口間題(施設入所など)」について、検討がされている。しかし現在、市内高齢者施設は満員の状況である。また、大量に入居させた人たちが問題を抱えるようになったからといって、大量に別の場所(施設)へ移そうとする考えは、納得のいくものではない。、施設では、保健・医療・福祉サービスが施設内で完結する。職員の数と質がともに高く、生活の場に適した居住空間があり、外部との交流が活発な小規模施設は、地域における相互補完性の観点から評価できる。しかし、施設は小規模であれ大規模であれ、人を平均化する。高齢者にとって、人生の最後の時に、それぞれの多様な人生観や生活習慣の平均化を強要されることは、大きな精神的負担である。大規模施設では、入居当時70歳前後であった人たちが大量に加齢し、一挙に介護量が増える事態に直面している。また、痴呆症の高齢者施設では、加齢により個々の痴呆レベルに大きな格差が生じてきており、施設入所ケアの限界が露呈しつつある。

高齢期における慢性的疾患や痴呆症状、それらの重複疾患を地域で支えていく場合、とくに医療と福祉の連携の円滑化が重要となる61。ホームヘルパーは、ケア利用者の生活実態を知り、疾病による身体状況の変化を日々確認できるが、医療行為を行うこ1とはできない。医療従事者がヘノレパーと連携し、身体状況の重度化を予想するととも.1(に・緊急時医療体制を確立することが必要で紘また・共同浴場などを利用する転'1)用アパートではとくに、感染症に対する指導を徹底する必要がある。厚生省は99年暮れ、「ゴールドプラン21」で、2∞0年から2005年までの5年間で、ホームヘルパーの量を、現在の倍の35万人に増やす計画を発表した。介護量の不足は全国的に認識されており、釜ヶ崎における地域ケアにおいても最も困難と思われるのは、人材の量と質の確保である。

こうした懸念の中で、地区内の高齢者を地区出身者でケアしていこうとする「釜釜介護」の動きが始まっている。「陽だまり」では昨年、更正施設大淀寮からホームヘルパー研修生8名を受け入れ、今年から正式なホームヘルパーとして2名が、要介護認定受け入れている入所者の介護を担っている。大淀寮では新たな研修生を養成しており、また「希望の家」でも同様の計画を練っていることから、「釜釜介護」は、新たな雇用の創出と介護人材の確保手段として期待されている。

住宅の整備もまた、高齢者の地域ケアにおける重要な課題である。バリア・フリー化は、高齢者が介助なしで活動できる範囲を広げ、本人の自立を促すとともに、地域のマンパワー不足を軽減する(62)。住宅関連設備の不備は、障害や寝たきり、骨折、介助項目の増加を引き起こす。現在、生活保護で支給される日用品費(生活必需品の購入に対する補助)で臥べ.‡ッドの購入が認められていない。野宿者に対する保護適用は高齢者か重度障害者のみ、全国的にも高齢・障害世帯への適用が全体の8割を超えているにも関わらずである。しかし、高齢.障害世帯のベッド.椅子による生活は、本人にとっても介護剖ことっても不可欠なものである。しかし、ベッドや椅子を使用しない生活で疲労骨折等をした場合、結局は、全額財政負担め医療扶助で医療費を賄わなければならない。こうした硬直的 な運用方汰制度の欠陥の蝿,丈結果的に社会的費用の増大をもたらすと考えられる。

第四節:適切な住居を求めて

簡易宿泊所は、福祉型自立者にとって通過施設が、終の住処か。これは再生フォーラム設立当初から続いている議論である。そして「福祉型」自立ゆえに、その決定権を本人のみに帰することができない。最低居住水準(中高年単身者で9畳)を満たす住居へ転居するためには、高額の保証金を生活扶助費(最低生活を営むきりぎりの金額支給)の中から貯金しなけれぱならなへ保証人のいない高齢者の入居を庚く受け一三入れる不動産は少ない上住宅扶助費41,800円までの家賃物件を探さなければならない。さらに、バリアフリー化されている住宅となれば、皆無である。

日本は戦後一貫し住宅建築の経済効果(生産誘発効果・乗数効果・税収増加効果等)を重視し、持家取得促進に偏重した住宅政策を採用しており、低所得者向けの公営住宅整備、とりわけ単身者用公営住宅の整備を怠ってきた。公営住宅のストックは、99年度末の時点で215万戸足らず63,96年から2000年までの5年間の総住宅建設個数730万戸(見込み)のうち、公営住宅が占める割合は、わずかに2.76%である。3章で述べたように、社会保障の一つとして居住を保障する視点が、決定的に欠けている。

同時に、民間_向けた居住スペースに関する指導も怠っており、簡宿のアパート転用プロセスでは、行政による居住空間の審査、居住面積に見合う家賃に関する指導ばく全く行われなかった(64)。96年に策定された第7期住宅建設5箇年計画は、すべての世帯が確保すべき住宅の広さや設備について定めた指針である最低居住水準については、大都市の借家居住世帯に重点を置いて水準未満の世帯の解消に努める」として、その目標を掲げていた(65)。3畳一間が水準に満たないのは明白だが、転用プロセスでは、建設省管轄機関によるチェックは必要とされていない。具体的な方策のない計画目標は、絵空事でしかない。

日本が1979年に批准し、法的拘力を有する国際人権規約第11条1項は「適切な居住の権利」の保障を国家に義務づけている。さらに、1991年国連で採択された「一般意見4」は、「適切性」の解釈として、「適切な」家賃と広さ、建築構造、衛生面での安全を備えること、としている。その理由として、住居は疾病に最もしばしば関係する鱗要因であり、適切でなレ、欠陥のある往屠及ぴ生活条件がより高い死亡率・罹患率と一定不変の可能性を持つという報告がされている(66)。

転用アパートは、緊急保護的な措置として、画期的な方法である。しかしそれは、最低居住水準に達するものでもなければ、国際人権規約に即した「快適な」居住要件を満たすものでもない。民間の取り組みに乗じて、政府が自らのなすべき措置を怠っ一てはならない。

スウエーデンでは、1975年に駿法が改正され、BS42aという項目の中で、建設するすべての住宅は、バリア・フリーであることが義務づけられている。また、821aという付則によって、障害を持つ居在者が擁する集合住宅の場合は、以前に建設された住宅においても湖水条項が入り、77年から施行されている。

フランスでは、住宅基準法改正によって、建設されるすべての住宅は、高齢者や障害者が住めるようになっていなければ、許可されなくなった(67)。

日本では、90年度以降、公営住宅の供給に関しては、バリア・フリーを標準仕様としている(68)が、公営住宅の供給数自体が極端に少ない。また、民間への対策としては、バリア・フリーの住宅建設・改造に対する助成を行っているに過ぎず、強制力を持つものではない。

国は、民間への指導を強化するとともに、その責任において、低所得高齢者向けの公営住宅の整備に取り組恥福祉型自立者の擬択の幅の拡大に努める必要があるのではないだろうか。

※注 i どんな障害を持っていても、地域の中で、ごく普通の生活を保障されるべきだとする理念。1959年、デンマークのバンクシケノレビンが提唱した。
ii 「地域ケア」はイギリスにおいて政策の理念として用いられてきた「コミュニテ{イケア」を邦訳したものだが、その轄H日本でままだ明確に定義づけられていない。本論では、手島隆久氏(「退院計画」中央法規1996,p332-333)に依った。

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