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「ホームレス」の生活実態 by Naoko fujita
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第1章 「ホームレス」について

第1節:「ホームレス」についての定義

 我々の中で「ホームレス」とは、どの様な存在として捉えられているのだろうか。そもそも「ホームレス」という人々自体を、何から判断しているのか。身なりの汚さ、駅等のゴミ箱をあさっている姿からか。また、特定の住居を所有せずにダンボール等を寝床にしている為か。

 1990年代に入り、とりわけ顕著となった大都市における野宿生活者の急増という問題に対し、解決することが困難な状態になった為、1999年5月26日に、中央省庁が「ホームレス問題連絡協議会」を立ち上げた。その中で「ホームレス」という人は、この様に定義づけられている。

 『いわゆる「ホームレス」の厳密な定義は困難であるが、ここでは、失業 · 家庭崩壊 · 社会生活からの逃避等様々な要因により特定の住居を持たずに、道路 · 公園 · 河川敷 · 駅舎等で野宿生活を送っている人々をその状態に着目して「ホームレス」と呼ぶ事とする。』とある。(*1)

 しかし実際には、「ホームレス」という言葉を使用している自治体は無い。更に、私が、「ホームレス」という語句をインターネットで検索していると、「ホームレス」という言葉についての以下の意見を発見した。

 『「ホームレス」という言葉には、以前使用されていた「浮浪者」という差別的な語句をそのまま置き換えた様なニュアンスがあります。例えば、阪神淡路大震災の際に神戸市が出した通達の中に、「ホームレスを避難所に入れるな。」というものがありましたが、これはおかしな話で、英語の本来の意味からすれば、震災後家を失った人はみんな「ホームレス」なのです。

 ところが、震災という自然災害で家を失った人は「ホームレス」と呼ばれず、失業等の社会的要因で家に住めない人だけが「ホームレス」と呼ばれてしまう。ここにはかつて「浮浪者」という言葉が持っていた「レッテルを貼って差別する」という差別語特有の機能が働いていると思います。』というものである。(*2)

 確かに私も、「ホームレス」という言葉には、差別 · 偏見的なものが含まれている様に思うが、日本における「ホームレス」という言葉の意味は、単純に家を持っていない人というよりは、住所を持っていない人というニュアンスが強いと思う。

 また、注目したいのは、国によって「ホームレス」に対する定義づけが異なるということだ。以下に幾つかの例をあげたい。

A .イギリスの場合(*3)
 @占有できる住居を持っていない状態にある世帯の一員
 A家があってもそこに立ち入れない場合、住むことが許されていない車輌や船で生活している場合、家があっても
   そこに継続的に住む理由を持っていない場合、
 B28日以内にホームレスになる可能性のある場合

B .アメリカの場合(*3)
 @夜間において定まった住居がないもの。
 A一時的宿所(シェルター · 福祉ホテルなど)に泊まっている者

C .フランスの場合(*3)
 フランスでは、「ホームレス」の定義は存在しない。その理由は、ホームレスだけの制度は「ホームレス」の隔離につながる為、「ホームレス」対策についての単独法が無く、住宅対策 · 失業対策 · 生活扶助等の一般対策において取り組む形で進められている。

 日本とイギリスにおける、「ホームレス」の定義の違いは、「イギリスの場合A」の所であり、日本の場合は、住む家がなく、道路 · 公園 · 河川敷 · 駅舎などで生活している人の事を指すのに対して、イギリスでは、家があってもそこに継続的に住む理由を持っていない場合も、「ホームレス」に含まれるという事である。

 そして、日本とアメリカにおける違いは、「アメリカの場合B」である。日本の場合は、常に特定の住居が無い人を指しているのに対して、アメリカでは、夜間に限定している事が、日本には無い考え方である。

 また、フランスにおいては、「ホームレス」について定義すること自体が差別につながると捉えている事が、日本に比べ斬新である。

 この様に、先進国の「ホームレス」の定義について記述したが、その国独自の捉え方が違っている点に注目したい。

 次節は、「ホームレス」に対する偏見を、花園大学社会福祉学科の学生を対象としたアンケートに基づき示していきたい。



第2節:アンケート結果から見られる「ホームレス」像

 私は、花園大学社会福祉学科の学生207人を対象に、本学の学生が、「ホームレス」の人々に対してどの様な考えを持っているのかをアンケート調査した。(アンケート内容については資料に添付)

 アンケートは、対象者が考えている「ホームレス」像を導き出す為のものだが、集計は、対象者の性別 · 「ホームレス」に対する認知度の違いを重視して行った。では、集計方法と共にアンケート結果を述べていく。

 まず私は、アンケート全体を、アンケート項目Bの、『「ホームレス」の人々と言葉を交わした事があるか · ないか』で分けた。更に、項目Bの結果をアンケート項目Aの『「ホームレス」の人々を何回見かけたことがあるか。』で回数別に分類し、その回数別に分類した対象者を、アンケート項目Cの『「ホームレス」の人々に対してどの様なイメージを抱いていますか。』で分類した。

 全体で、項目Bの「ホームレス」を見た事はあるが、言葉を交わしたことは無い人は185人であり、Aの項目で、a は11人 · b は63人 · c は111人であった。更にこの a 〜 c の、回数別対象者の、項目Cでの『「ホームレス」の人々に対してどの様なイメージを抱いているのか。(複数回答)』という質問に対する回答上位は、以下の通りであった。

(資料@参照)

a 1 .2回
 「b .不潔」 6人、「h .貧しい」 5人、「a .臭い」 3人、「c .かわいそう」 2人、「i .怖い」 2人、「p .普通の人」 0人、
b 3〜10回
 「h .貧しい」 41人、「b .不潔」 23人、「c .かわいそう」 27人、「a .臭い」 15人、「p .普通 の人」 4人
c 11回以上
 「h .貧しい」 69人、「b .不潔」 66人、「i .怖い」 45人、「c .かわいそう」 41人

 b 3〜10回 · c 11回以上「ホームレス」を見た事のある人は、共に「i .怖い」という 印象が、「p .普通の人」という印象を大きく上回る結果になった。

 また、見かけた回数に限らず、a .b .c の共通点として、上位2つに「b .不潔」 · 「h .貧し い」がきている事にも注目したい。

 今度はアンケート項目Bで、『言葉を交わした事がある』と答えた人についての結果を、上記と同様の方法で示していく。

 このグループは、全体で21人おり、a は1人 · b は3人 · c は17人である。このグループの中でも1番人数が多かった c と答えた対象者について、項目Cの結果は以下の通 りであった。(資料A参照)

c 11回以上
 「b .不潔」 11人、「h .貧しい」 8人、「i .怖い」 7人、「p .普通の人」 6人

 ここで私が気付いたのは、言葉を交わした事がある人は、言葉を交わした事が無い人に比べて、「p .普通の人」と選択した人の割合が高かった。彼等がどの様な状況で言葉を交わしたのか、幾つかの例を以下に挙げる。

〈A .1回生19歳大阪府出身の男性〉
 炊き出しや夜回りのボランティアで「ホームレス」と言葉を交わしており、アンケート項目Cでは、「j .善良」 · 「p .普通の人」というプラスイメージばかりを選択している。

〈B .1回生20歳大阪府出身の男性〉
 「ホームレス」から声をかけられ、「人生こうなったら(自分の様な境遇になったら)終わりやで。」と言われたそうだ。アンケート項目Cでは、「p .普通の人」 · 「q .その他(なんか良く分からないが、我々と一緒だと思う。人間だから。)」という、彼もプラスイメージを選択していた。

〈C .1回生20歳岡山県出身の女性〉
 『朝、家の前に(ホームレスが)いたので、「おはようございます。」と挨拶をしたら、「おはよう。」と返事をしてくれた。』と書いている。アンケート項目Cでは、「a .臭い」、「b .不潔」、「c .かわいそう」、「h .貧しい」、「i .怖い」、「j .善良」、「p .普通の人」と答えており、このCさんが女性であるからだろうが、「ホームレス」の人を、「p .普通の人」と捉えながらも、「i .怖い」というイメージを持っている事が伺えた。

〈D .2回生20歳三重県出身の男性〉
 昨年ゼミで「ホームレス」の人々を支援する団体に入り、「ホームレス」の人々と2時 間程、話したりしたそうである。アンケート項目Cでは、「h .貧しい」、「k .弱者」、「p .普通の人」を選択しており、短い時間ながら、実際「ホームレス」と言葉を交わし合った事により、彼が「ホームレス」の苦しい生活状態を察したのではないかと伺えた。

 また、逆にこの様な例もあった。

〈E .1回生18歳京都府出身の男性〉
 『殴られそうになった。』という記述しか無く、これだけでは詳しい事は分からないが、 アンケート項目Cでは、「i .怖い」のみを選b択している。

 ここで新たに分かってきたのは、女性は、アンケ一ト項目Cで「i .怖い」を選択してい る人が{男性に比べて非常に多いという事である。(資料B参照) ただ、ここで言えるの は、彼女達が、その辺りにいる「おじさん」は怖く無く、「ホームレス」の人々に対して、 「怖い」というイメージを抱いているのかという事である。女性であるから、警戒心が強 いのは分かるが、もし、彼女達が「ホームレス」であるから、「怖い」と思い込んでいる としたら、これが、「偏見」であろうと思う。また、「ホームレス」に対し、マイナスイメ ージを多くの人が持っているのは、「不潔」 · 「臭い」といった外見から判断していると推 測されるので、これが偏見につながっているのではないか、と私は仮定した。

 今度は、アンケート項目Dに対してどの様な結果が出たかを示していきたい。その際に、 アンケート項目Aの見た事がある回数別に分け、更にアンケート項目Bの「ホームレス」 の人々と言葉を交わした事があるか · ないかで分けてみた。

 合計207人のうち、有効回答者数は163人であった。(アンケート項目Dに対して2 つ以上回答した44人を無効回答とした。) また、男性 · 女性別にも分類してみたが、目 立って異なった回答は得られなかった為、一緒に示した。(資料C参照)

 a 1〜2回は11人、b 3〜10回は60人、c 11回以上は92人である。各 a 〜 c の回数における上位を順に挙げていきたい。

 a 1〜2回
 「g .ブラブラしている」4人、「b .仕事を探している」3人、「f .廃品を集めている」2人、「h .その他」1人

 b 3〜10回
 「f .廃晶を集めている」16人、「b .仕事を探している」13人、「g .ブラブラしている」10人、「c .ゴミをあさっている」8人

 c 11回以上
 「f .廃品を集めている」31人、「g .ブラブラしている」19人、「c .ゴミをあさっている」14人、「d .寝ている」9人

 b 3〜10回、c 11回以上に共通している事は、共に『f .廃品を集めている」が最も多く、あとは「g .ブラブラしている」等、どれも似たものが上位にきている。 私がこの項目で気付いた点は、b 3〜10回のグループで、上位2番目に「b .仕事を探している」がきている点である。この回答を選択した対象者は、「ホームレス」に、リスト ラ等の社会的要因で仕事を失った人々が多いと考えているのではないだろうか。 次にアンケート項目Fに対して、どの様な結果が表れているかを示していきたい。ここは、全体で表示する事にした。

 全体の合計207人のうち、有効回答者数は、190人であった。(アンケート項目Fに対し て2つ以上回答した人17人を無効回答者とした。) a 1〜2回は11人、b 3〜10回は67人、 c 11回以上は128人、d 見たことが無いは0人、e 『どの様な人が「ホームレス」なの か分からない』が1人であった。各 a 〜 c の回数における上位を順に挙げていきたい。 (d、eは少数の為省いた。)(資料D参照)

a 1〜2回
 「c .行政が何とかしなければならない」5人、『b .迷惑である」3人、「a .仕方が無い」1人、「d .かまわない」1人、「h .その他」1人

b 3〜10回
 「c .行政が何とかしなければならない」30人、「a .仕方が無い」12人、「b .迷惑である」8人

c 11回以上
 「c .行政が何とかしなければならない」49人、「a .仕方が無い」26人、「b .迷惑である」

 19人この項目で共通して言える事は、全選択肢中最も多かったのが、「c .行政が何とかしなければならない」である。このアンケートの対象者が、社会福祉学科の学生であったから、 この様な結果が出たのだ推測される。いかにも、「憲法第25条」を踏まえた上での回答である事が伺える。

 更に、アンケート対象者全体の出身地から、大阪府と京都府出身者の回答を例に挙げる。 大阪府出身者は48人(無効回答者3人)おり、「ホームレス」の人々を見た事がある 回数は別にして、「c .行政が何とかしなければならない」を選択した人が、45人中22人 と、半数に達している。これに対して、京都府出身者は、56人(無効回答者6人)おり、 そのうち「c .行政が何とかしなければならない」を選択した人は17人と、全体の30%で、 大阪府に比べると全体的にばらついた回答が多かった。(資料E参照)

 ここから言える事は、大阪府では「ホームレス」の人々を目にする機会も多く、それこ そ何か援助を講じなければならないと思う人が多いのではないかと思われる。

 次に、このアンケートを制作する際に最も注意を払った、アンケート項目Gである。と いうのも、この項目Gは、アンケートの初めに置くのと、終わりに置くのとでは、全く、結 果が違ってくると考えたからである。前に置いた場合、「a .正しい認識を持っている」や、 「b .ある程度正しい認識を持っている」が多くなる事が予想された。そこで私は、後ろに 置く事により、@〜Fの設問に答えてもらった後に、アンケート対象者の考えがどの様に 変化するのかという意図を踏まえ、アンケート項目Gを後ろの方に持ってきた。

 アンケート項自Gの回答分類にあたっては、アンケート項目Bの「ホームレスと言葉を交 わした事があるか · ないか」で分類した。アン」ケート項目Gの結果は次の通りである。

 合計207人中、有効回答者数206人(無効回答者数2人)であった。上位回答を次に挙げる。(資料F参照)

 「ホームレス」の人々と言葉を交わした事がある人
  「b .ある程度の正しい認識を持っている」8人、「c .間違った認識を持っている」5人、「e .意識した事も無い」3人、「a .正しい認識を持っている」1人

 「ホームレス」の人々と言葉を交わした事が無い人
  「b .ある程度の正しい認識を持っている」50人、「d .全く認識が無い」45人、「c .間違った認識を持っている」40人、「e .意識した事も無い」37人、「a .正しい認識を持っている」1人

 このアンケートは、私の予想に反して、「c .間違った認識を持っている」がかなり多かっ た。多少は、くるだろうと思っていたが、ここまで多いとは、私の予想外であった。ただ、 このアンケート項目Gに対して「f .その他」の意見で、『何が正しい認識なのか分からな い。』、『第3者だし、ホームレスの人の気持ちが分からない。』、『正しいとは、どういう 事ですか。』という回答が幾つかあった。確かに私にも、何が正しい認識なのかは、分か らない。人には、それぞれの価値観があるからである。ただ、私がここで見い出したかっ たのは、対象者が、@〜Fの設問に答える事によって、多少なりとも、「ホームレス」の 人々に対して関心を持ち、その後で、対象者自身の「ホームレス」に対する認識の程度 を聞きたかったのである。

 また、アンケート項目Gで「ホームレスの人々と言葉を交わした事があるか · ないか」 で分けたところ、「正しい認識を持っている」と答えた人がそれぞれ1人ずついた。ア ンケート項目EとHを記述式にしたのも意図があり、多くの対象者の意見が汲み上げられ るという事以上に、対象者自身が正しい認識を持っていると答えたならば、その対象者は、 記述式のアンケート項目EとHにも、それなりの回答が書かれる筈であると考えたからで ある。それぞれの記述意見を次に示したい。(この他のEHの主な意見は、資料Gに添付)

 上記の「ホームレス」と言葉を交わした時の状況説明でもAとして例示した、1回生19 歳大阪府出身の男性は、先でも述べた様に、アンケート項目Cでは、「善良 · 普通の人」 を選んでいる。しかし、アンケート項目Eに関しては、「現代社会の雇用の問題 · 社会体 制」と答えている。私の調査によると、「ホームレス」になる原因には様々なものがある。 例えば、家庭崩壊 · 借金 · 不景気によるリストラ · 自ら望んで「ホームレス」になる人 · 前科があり社会復帰できず「ホームレス」になる人等様々である。これに対し、彼は雇用 問題や社会体制と限定して答えており、実際に「ホームレス」と言葉を交わし、自ら「ホ ームレス」に対し正しい認識を持っていると答えた彼でも、その原因に対しては、雇用問 題等の目立った原因しか思いつかないという事が伺える。

 また、アンケート項目Hの意見は、「私の生活全てが蟹沢に思えてくる。政府が早く手 を打たなければぱならない。」と答えている。この見解から、彼が、政府は「ホームレス」 に対し全くお金を出していない様に思い込んでいる事が伺えるが、実は、政府は自治体を 通して、間接的ではあるが、「ホームレス」の人々の経済援助に関与しているのである。 もう1人の、正しい認識を持っていると答えた人は、「ホームレス」と言葉を交わした 事が無い、2回生21歳滋賀県出身の女性である。彼女は、アンケート項目Cでは、「不 潔 · かわいそう · 怠け者 · 気楽 · 貧しい」を選択している。また、アンケート項目Eの記 述では、「失業」とだけ述べている。

 この人は、「ホームレス」の人々を見た事があるだけで、話したことも無いのに、非常 に、彼等に対してマイナスイメージを抱いている様である。「ホームレス」の事を知りも しないで、この様な印象を抱いているという事は、偏見であると私は考える。そして、今 回のアンケートでは、対象者が社会福祉学科の学生と限定されていた為、この様に明らか に偏見を持っていると仮定される人は一人だけであったが、もしも、このアンケートの対象がもっと広い範囲であったなら、この様な回答はもっと多かっただろうと思う。

 また、アンケート項目Hの結果から、「ホームレス」が、路上死しているという事実を 知らない対象者もいて、まだ世間では「ホームレス」の現状の認知度が低いという事も分かった。

私は、これまで述べてきた事より、アンケート結果からのホームレス像を、「貧しく、. 普段は廃品を収集せざるを得ない生活を送り、行政により保護を受けなければならない存在 であり、女性にとっては、特に身なり(不潔 · 臭い)から怖い存在として認識されている 人々」としたい。

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