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釜ヶ崎とソーシャルワーク
by Satoshi Enokiuchi
>>  第1章  第2章  第3章  おわりに  文献:DATA 第3章 ソーシャルワーカーができること 本章では釜ヶ崎をジェネラリストとしての視点で捉え考察する。2節ではソーシャルワーカーが果たすべき役割としてr〜としてのソーシャルワーカー」の形で、アセスメントやアドボカシーなど個別の技能を釜ヶ崎でどのように行かせるかを考えた。 3.1 釜ヶ崎とソーシャルワーク 私はNPOでの活動などを通して、釜ケ崎で行われていることはまさにソーシャルワークそのものだと感じた。そしてそこはCOS(慈善組織協会)のようだとも感じた。もっとも筆者はCOSを良く知っているわけではない。NPOで行われていることは、路上生活者の為に一定のサービスを提供すること、例えば食料を提供する炊き出しであったり、医療を提供する健康診断などの単独の活動にとどまらない。一見、よろず相談致しますのような、なんでもやって1.いるようだが、それは全てクライアントの生活向上、つまり社会的機能遂行(socia1functioning)の強化の為のもっとも合理的と思われる手段を用いているのではないだろうか。そしてその合理的手法こそが、クライアントをさまざまな面から見るジェネラリストとしての視点(generalist perspective)で、問題を発見し解決できるよう支援することであろう。炊き出しをするグループ、仕事を斡旋する団体、年金や保険のような経済面を支える制度、医療や介護の直接援助のサービスなどなどさまざまな、そして人が生きてゆくのに必要なあらゆる社会的資源を適切に選んで結びつける。そのようなクライアントとサー,ビスを仲介しマネイジメントするいわゆるケースワークが行われている。 そして、一方、ちがった動きもある。それはシステムと人、というケースワークから、クライアントを支援するシステムをまとめようとする動き、コミユニ1ティーオーガナイゼーションである。図1は釜ケ崎の路上生活者の支援者や当一事者などを交えて行われた釜ヶ崎のまち再生フォーラムで作られたものだ。フォーラムは西成労働福祉センターのありむら潜氏の呼びかけで行われた。図11は地域のエコマップである。各団体がどのような位置付けで路上生活者や日雇1労働者を支援していくのかを明示してある。そして各団体が集まり釜ヶ崎といテうコミュニティーを形成しているのが良くわかる。 ● 図:釜ヶ崎のまち再生 2ndステージ 3.2 ソーシャルワーカーの役割 a,仲介者(broker)としてのソーシャルワーカー
クライアントを社会的資源に結びつける為の第一歩として、ワーカーはクライアントのアセスメントを行わなければならない。クライアントを路上生活者個人とした場合、クライアント自身からの聞き取りと過去に受けた福祉サービスの記録などから、二一ズと能力を査定する。NPO釜ヶ崎では対象となるクライアントを輪番労働の際に見つけ、介入する。介入は前述したアンケート調査という形で行い、クライアントの二一ズを聞き出す。そして、二一ズに対する雛型的なサービスを提示するという形で援助を申し出ている。クライアントの同意を契約とした後さらに詳しい聞き取りを行う。この時この後の生活保護申請に必要な出生や経歴等の聞き取りという以上に1ワーカーはクライアントからの景初の情報を得る必要がある。ワーカーはク1ライアント自身の資源、教養の水準、文化的背景、サービスを受けるにあた1っての意欲と能力、脆弱さの程度、情緒安定性などを把握しなければならない。 同時にソーシャルワーカーは社会的資源のアセスメントを行う。ワーカーは資源となる生活保護、年金、保険等の制度や地域サービスの存在と、その限界や範囲や適用条件を知らなければならない。例えば特異な雇用保険制度や生活保護受給の際に必要な住宅などについてである。そして、制度などシステムに拠らない社会的資源、例えば入れるアパートとその質や衛生状態、病院と医師の質や数や応対の誠実さ、アパート居住者と近隣などのコミュニティーとその成熟度、友人や家族などのクライアントを支援しうる社会環境を把握する必要がある。 続いてワーカーはクライアントを社会資源に結びつける為に、クライアント側の一貫してサービスを得ようとする意欲と能力と、社会的資源の側のそのクライアントを受け入れサービスを提供する可能性についての判断をする。クライアント側の路上生活者は生活保護で保護費を受給しても、自立生活が可能な程度の能力を持っているだろうか。アルコール中毒のクライアントをセルフヘルプグループに紹介するにしても、クライアントは病気を治療する意思はあるだろうか。路上生活者を受け入れるアパートやその住民は、コミュニケーションが苦手だったり犯罪暦があったり障害や病気を持っクライアントを受け入れることができるだろうか。そのような判断の後、ワーカーはクライアントを紹介し、相互作用を観察し、社会的資源が二一ズを満たすよう働いているかを確かめ、継続的なサービスを行うよう支援する。 b,弁護・代弁者(advocate)としてのソーシャルワーカー
弁護・代弁者としてのソーシャルワーカーはクライアントを路上生活者個人とした場合、憲法25条で保障されている最低限度の生活を営む権利があること、14条の法の下の平等によって差別されないということをクライアントと共に主張し、獲得のための努力をする。クライアントが必要とするサービスを受けるため、ワーカーはサービスを提供する機関・施設と交渉や仲裁、時には対決的な戦術を用いる。釜ヶ崎セは医療差別などでの訴訟が実際に起こっているが、時にはそのような法的行動も必要だろう。ワーカーはそういったアドボカシーに対する、ネガティブな反応を覚悟しなければならなレ、。 またクライアントを路上生活者全体として考えてみる。釜ヶ崎の労働者であるというだけで極めて質の低く杜撰な医療処置しかされず、それによって人命が失われたり、野宿者であるというだけで突然川に投げ込まれ殺さべるようなごとが実際に起こっている。明らかな差別をもつ社会や制度をソーシャルワーカーは社会正義の為に、同様な問題に関心を持つ組織と連携し変革を行う。 c,教師(teacher)としてのソーシャルワーカー
教師としてのソーシャルワーカーはクライアントが社会的な生活や役割1を果たすことができるよう教育する。釜ヶ崎でのクライアントの中には野宿生活が長く、まったく新しい環境に馴染めない人がいるかもしれない。ワーカーは例えば金銭管理や適切な生活習慣や良いコミュニケーションをとる…ためのスキルを教えたり、生活改善のプログラムを提供したりしなけれぱな上らない。そしてその方法はクライアントの学ぼうとする意欲と能力のアセス吾メントによって決められる。また釜ヶ崎という地域を野宿生活に陥りやすいクライアントと考え、予防的な意味合いでの広報活動を行う必要があるだろう。ワーカーは保険等の加入や貯蓄の推奨、将来設計や生きがいを持つよう促したりする。 d,社会変革のエージェント(social change agent)としてのソーシャルワーカー
社会変革のエ_ジェントとしてのソーシャルワーカーはクライアントで1ある人を社会により良く適応できるよう支援するのと同時に、環境そのもの、をクライアントにより支援的なものとなるよう変化させる。ワーカーは人と環境との二重の焦点をもち、近隣や地域社会や社会システムに変化を促す。釜ヶ崎では行政との抗争の末、その権利となるサービスを勝ち取ってきた歴1史がある。変革を実現するための戦略として好戦的な立場をとってきた。それが酷いときには武力衝突であったり、威圧的な請願であったりするが、直接的な対立はそれをマスコミなどを通して見る一般の人々に問題意識を喚起するという利点はあっても、問題そのものの根本的な解決に繋がることは稀である。ソーシャルワーカーは問題に関心を持つ個人や集団や組織を動員'1し活気づけ、変化を導入するために必要な活動を計画し実行する。ワーカーは釜ヶ崎を問題として捉え支援している行政も含めた組織が、それぞれ行っているサービスの効果と効率を高める為に、利用可能な社会的資源を計画的に配置するようなソーシャルアクションを行う可能性があるのではないだろうか。 |