釜ヶ崎とソーシャルワーク by Satoshi Enokiuchi
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第2章 釜ヶ崎を取り巻く団体     

著者は本稿製作のため、釜ヶ崎で野宿者支援をしているNPO「特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構」(略称:NPO釜ヶ崎)で2000年9月から約3ヶ月間、週に1〜2日をボランティアスタッフとして活動に参加した。本章ではNPO釜ヶ崎を中心とする支援団体の取り組みを書く。

2.1 各機関団体

釜ヶ崎地域内の施設・機関等は次のとおりである。

(行政機関)

  あいりん総合センター
  あいりん労働公共職業安定所
  西成労働福祉センター
  あいりん労働福祉センター

西成区福祉事務所 大阪市立更正相談所
  西成保健所分室

西成警察

(民間団体)
  社会福祉法人大阪社会医療センター

社会福祉法人自彊館
  救護施設三徳寮

特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構

反失業連絡会 その他連絡会

希望の家 キリスト教団体

2.2 NPO釜ヶ崎

NPO釜ヶ崎は釜ヶ崎反失業連絡会を母体に生まれたNPO法人で、野宿生活者の「社会的処遇の改善」「自立支援」野宿状態に至る手前での「予防活動」を目的として1999年に設立された。釜ヶ崎では長い問、行政との対立があった。釜ヶ崎住民は日雇い保険制度の確立など自らの権利を抗争によって獲得してきた経緯や・警察などからの非人道的な扱いから行政に対して不信感を持っている者が多い。しかしながらここ近年不充分であった1暫定的である1せよ路上生活者の問題を考え改善しようとしている。厚生省もホームレスの自;立支援方策についての研究会を設け、自立支援センターが近日開設される。そういった中、NPOをはじめとする民間の支援団体が間に入り、共にその問題≡に取り組むことは大変重要なことである。同時に民間のNPOならではの独自の柔軟な活動も当然必要とされ、当事者である路上生活者を交えた多様な取り組みが必要である。

2.3 NPO釜ヶ崎の事業・活動

a,就労機会提供事業

NPO釜ヶ崎では市区府から釜ヶ崎の高齢労働者の就労機会提供の為の清掃の委託を受けている。これは大阪市の単費事業で実施されている「あいりん高齢者就労事業」と国の緊急地域雇用創出基金交付金の活用によって行われている。市区府内のバス倍や児童公園、保育所などの清掃、高槻市の除草等の仕事に日曜日を除き、一日150名の就労機会の提供をしている。この清掃事業に就労するにはあらかじめ西成労働センターに輪番登録が必要で、白手帳の有無は不問だが、55歳以上の者と限定している。実情は55歳未満でも仕事が少なく、就労が難しいのだが55歳ともなると現金仕事に、誘われることはほとんどないことから年齢制限を設けているようだ。

登録者人数は現在約3200名で一ヶ月で一人あたり約3回ほど仕事が回ってくる。1999年度は6ヶ月で延べ14,951人を雇用した。午前8時から午後3時までの労働で5700円の給料を支払う。一ヶ月に3回だからすべて就労しても17,100円である。決して十分な額とは言えないが若干の生活改善をもたらしたことがNPO釜ヶ崎が2000年3月13〜17日に930名を対象にしたアンケートでわかっている。アンケートの内訳は「生活が変わった」が132名(14.2%)、「少し変わった」が471名(50.6%)、「変わらない」が261名(28.1%)となっており半数以上が若干の改善があったと感じている。その理由として「衣食住の三変化」「気持の面で少し楽になった」などの意見が多く、改善があっても野宿を抜け出すほどのが変化ではないようだ。また、登録者の増大で就労機会が減少することも考えられる。現在提供できるのは一ヶ月に3回であるが、野宿生活を抜け出すには失業給付金が受給できる一ヶ月13日以上の就労がほしい。アンケートでの平均月収は29,520円となっており収入の多くが輪番労働によって得られていることがわかる。NPO釜ヶ崎では行政からのさらなる就労機会の提供を求めている。

仕事現場には一ヶ所につき15人くらいのグループで行き、各グループにつきNPO釜ヶ崎のスタッフが一名づつ付いて仕事をする。NPO釜ヶ崎でヨは就労部門として約20名のスタッフがいる。

b,寝場所提供事業

NPO釜ヶ崎では大阪市からの委託を受け「あいりん臨時緊急夜間避難所」(通称:シェルター)の管理運営を行っている。これは特に冬季の路上毒死などをなくすための一時避難的な宿所である。2000年4月1日からは…じめられ、3年間を一応の期限で行われている。シェルターは4棟、計600床の2段ベットがぎっしりと並べられている。午後6時半開所、翌朝5時までで・乾パンが配ら帆今のところ…床がいつ舳こなることはな'1いようだ。夜露を凌げることと安全の確保ができる。しかし、そこは生活空タ間でもないし、プライベートがあるわけでもない環境なので暑い季節は外で寝るほうが涼しくて良いと思っている人もいるようだ。

C,福祉相談事業

福祉相談事業としてシェルターや輪番労働現場などで把握される、より困!難な状況を抱える高齢者の福祉相談を行っている。実際には輪番労働の給与支払いの際にアンケートをするという形で労働者の生活状況を聞く。具体的には、@居住場所と環境(どこで寝ていますか?【野宿・ドヤ・テント・.アパート】のどれですか?)A収入(一ヶ月にいくらの収入がありますか?【年金・生活保護・現金仕事・アルミ缶集め】どれですか?)B希望すること・などとなっている瀦のところ文1家としている舳基本的には・・1歳以上の者である。その理由としては、前述したとおり大阪市での生活保護申請が受理されるのが65歳以上であることが通例となっているからだ。相談事業といっても相談窓口や事務所を設けいているわけではない。広報誌等{で相談を受け付けていることを伝えてはいるが、労働者が自ら相談に来るこ…とは少肌その為・輪番登録の記録カ'ら65歳以上の者が仕事にくるとき1を狙って、福祉サービスを受けることをを持ち掛けている。

当然、労働者の二一ズや状況によって異なるが、NPO釜ヶ崎では生活保…讃の申請をすることを勧めている。いまさら言うまでもなく釜ヶ崎の生活水準は、憲法で最低限度の生活を保証すると謡っている生活保護での生活水準…より遥かに低い。したがって保護が認定されれば少なくとも経済的な面での与困難は大幅に改善されることになる。保護申請が却下されるだろう事項、例えば年金等の収入やあるいは借金、財産の有無などを本人に確認した後、保護申請を希望した労働者に対して、申請の手助けをする。保護申請は西成区福祉事務所に行う。しかし、まず保護の前提となる条件を整える。釜ヶ崎で生活保護を受けることが難しい理由として住宅がないということがある。NPO釜ヶ崎ではあらかじめ契約したアパートヘの入居を勧めている。

このアパートは釜ヶ崎問題にかかわる人々を中心に発足した「釜ヶ崎のまち再生フォーラム」によって、ドヤのオーナーとの合意でドヤを生活保護受給者専門の福祉マンションに改善したものだ。アパートは元ドヤであったということもあり、十分とは言えない部分もある。部屋は3〜6畳でトイレ、風呂、炊事場は共同である。野宿から一気に恒久住宅へというのが難しい現状から・当面はドヤの改善と活用を訴え進めて脇アパーHこは共同リビングを作ったり、高齢者用に廊下の段差を緩めたり、従業員には生活相談の書訓練などもして住環境をよくしている。もうすでに4軒の福祉マンションがオープンしている。敷居金、保証金なしの41,800円で、この額は生活保護で出される住宅扶助の限度額と同額である。

長くなったがそのようなアパートヘの入居を勧め、承諾の上、部屋を決める。賃貸契約を結ぶと、住民票の移動を行い、民生委員に生活保護の推薦をしてもらう。全国的にもそうであろうが特に釜ヶ崎では民生委員制度はまったく何の役割を果たしているかわからず、誰の目からも明らかなくらい形骸化している。しかしながら、一応相談して生活保護の申請に向かう。NPO釜ヶ崎では申請時に聞かれる内容についてをあらかじめ聞き取りをしておき、申請がスムーズに行くようにしている。具体的には収入、財産、職歴、」家族構成、病歴、住民票と本籍地などである。ここで聞き取る保護申請者の情報は保護が認定されてからのアフターケアの際にも利用される。福祉事務1所では30分ほどの面談で保護申請が終わる。

NPO釜ヶ崎では早いときにはここまでを、その日のうちに行う。午後3時に輪番労働を終了した65歳の労働者で保護を希望する者は、その日のう…ちに少なくともアパートを決める。その日から畳の上で暮らすことができる。そして翌日に保護の申請に向かうという迅速さで、すでに200人以上が福1祖マンションに入居し生活保護を受け生活をしている。ときには5人も同時で生活保護の申請を行うなど民間のNPOならではの柔軟さがある。

保護申請が終わると一週間ほどで福祉事務所のケースら一カーが訪札さ1星らに一週間ほどで保護決定通知が届く。無事決定されると鍋や布団など生活1用品に掛かる費用の請求などの支援も行っている。

d,自立生活支援活動

NPO釜ヶ崎では福祉事業で生活保護での生活すらっまくやっていけない、あるいは無理だろうと思われる人がい脈れは身の回りのことができないということでもある1が、例えば障害や病気を持っていたり、社会になじめなかったりということ盲である。

アルコール依存症でまるで自覚のない者がいる抄しでも入るお金はすべてお酒に変わってしまうし、酷くなると入浴や排泄も自分ではできずに極度1」1に不衛生な環境になってゆき、アパートの他の住民からの苦情が起こるなど、衣食住を確保するだけでは不充分である。NPO釜ヶ崎ではその人が新しいて環境に適応できるようにするための地道な支援活動を行っている。時には病,院に連れていったり、場合によっては施設等への入所手続き、セルフヘルプグループを紹介することもあるだろう。借金や保険料の返済計画を考えたり、…時には破産申告など生活改善に関するさまざまな援助を柔軟に行っている。

中にはお金の使い道を知らない者がいる。何十年にわたり本当に乏しい収入での食事と野宿で生活していた人の中には、住宅扶助によるアパートでの生活と月に約8万円の生活扶助になじめずにいる人がいる。アパートがあるのに野宿をしていたり、毎日栄養状態の悪い安物ばかり買ってきて食べていたりといったことがあり、そういった人は生活習慣を改善していかなければならない。NPOでは毎日の入浴の介助や食事の付き添いなどの活動をして、自立生活訓練を行っている。

そういったような経済面以外での問題も解決しないと、折角アパートに人1り生活保護を受けて暮らしていても突然出ていったきり帰ってこないとい1-1ったことが起こる。当然生活保護も打ち切られ、元の木阿弥となってしまう。,一度そのような事で出ていったきり帰ってこないと、また困ったとき助けを吾求めに行くのは気が引けるというのが心情だろう。そのようにして次なる支援の機会を失うことのないように生活保護の取得のみならず、その後も生活を支援していくことによって信頼関係を作っている。

e,アパート・病院の訪問活動

NPO釜ヶ崎では福祉相談事業等で生活保護を受けるなどの扱ったケースの継続的な支援のため、訪問活動を行っている。特に、身寄りが無く病状;が末期の入院患者などにスタッフが勤務内外問わず訪問し、様子や希望を聞''いている。

f,その他

その他、NPO釜ヶ崎では、広報活動として会報の発行やホームページの公開、調査研究活動としてのアンケート等を行っている。野宿生活者の農村に1移住しての生活の試みなども行っている。

2.4 NPO釜ケ崎の運営

特定非営利活動法人としてのNPO釜ヶ崎の会計は大部分を輪番労働による人件費で占めらてれる。2000年度の予算では約3億3千万円が輪番労働の事業費と臨時緊急夜間避難所の運営費に当てられており、国の緊急地域雇用創、出基金で運営されている。その他の事業に対してはスタッフの人件費、事務諸経費、等々で約2千5百万円の予算が支出として組まれており、大阪市の補助金や会費や寄付金で約1千8百万円の収入を見込んでいる。前年度の繰越金約7百5十万円と合わせて収支はほぼちょうどなっている。

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