メールマガジン21


メールマガジン「併存政治」21バックナンバー

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* シリーズ(1)


【 参加民主主義理論の歴史 】
  第3回 トクヴィル 『アメリカのデモクラシー』 (1840年)
いわずと知られた、民主主義の歴史を語る上では触れられないことはない
名著である。トクヴィル(1805〜1859)は19世紀フランスを代表する
政治学者であるが、フランスの当時の議会制民主主義政治と対比させて、
アメリカの民主主義政治の現状を客観的に新鮮なものとして描いている。
トクヴィルは、アメリカの民主主義の「人民主権」という根本理念が実現されて
いること、多数者の支配と市民参加、法の下での平等という理念が広く
行き渡っていることを余すところなく描き出そうとする。
「アメリカ連邦では、民主的共和国の維持のために、民衆教育が強力に
役立っていることには疑問の余地はない・・・・真の啓蒙は主として経験から
生まれる。そしてもしアメリカ人が、少しずつ自治を行うことに慣らされて
いなければ、彼らがもっている文字の上での知識は、今日の自治が成功
するのに大して役立つものとはなっていないだろう・・・・・アメリカ人が法律を
学習するのは、とくに立法に参加することによってである。彼らが政治の
諸々の形を教えられるのは政治を実践することによってである。社会の
重要な働きは、彼らが見ているところで日々行われているのであり、
いわば彼らの手のうちにあることである。アメリカ連邦では、人々の教育
全体は、政治の方向に向けられている。」
(トクヴィル 『アメリカのデモクラシー』 第9章より)

「アメリカの立法議会を絶えず動かしていて、外部から認められる唯一の
政治運動としての大政治運動は、最下層の民衆から始まって、次々と
市民たちの全階級に波及していく、普遍的運動の一物語とその一種の
延長部分にすぎない。人々は幸福感をもって、これほど熱心に努力する
ものを他にもたない。」(同上書、第6章より)

トクヴィルはまたアメリカの民主主義の現状を、少数者からなる専制国家、
貴族政治と比較してその利点を強調し、「真の平等とは何か」ということを
問題にしている。

「民主的共和国では、社会状態の改善を企てるものは人民の一部ではなく
人民全体であって、この配慮は人民全体によって負われている。そこでは
ある位置階級の要求と便宜を図ることばかりではなく、すべての階級の
欲求と便宜が同時に充たされるようになっている。」 (第6章より)

「人々が全部自由になれるか、全員奴隷にならねばならないか、全員の
権利が平等であるか、または全員権利を奪われるか、という瀬戸際に
立つことが必ずやってくると仮定してみる・・・・そのとき民主的な制度と
習慣を少しずつ発展させることが、われわれの自由を維持する最良の
手段としてではないとしても、唯一の手段として考えねばならないだろう。
そして人々は民主主義の政治を愛することなくして、社会の現在の諸悪
に対抗して適応するためのもっとも優れた、誠実なモデルとして、この
民主主義の政治を採用する気になるだろうか。人民を政治に参加させる
ことは難しい・・・・しかし民主主義の支配と唯一者の専制との間には
何らすぐには中間的なものはありえないということが本当ならば、われわれ
は進んで唯一者に奴隷的に服従するよりは、民主主義に向かうべきでは
ないだろうか。そしてついには民主主義によって完全な平等が実現される
のならば、ただひとりの独裁者によってよりも、自由によって平等化される
方が望ましくはないだろうか。」 (第9章より)

「けれども私は次のように考えている。われわれの間に民主的な制度が
少しずつ取り入れられ、そしてついにはしっかりと根を下ろすことがないと
仮定してみる。そしてすべての市民に対して自由が用意され、彼らが
その自由を行使できるような思想や感情が、すべての市民に与えられて
いない場合を仮定してみる。その場合は、誰にとっても、町人にも、貴族
にも、貧者にも、富者にも、独立というものはなく、すべての人間にとって
ただ平等な圧制があるだけということになろう。そして、もし時の経過と
ともに、最大多数の人々の平和な王国が、われわれの間に確立される
ことにならないとすれば、われわれは遅かれ早かれ、唯一者による
「無制限の」権力下に置かれることになるだろう。」 (第9章 より)

トクヴィルはこのように、下からの多数による市民参加を通じての立法 過程が、真の民主主義の基礎でありメリットであると考えた。 そこには、タウンシップ制や政治的市民団体、そして裁判における陪審制度 などのもつ、市民に対する政治教育的効果が強調されている。陪審制度 の意義に関する議論が再燃してきている現在、参加による民主主義の 根幹としての政治制度の充実化の重要性を強調した主張として、トクヴィルの 思想は見直されてしかるべきである。

「私は民主主義については、それがなしていることによってではなく、 むしろなし遂げさせるであろうものによって、民主主義を賞賛したいのである。 人民が公務をしばしば甚だしくまずく運営することは確かである。けれども、 人民はその視野の範囲を拡大することなくしては、そして自分の精神が 日常的な因習の外部に出て行かなければ、公務に関わりを持つことは できないだろう。社会の政治に関わりをもつように召集される一般民衆 である人々は、自分自身に何らかの敬意を抱くようになる。彼らはその とき、自分がひとかどの主権者であるから、極めて啓蒙された知識を 自分の知性に役立つように用いる。彼らは自分の知性を頼りにすることを 絶えず求められる。そして無数の方法で失敗し、はぐらかされながらも、 彼らは啓蒙される。政策では、彼らは自ら構想してもいない事業に参画 もするが、その事業によって企画事業についての一般的関心を彼らは持つ ようになる。彼らは公共財産についてなされるべき新しい改善策を毎日の ように求められる。すると彼らは自分の私有財産をも改善したくなってくる ・・・・民主主義は人々にもっとも巧妙な政治を与えないが、もっとも巧妙な 政治がしばしば創造できないものをつくる。民主主義は社会全体に、 変化に富んだ活発な活動、あふれんばかりのエネルギー、民主主義なし には存在しえない精力をはびこらし、広げつづける。そして状況が好都合 であれば、これらは驚異的なものを生み出すことも可能である。以上は 民主主義の真の美点である。」 (第6章より)

              ************ * シリーズ(2)
【 海外の参加民主主義関連団体の紹介 】
 第2回 参加型直接民主主義協会(カナダ、ウィニペグ市) 
      (Participatory Direct Democracy Association = PDDA)  
 市民が直接政治参加により意思決定をできる政治を支援する民間ボランティア  (非営利)団体。

 ホームページのURL: http://www.pangea.ca/~sage2509/direct-democracy/

【 設立趣旨 】

直接民主主義とは、一つの地域に住む市民たちによって法的決定が執行 されることである。もし直接民主主義の崇高な理想が世界規模で完全に 成功を収めた際には、市民たちはすべての国もしくは世界全体において 直接、政策をつくることができるようになるだろう。 カナダのマニトバに住んでいるわれわれは、既存の国内政策を平和的に ただし抜本的に改善する発議をしたいと切望している。 われわれはまた、社会のあらゆる分野において、政策決定に「参加」する という民主主義的権利が存在することを信じる。 人々が自分自身の統治に影響を与えることのできるような近代的な電子 通信施設があるはずである。この方法で市民は直接市民立法や住民投票 を組織することができ、必要に値しない代議士をリコールさせたり、新たな 法律を制定したり、公共の利益を害する法律を撤廃したりする権力を得る ことができる。  

PDDAは、カナダにおける民主主義の発展のための運動、および他の国々 における直接民主主義団体と協力している。われわれは世界的直接民主主義 運動(WDDM)の設立会員のひとつである。われわれはまた非政治的組織協会 (APA)を設立し、マニトバにおける非営利組織のひとつとして登録されている。 われわれは何よりも「総合的な」社会環境の一部であり、その長期的な存続 にとって何よりも重要な自然環境保護を支援する。 

   われわれの団体は、すべての「非−暴力的な直接民主主義団体」と協力し、 市民発議や住民投票、なかでも価値のない政治家をリコールする権利を主張する。 われわれはつねにあらゆる統治のレベルにおいて、市民による完全な直接民主 政治に向けての積極的な改革運動を支援する。われわれは人種的、宗教的、 民族的、性的な差別、およびそれに類する問題と戦う積極的な市民権運動を 支援する。われわれはまた緑化運動、環境保護主義者、エコロジスト、野生動物 保護者たちを歓迎し、総合的な環境保護というわれわれの主是を支持する。 われわれはよき公衆道徳という見地を支持する、発展的な協会や高邁な精神を もつ政治団体との協力体制を拡大するつもりである。       

【 宣言 】   

すべての市民が自分自身の生活に直接影響を受けるすべての意思決定に 参加することができるような、最も自然な形での政府を提唱する、ボランティア 運動家による真の発展的な民主主義団体にようこそ。  

われわれは現在の下降気味の政治的領域のもつ否定的な可能性について憂慮 する。PDDAはあらゆる攻撃行為、ウルトラナショナリズム、武装市民闘争に反対する。
われわれは現在、文明の長期にわたって文明の存続を脅かしている、人種的、 宗教的、民族的、性的な差別および戦争に反対する。
  PDDAは平和と協同の共存を推進する。われわれは人間的な、より平等で、公正な、 モラルのある社会秩序の確立を求めて努力する。
  PDDAのR]J^0は、市民が憲法にもとづく自治に向けての道を歩むための、理論および 実践方法を開発することを進んで援助する。
ウィニペグ市は、70年代末に発議され、定期的に改正されている、ウィニペグ=プランと 呼ばれる長期的な政策がある。もっとも最近の改正は、1999年2月に行われた。  わずかな数の関心のある組織や個人が、10月の前半に公聴会においてウィニペグ= プランに関する自分たちの見解を表明することが可能になった。 われわれは、関係するすべての人が、このウィニペグ=プランの提案と欠陥について 自分たちの見解を表明することが可能になるべきであると考えている。 すなわち、都市のスプロール化や、下町や都心部の荒廃が原因となる建築規制や アセスメント政策、土地税や学校税の高騰、交通渋滞や輸送マヒといった事柄に ついて、これらの重要な問題についての主要な決定が成立する前に、見解を表明 できるようにするべきだと考える。
われわれは、もしウィニペグ市が電話による投票システムを採用し定着させ、 重要な問題について市民の意見を、効率的な費用で法的拘束力のない自発的投票 にかけるべく利用するなら、そのシステムは役立ちうると考えている。 その後で、このシステムにより得られた経験を通じて、重要な問題すべてに関して すべての市民が直接投票することができるようになるだろう。

   【 活動内容 】

1.カナダおよび各国における市民参加による政治意思の決定(住民投票、住民立法など)を   実現する運動の支援とアドバイス
2.直接(参加)民主主義に関する著作、ニュースレターの刊行。
3.直接(参加)民主主義に関するWeb内外での議論(ディスカッション・フォーラム)。 

(以上執筆&編集 by 今本 秀爾) = ご意見、感想等は imashu@kcn.ne.jp まで。

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