7.23白紙投票せざるを得ない訴訟の判決 「白紙投票せざるを得ない訴訟」の判決

      平成22年(ワ) 弟6195号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結   平成22年6月7日
           判    決

              大阪市東住吉区・・・・・・・・・・・
          原告     峯 弘

         東京都千代田区霞ヶ関一丁目1番1号
           被告      国
           同代表者法務大臣    千葉景子
           同指定代理人      秋里光人
           同           千手茂美

                   主       文

   1 原告の、被告に対し、原告が主張する事由に係る立法不作為を認め、制度改正を行うことを求める訴えを却下する
   2 原告のその余の請求を棄却する
   3 訴訟費用は原告の負担とする

             事実 及び 理由

   第1  当事者の求めた裁判

       1  請求の趣旨

      (1)被告は原告に対して1万円を支払え
      (2)被告は原告に対し、原告が主張する事由に対する立法不作為を認め、制度改        正を行え
(訴状
)      2   請求の趣旨に対する答弁
      (1)本案前の答弁
         請求の趣旨(2)に係る訴えを却下する
      (2)本案の答弁
         請求の趣旨(1)に対する請求を棄却する

    第2   当事者の主張

      1  請求の原因
        別紙「訴訟の原因」記載の通り
      2   被告の本案前の主張
       (1)原告の請求の趣旨第2項に係る訴えは、「国民全員の利害に関わる重要な案件」に関する国民
意思を直接問うための「国民投票制度もしくは参政員制度」(以下「本件制度」という)が、憲
法上保障された「選挙権」行使の機会を確保するために必要不可欠であるにも関わらず、これ
を制定するための立法措置を執らなかったこと(以下「立法不作為」という)が違憲であるとし
て、被告に対し、本件制度を設けることによって「有識者の意思を反映させる方法」を実施す
べき「制度改正」を行うことを求めるものである
       (2)憲法は、三権分立主義を採用し、司法権は裁判所に属するものとし(76条1項)、これを受けて
裁判所法3条1項は、「裁判所は、日本国憲法に特定の定めのある場合を除いて一切の法律上の
争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と定める。上記「法律上の争
訟」として裁判所の審理の対象となるのは、法令を適用することによつて解決し得ぺき当事者
        間の具体的な権利又は法律関係の存否に関する紛争に限られるのであつて、このような具体的
        紛争を離れて、抽象的に法令等の違憲に関する判断を裁判所に求めることは、裁判所が行使す
        る司法権の性質上許されず、さらに進んで、国家機関である国会に対し、特定の内容を立法す
        べき義務を課すことを裁判所に求めることは、三権分立の観点から許されない
       (3)原告の上記(1)の訴えは、我が国の選挙制度に関する法律(公職選挙法など)につき、具体的な
        紛争を離れて抽象的にその違憲であることの確認を求めるものであるか、あるいは国家機関で
        ある国会に対し、特定の内容の法律を立法して、その「制度改正」を行うべき義務を課すこと
        を裁判所に求めるものにほかならず、上述した「法律上の争訟」に当たらないか、三権分立主
        義に反する許されないものであつて、何れにしても不適法であるから、却下を免れない。

       3    請求の原因に対する認否及び被告の主張
       (1) 第45回衆議院議員総選挙が平成21年8月30日に施行されたこと、「国民全員の利害に関わる重
        要な政策案件」に関する国民の意思を直接問う為の本件制度が制定されていないことは認め、そ
        の余の事実主張は不知、法的主張は争う
       (2) ア 国家賠償法(以下「国賠法」という)1条1項に言う「違法」とは、公権力の行使に当たる公
        務員が、個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背することを言うのであるから、国会議
        員の立法行為(不作為を含む。以下同じ)が同条項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立
        法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかにより決せ
        られるのであって、当該立法の内容の違憲性の問題とは別に判断されなければならない。
        即ち、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の
        立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。そして、国会議員の立法行為は、本質的
        に政治的なものであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として国民全体に対する関係で
        政治的責任を負うに留まり、個別の国民の権利に対応した法的義務を負うものでない。
        したがって、国会議員の立法行為が、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるのは、立法の内容
        が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず、国会があえて当該立法を行うような容易に
        想定し難い例外的な場合に限られる(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決、民集39巻7号1512ペ
        ージ)
すなわち、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害す
        るものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所
        要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由
        なく、長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、
        国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。(最高裁平成17年9月14日大法廷
        判決民集59巻7号2087頁)

     ィ  憲法は前文において「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由
        来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と定め、「国権の
        最高機関」(41条)である国会は、「「全国民を代表する選挙された議員」(43条1項)で組織する衆議院参
        議院で構成するもの(42条)と規定して代表民主制の原理に立つことを明らかにする。
        他方憲法は、国民が自ら国会意思を決定するという直接民主制的方法として国会議員の選挙の他憲法改正
        の承認(96条)及び最高裁判所裁判官の国民審査(79条2項ないし4項)を規定している。(なお、国政ではなく
       、地方自治に関して特別法の住民投票(95条)がある) が、直接民主制的方法が憲法上明記された場合に限ら
        れるかどうかは、解釈上議論か゜あるところである。
        本件制度(国民投票制・参政員制度)は、憲法上明記されたものではなく、これが許容されるかどうかは、
        上記のとおり議論があるところであるから、仮に憲法が採用する代表民主制の原理に抵触することがない
        としても、その採用は国会の立法政策に委ねられているものというべきである。

      ウ   そうすると、本件制度が、憲法上保障されている国民の権利行使の機会を確保するために必要不可欠
        であるということはできず、それが明白であるとも言えないことから、本件立法不作為は、国賠法1条1項
        の適用上、違法の評価を受けるものではない。

      第3  当裁判所の判断

       1 原告の本件請求は、要するに、憲法15条1項で保障された選挙権の行使を確保する為には、国は、有権者が
        「選挙投票により議員を選ぶ」制度に加え、「政策毎に政党を選べる」ような本件制度を用意し、有権者が
        選択できるようにしておくべきであるのに、かかる制度を設けるべく国において立法措置を執らなかった(
        立法不作為)ために、原告は平成21年8月30日に施行された衆議院議員総選挙において白紙投票せざる
        を得ず、憲法で保証された選挙権を行使できなかつたとして、被告に対し、本件制度を設けるべく立法措置
        を執ることを求めるとともに、国賠法1条1項にもとずき、違法な立法不作為により被った精神的苦痛に対す
        る慰謝料の支払いを求めるものと解される

       2 そこで検討するに、我が国の選挙制度においては、原告が主張するような本件制度を設ける立法もなされて
        いないところ、憲法は、三権分立の原則を採用し、その制度の下において、そうした立法の要否、内容、立法
        の時期等については、かかる立法を積極的に命ずる明文の規定があるような場合はさておき、原則として国会
        の裁量に委ねていると解するのが相当である。
        そして、国会を構成する国会議員は、立法に関しては、原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負う
        にとどまり、個別の国民の権利に対応した法的義務を負うものではないから、国会議員の立法不作為が、国賠
        法1条1項の適用上違法の評価を受けるのは、国民に保障されている権利行使の機会を確保するために所要の
        立法措置を執ることが必要不可欠であり 、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期に
        わたってこれを怠るような極めて例外的な場合に限られるというべきである。(最高裁平成17 月14日大法
        廷判決・民集59巻2087頁)

       3 これを本件についてみるに、本件全証拠をもってしても、原告が主張する本件制度の制定に係る立法不作為
        について、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可
        欠な事態に至っており、それが明白であるにもかかわらず、国会議員が正当な理由なく長期に亙ってこれを怠っ
        てきたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。この点について、原告はるる主張するけれども
       、いずれも独自の見解であって、採用することはできない。
        そうすると、原告が主張する本件制度に係る立法措置の要否等については、尚立法府である国会の政治的な判断
        に任されているというべきであり、国会に対し、特定の内容の法律の立法を行うべき義務を課すことを裁判所に
        求めることは、三権分立の原則に反して許されず、かかる訴えは不適法であるというほかないし、また、上記立
        法不作為は、国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものでないことが明らかであるから、被告に対する慰
        謝料請求も、その余の点を判断するまでもなく理由がない

            第4     結論

              以上のとおりであつて、原告の上記第1、1請求の趣旨(2)の請求に係る訴えは不適法であるからこれ
            を却下し、同(2)の請求は理由がないからこれを棄却することとして主文のとおり判決する

                  大阪地方裁判所第23民事部
                     裁判官  河合裕行  
                

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