未来はこのように

オーストラリアからの手紙


海外有権者ネットワーク・オーストラリア シドニーからの手紙 ご挨拶 長年にわた り、在外投票制度を求める運動にご支援を頂き、ありがとうござい ました。
お蔭様で、2000年から、私達も一票を投じる事が出来るようになりました。
最近の日本の状況は憂慮に堪えませんが、相変わらずの空論が横行しているよ うに見受けられます。
「世界の常識は日本の非常識」という状況を何とか改め たいと言う願望から、在外選挙制度の制定を求めたのでありますが、世界の変 化はあまりに急激で、とても今の日本のスピードでは追いつきません。


ささやかではありますが、オピニオン・リーダーである皆さんに直接海外の実 状をお届けします
私の住んでおりますオーストラリアは、40万人の中国人、80万人のギリシャ人 等を含む世界でも有数の多民族社会です。アジアの一角にありながら、英語圏 であるため米英、カナダを始め、英連邦諸国とは密接な関係を持ち、東西の情 報の交差点になっています。
日本に伝えられない本当の海外の姿を、「シド ニーからの手紙」と言う形で、折りに触れてお伝えしたいと思います。

1998年12月1日 <選挙公約> オーストラリアは、首都キャンベラと6つの州、北部準州から成り立つ連邦で ある。 連邦政府はジョン・ハワード率いる自由、国民連立政府であるが、シドニーの あるNSW(NewSouth Wales)州は、ボブ・カー率いる労働党政府である。 前回のNSW州選挙で、自由、国民連立与党と政権を争った労働党の選公約に 「M5ハイウェイの通行料を無料にする」と言うのがあった。M5は、西部郊外 とシティーを結ぶ幹線で、民間プロジェクトで建設された。主要な通勤道路で あり、建設以来、労働党の支持層の多い西部郊外住民から苦情が上がっていた。
オーストラリアには、有料道路が殆ど無いからである。 最初に、ハーバー・トンネルが熊谷組によって建設され、それまで唯一通行料 を取っていたハーバー・ブリッジの料金を2ドルに値上げをして、建設費の消 却に当てている。政府は、消却の保証をするだけで、工事費は建設業者がファイナンスをする。
選挙が終わって暫くすると、NSW州首相に就任したボブ・カーは「申し訳ない。 M5は無料に出来ない」と頭を下げてしまった。建設業者との契約を解除する と、莫大な違約金を払わなければならなくなり、税金の無駄遣いになると言う のである
<嘘は政治家の特権> 嘘を付くのが許される唯一の職業は、政治家だと言われている。これはどうも 世界共通のようである。従って、その政治家が運営している政府に対しても、 国民はいつも監視の目を向けている。
日本の長期国債のムーディーズのレーティングが、AaaからAaに引き下げられた。 これは、日本の経済的信用が米英仏独等のトップクラスから、カナダ・クラ スに下がったことを意味している。記者会見で質問を受けた宮沢蔵相は、憮然 とした面持ちで「日本の国債は、世界で一番信用があるんだ」と答えた。 若し本当に宮沢さんがそう思っているとしたら、日本に救いはない。せめて彼 が嘘を付いたと信じたい。
1965年に、国と地方の長期債務残高はGDP比僅か5%であったのが、1997年度は 97%、今年度は119%に達する。もちろん先進国で最悪である。
ヨーロッパのある巨大銀行は、保険金融商品「ジャパン・デフォルト・スワッ プ」を開発して、自分が持っている日本の国債に保険をかけ始めた。10年後に、 日本が利息が払えなくなるのではないかと、心配を始めたのだ。
公約は時として守れないこともある。政治家とても、スーパーマンではない。 しかし、駄目なものは駄目と明らかにして、国民をミスリードすることだけは止 めて欲しい。

<危機管理> 日本では不幸にして、国民の危機管 理意識が乏しい。 神戸地震でも、金融破綻でも、年金制度でも、不況対策でも、泥 縄式対応が続く。
国民は選挙があっても投票にも行かず、ひたすら政府が何とかしてくれるのを待って いる。 50年ほど前、日本は一億総玉砕の危機に見舞われた。最後には姿を現すと信じていた連合艦隊は、とうの昔に、太平洋の藻くずと化していた。ひたすら待ちわびた神風は、ついに吹かなかった。
「女子供は青酸カリを飲んで自決、男は竹槍を持って上陸してくるアメリカ兵に突 撃をする」と言う話が伝わってきた。当時、国民学校6年生だった私は、「自分は 青酸カリ組みなのか、竹槍組みなのか?」と真面目に考えたものである。

経済敗戦のダメージは、熱い戦争の敗戦に比べるべくも無いが、復興には長い年月 と痛みが伴う。不況が底を打てば、すぐにでも景気がよくなるような無責任な話に 乗ってはいけない。
そもそも、何が今の経済危機を垂らしたのかを、よく考えるべきである。今の不況 が循環的なものでなく、日本の政治、行政、金融、経済構造の改革遅れに起因して いることは、周知の事実である。従って不況が底を打てば、独りでに景気が回復す るようなシナリオではない。

アメリカやオーストラリアは、今でも景気がいい。今朝のシドニーのニュースで、 先月の貿易収支が、史上番目の赤字だと報じた。国内景気が良いので、輸入が輸 出以上に増えた結果である。
経済成長は、政府予想の年率3%よりはるかに高い 5%に達しそうだと伝えている。貿易赤字が大きいのは決してよいことではないが、 日本のように巨大な黒字を抱えて、不況で喘いでいるのと、よい対象である。
為替が自由化され、金融経済が実態経済を遥かに上回って巨大化している今日、貿 易収支には昔程の意味はない。
日本の不況は、日本自身の改革遅れに原因があるのであって、外国の所為ではない。 政権が長引くと、色々と政策の失敗が蓄積され、活力も薄れてくる。

オーストラリ アでは、大体10年刻みで、政権交代が行われて来た。必要に応じて政権を交代さ せるのは、今までの失政をいったん整理して、再出発するためである。これをやら ないと、失敗が失敗を生んで、にっちもさっちも行かなくなる。 政権交代は、選挙民の危機管理機能である。アメリカやオーストラリアで、2大政 党政治が上手く機能しているのも、そこいらに遠因があるように思う。日本に政権 交代に応えられるだけの野党が育っていないのは、 何とも悲劇的なことである。

<対策> 先ず、現状を正確に認識することから始めたい。 日本は、情報開示が遅れていると騒がれているが、それでも以前に比べれば、大蔵 省や日銀、総理府などのホームページを見れば、格段に情報が増えている。専門家 の開いているホームページもある。新聞、週刊誌に頼っていた時代に比べれば、情 報源は飛躍的に増えている。これらの情報をクロスチェックするだけでも、日本の 実態が見えてくる筈である。
どう対処するかは、自分で考えて欲しい。皆違うのだから。
日本の真の危機は、何もしないでひたすら待っている国民の多いことである。

「選挙」1998年11月12日 10%消費税導入 1 0月2日、オーストラリア連邦の総選挙が行われた。
結果は、10%消費税の導入を訴えた与党連合が、議席を減らしながらも辛勝 し、ジョン・ハワード首相は二期続投をものにした。
オーストラリアではGST (Goods and Services Tax)と呼ばれる消費税は、一般にはVAT(Value Added Tax)と呼ばれ、世界百カ国以上で採用されている付加価値税である。
オーストラリアの政治形態は日本とよく似ている。 上下二院制の立憲君主国で、英国のエリザベス二世女王は、オーストラリアの 女王でもある。下院は小選挙区制、上院は州単位のブロック制で、上院は議席 の半数が改選される。与党は自由党と国民党の保守連合政権で、野党第一党の 労働党との二党政治が長年にわたって確立している。
下院では多数を占める連合与党も上院では過半数に足りず、第三党の民主党と 無所属議員がキーボードを握る。民主党は食料品の消費税適用除外を主張して おり、無所属議員は慎重審議を主張しているので、連合与党も消費税の実現に 向かって、これから正念場を迎えることになる。

金の掛からない選挙 日本の選挙が始まると、真っ先に警察の正面玄関に「選挙違反取り締まり特別 対策本部」の看板が掲げられる。日本では当たり前のこの情景は、恐らくオー ストラリア人には何のことか理解できないだろう。
オーストラリアの選挙には、宣伝カーはない。スピーカーも無い。選挙公報も 無い。街頭演説も無い。個人のテレビ政見放送も無い。ポスターも殆ど見かけ ない。警察はまったく関係ない。
候補者と支持者のボランティアが、郵便受けに手作りのチラシを投げ込んで行 く。 一軒一軒ドアをノックして、支持を訴える。 通勤時間に、駅前でポスターを貼ったプラカードの前で、チラシを通勤客に手 渡す。

主要政党は、テレビで宣伝広告をする。 党首対決のテレビ討論が行われる。 政策で対決 今回の選挙の焦点は、当然10%の消費税導入であった。保守連合は91年に 一度導入を企て、労働党に惨敗した苦い経験が有る。今回の導入に当たっては、 直間比率の改定のための総合税制改革である事を強調し、小売り税の撤廃、所 得税の減税、年金の増額などを組み合わせて、差し引きでは減税になると訴え た。労働党は当然「結果的には物価高になる」と反論をして、スケア・キャン ペーン(不安を駆り立てるような宣伝)を繰り広げた。
各界各層の人が、自分 に掛かる税額を試算して、与野党の議論に加わる。 滑り出しに、産業界が導入賛成を表明、年金生活者や老人ホーム入居者、福祉 関係団体はおおむね反対の立場を取った。中盤は労働党のスケア・キャンペー ンが功を奏したかに見えたが、鼻先一つの接戦のまま投票日を迎え、結果は消 費税導入受け入れとなった。
オーストラリアは所得税の高い国である。いずれは間接税の導入はやむを得な いと言う大方の有権者の理性が、消費税の導入を認めたものと思う。 政府は、選挙の始まる前から、政府広報として消費税の説明文を全戸に配布す るなど、野党から政権の権力を乱用した選挙運動だと文句が出るほど売り込ん だ。
政党政治では、個々の議員の公約などは意味が無い。基本的には、消費税に反 対なら労働党、賛成なら連合与党の候補者に投票することになる。 影の大臣 大臣は、常に自分の所管の問題に就いてメディアの質問攻めにあう。
消費税に 就いては、矛先は専ら首相と大蔵大臣に向けられるが、例えば文部大臣は、消 費税に関して教育費は適用除外にな っているが、制服は幾らになる?とか、鉛 筆の値段はどうなる?などの質問を浴び せられる。即座に返答が出来ればいい が、口ごもるようだと減点である。
野党第一党には影の大臣がいる。日本では党が勝手に決めた非公式のポジショ ンであるが、オーストラリアでは影の大臣は公式のポジションで、給料もそれ なりに貰っている。
テレビやラジオには、常に与党と野党の大臣が引っ張り出されて議論をさせられるから、有権者は普段から与党、野党の政策を聞かされている。選挙の時に は、今回の消費税のような大きな争点の他に、普段から聞いている与野党大臣 の議論も考慮に入れて、自分の投票する党を決める。 野党が勝てば、影の大臣はそのまま正規の大臣になるので、政権の交代は極め てスムースに行われる。
投票率 オーストラリアの投票率は、ほぼ100%である。 住民登録制度のないオーストラリアでは、有権者は地区の選挙管理委員会に登 録をしなければならない。これを怠ると20ドルの罰金である。 投票が義務制なので、正当な理由なく投票を怠ると50ドルの罰金を課される。
選挙法は、全ての有権者が投票できるように、不在者投票、郵便投票が幅広く 活用されて、世界中何処にいても投票が可能である。
義務制投票は、有権者の政治参加は民主主義の基本であると言う心理的なこと から、特定の支持団体の偏った政治への影響力を薄める効果を持つ。
日本のよ うな買収、汚職のはびこる選挙には、これらの不正行為をやりにくくする効果 も有るので、是非日本にも取り入れて欲しい。

日本の政治の欠点 他山の石と比べてみると、自分の欠点が見えて来る。
1、日本の政治には金が掛かりすぎる。 選挙資金の回収のために、政治家は金集めに精力を使い果たす。 金集めの上手い者が派閥を支配するから、金権体質から抜け出せない。 官僚と組んで利権に励むから、改革が出来ない。 有権者の葬式に出なければならない。 人を集めて、飲み食いさせなければ当選できない。 日本社会の政治モラルの低さは目に余る。政治家ばかりを責める訳にはいかな い。
諸悪の原因は金に有る。 手始めに、選挙から金を締め出したらどうだろう。 英国の選挙は、選挙費用が決められていて、これを超過すると当選は失格にな ると言う。 例えば、候補者一人の選挙費用を3百万円と決める。 第三者の会計が厳密に管理をして、常に候補者に収支を知らせ、投票終了後に 選挙管理委員会に収支報告を提出する。 3百万円を超えたら、自動的に失格となる。 当選議員には、選挙後、国は3百万円の選挙費用補償金を支払う。だから、議 員は選挙費用の心配から開放される。

選挙運動の規制は撤廃する。3百万円の範囲で何をやっても良い。そうすれば 選挙 違反はなくなるし、警察が取り締まる必要もない。 候補者は金を集めることより も、いかに有効に使うかに知恵を絞らなければな らない。
2、 政策の明示 前回の参議院選挙を振り返ってみても、与党にも野党にも、政策が見えない。 頭に残っているのは、消費税の特別減額、商品券の配布、景気浮揚に4兆円に するか6兆円にするかと言った対策ばかりである。
今国民が一番心配して財布の紐を締めている原因が、失業と年金であることは 誰でも知っていることなのに、議論にもならないと言うのは驚くべき事である。
政策作りを官僚任せにしてきた政治家に、政策を作る知識、能力が無いと言う ことなのか。危機的状態になってきて、最近ようやく政治主導が見えてきた。
早く金離れをして、官僚に頼らない政策能力を備えて欲しいと思う。政党助成 金は、政策立案のためのブレーンの育成や、調査のために使って欲しい。 大臣はもっと自分の政策に責任を持って欲しい。 総理は誰それに指示をし、大臣は委員会に諮問をして結果待ち。これでは誰が 責任者か分からない。
野党第一党は常に与党の政策を監視して、影の大臣は与党大臣の政策に常に挑 戦を続ける必要が有る。この結果が次の選挙に現れるのであって、一夜作りの 選挙公約を信じるほど有権者は馬鹿ではない。政策が見えないから、投票に行 けないのだ。
消費税の導入の時に、確か福祉の充実に使うというような話であったと記憶を している。 それが何時の間にかうやむやになって、景気が悪いから暫く減らそう等という、 訳の分からないことになってくる。こんな例は、野党にとって格好の政府攻撃 の材料であり、福祉関連で有権者の心を掴む政策を提示できれば、政権獲得に 大きく一歩前進する筈である。
政府与党は、崖っ淵の危機で対策に追われているのは止むを得ないとしても、 野党は冷静に事態を見つめて、日本の将来の姿を国民に示すべきである。これ がやがて政権交代を促し、政治が活性化される。
半世紀にも亘って、殆ど政権交代が無いと言うのは、民主政治にとっては異常 な事と理解しなければならない。

「金融ビッグバンと庶民経済」1998年10月20日 日本発の世界恐慌を防止するとして、今国会は、なり振り構わぬ金融システム 救済の関連法案に明け暮れた。金融システムの救済ではなく、銀行の救済では ないかとの疑問の声も上がっているが、戦後40年に亘る無責任政治の結果が 一気に表面化したと言う事実を冷静に受け止め、分析しなければならない。
小渕総理が「2年後には・・」と言ったことで、日本では2年で何やら明るい 兆しが見えて来ると言うのが公式見解になっているようであるが、問題はそん なに単純ではない。 オーストラリアの最大企業は、世界のメディア王ルパート・マードック率いる ニュース社である。10月13日にアデレードで開かれた同社の株主総会で、 マードックは 「ヘッジファンドがどうなっているか誰にも分からない。世界恐慌は望むとこ ろではないが、世界経済が不安定なことは皆が知っていることだ。
ニュース社 は短期の借入れは長期に切り替えて、5年以内に目立った返済が生じないよう 処置をした。十分な現金を用意したので、将来の見通しが立つようになるまで これを維持する」と述べている。
テレビの番組で聞いた経済アナリストの意見も「日本の言う2年は甘すぎる。 5年は掛かるだろう」と言っていた。私もそう思う。
金融ビッグバンは、本来景気のいい時にやるべきものだ。体力があれば痛みに も耐えられるが、金融危機で瀕死の体で、体質改善は厳しい。危機を回避し、 そこそこに規制緩和を行ったとしても、景気回復は又別の話だ。
日本の技術は、世界の潮流からすれば陳腐化して、競争力を失いつつある。

日本の何人かの経済学者に聞いた意見では、21世紀の日本は、恐らくヨーロッ パの中くらいの国の地位になるだろうと言っていた。

目下のところ日本の持つ資産は確かに経済大国に相応しいものに違いないが、 それに匹敵する不良債権がこれから続々と表面化してくれば、やがては年金の 支払いにも事欠く経済虚弱国に落ち込む可能性を含んでいる。

今更、政治家が悪い、官僚が悪い、銀行が悪いと言っても始まらない。 明治政府の富国強兵経済、戦時経済、戦後の復興経済と、目的は変わっても庶 民の金を掻き集めて民族資本とし、外敵に立ち向か う構図には一貫した攘夷意 識があって、グローバル化とは相反するものであった。
平和産業では、武器や弾薬は消耗しないから利益となって銀行や大企業に蓄積 さ れ、投資のはけ口として土地バブルを招いた。世界の土建業130万社ある中 で、その うち約半分の55万社が日本にあると言う、日本は土建屋国家である。
資本主義を標榜しながら実態は戦時経済型で、資金は預貯金からの借入れが主 流をなし、一握りの経営者の企業私物化、情報隠蔽、総会屋を使った株主総会、 持ち合い株などの実態の無い株が総株式の40%を占めると言う、株主無視の 異常な経済体質を持っている。

資本主義の本場アメリカでは金融改革が1975年に始まり、英国、オーストラリアが10年遅れてこれに続いた。オーストラリアもアメリカも、不況にな るなると言われながらも消費が落ちず、失業率も上がらず、新車の売れ行きも 好調で、株価やレートの乱高下とは裏腹に、ファンダメンタルは今までのとこ ろ悪くない。

いろいろな原因が挙げられようが、金融改革と産業リストラを抜きに考えるこ とは出来ない。 産業リストラは企業に利益をもたらす。21世紀型の産業に進出を容易にする ことで、全体的な経済活性化に大きく貢献している。アメリカのバブルが弾け るといわれながらも、好況が持続したのはこの為である。 金融改革は、庶民の資産を豊かにした。

銀行、生保、証券が競って新商品を開 発して庶民の資産蓄積を促した。株を持つ人が増え、マネジド・ファンドに投 資をする人が増えた。オーストラリアで言えば、国民の40%が株式を持ち、 全ての勤労者がマネジド・ファンドに投資をしている。
オーストラリアの年金 システムが、スーパー・アニュエーションと言うマネジド・ファンドに組み込 まれていることは、既に述べたところで ある。
継続した好況に支えられて、庶民の持つ 株やマネジド・ファンドが豊かになっ た。相場が乱高下をしても、持っているもの は売らなければ損は出ない。家の 相場が乱高下しても、住んでいる人には関係が無 いのと同じである。しっかり した会社の株であれば、相応の配当は分配され、一般 的に言えば、銀行金利よ りも有利である。株の値が上がってから、売るかどうか考 えれば良い。

今の経済状態の対応として、持っている株は売るな、新しい株は買うなと言う のが常識となっている。余った金はキャッシュで保存し、株が下げ止まったら 買う。多くの人がキャッシュを抱えて、株の下げ止まりを期待しながら待っていると言うのが実状だ。冒頭に述べた、ルパート・マードックの考えと同じで ある。

日本の金融改革が、アメリカやオーストラリアのように進行すれば、庶民は豊かになる。 しかし、その前に超えなければならない障害は、あまりにも多い。 NHKの「クローズアップ現代」で、日本の証券会社の売り出した外国投資信託 の番組を見た。あれは、ホールセールか投機を対象にしたジャンク・ボンドを 小口に分けて、何も知らない素人に売りつけた詐欺まがいの商法である。あん なものをマネジド・ファンド等と思ってはいけない。 残念ながら今のところ日本には、庶が安心して買える有利なファンドも、消 費者を保護する法律も無いようである。

仮に商品が揃い、法律が整備されたとしても、大勢の人がこれに馴染んで豊か になるのには、10年の時間が掛かる。 又、全ての人が経済に強い訳ではない。経済的困難に見舞われた人たちには、 失業手当てや年金など、国の福祉政策が平行して充実される必要がある。


何にも増して大事なことは、政治をお上任せにしないで、人々の意志が率直に 政治に反映されるような政治改革が行われることである。族議員と官僚、天下 り企業、政治献金企業優先の政治では、どんな金融改革も、経済改革も、絵に 描いた餅になってしまうだろう。


「老人介護」 失業、年金、資産蓄積について、 オーストラリアの状況をお知らせした。 日本の実状とかなり違うことに、気づかれたと思う。 このシリーズは、私の経験を元にしているので、オーストラリアと日本の 対比と受け取られるかも知れないが、私の知る限り、英連邦の優等生であ るオーストラリアのシステムやものの考え方は、ほぼ、グローバル・スタ ンダードに近いものと考えて頂いて良いと思う。
金持ちになった筈なのに、何で豊かさが感じられないのか・・この疑問の 大きな部分が、的外れな日本の福祉政策にあることは既に述べてきた。
今日本のGDPの60%を支える民需不振が、足元に火の点いた失業と、将来 の年金不安に原因していることを考えれば、本格的な景気回復も、恒久的な豊かさも、福祉政策の抜本的な改革なくしては叶えられないものと、理 解すべきである。
今まで政府や銀行を信じてひたすら働いてきた人たちが、突然それが信じられなくなって、我が身を振り返って見れば、老齢退職後、寿命が伸びた 20年を支えるだけの貯えも無い。

人間の一生と、経済活動における人間の役割分担を整理してみよう。 第一表 人間の経済活動分担 出資者 自立退職者 福祉退職者 経営者勤 労 者 失業者 消費者 自立退職者とは、自己の資産運用で生活する退職者、福祉退職者とは 国の福祉によって生活をする退職者である。
日本の生活保護のような人格 無視の規定は、非人道的であり、失業者か福祉退職者のどちらかに、振り 分けるべきであろう。

自立退職者から、失業者にわたる全ての人に、出資者となるチャンスがあ り、全ての人が、消費者でもある。


さて、企業から見た場合、経営資金の集め方として、株や社債を発行する 方法と、借金をする方法がある。 日本の場合は、貯蓄は奨励されたが、投資は胡散臭いものとして避けられ てきた傾向がある。
結果 として、庶民の金は圧倒的に銀行に集められ、企 業に借金として供給され、日本企 業の借金体質を作り上げてしまった。
銀行は監督官庁の大蔵省の顔色を伺い、企業は銀行に生殺与奪の権を握ら れた。 大蔵省の護送船団方式によって、銀行は安易な経営に陥り、国際競争力を 失って危機を招いた。その銀行に頼っていた日本の企業も、とばっちりを 受けて、資金難に陥った。
預金者には、銀行に預けた金がどこへ行ったのか、分からない。 郵便貯金に預けた金も、年金と一緒に財政投融資となって、民間銀行なら 貸さないような安い金利で、リスクの高いところに貸し付けてある。不良 債権になれば、住専同様税金となって、再び国民に舞い戻ってくる。
まるでタコが、自分の足を食っているようなものだ。

先月、オーストラリアの好景気の牽引力となっていた、ナショナル・オー ストラリア・銀行(NAB)の社長が、低迷の続くBHP社(オーストラリア最大 の鉄鋼を主体にした会社)の社長になると報道されると、ANBの株は下が り、BHPの株が上がった。 腕利きの経営者の移動で、銀行や会社の株の値段が変わる。それくらい、 激しい競争をしている。

大蔵官僚が退職金稼ぎで天下り、受け入れる銀行 も、アンフェアーなおこぼれを期待して受け入れる。これでは、日本の銀 行が負けて当たり前である。
日本は、リストラによって、失業者が増える。高齢化によって、退職者が 増える。 失業者も退職者も、消費者である。失業者や退職者が良い消費者でありつ 続けることが、景気の安定に繋がる。失業者や退職者の生活が、惨めなも のであれば、その予備軍である勤労者の財布までもが締まってくる。 従って、福祉政策を単に国のお荷物の保護政策として捉えるのは間違いで あり、あくまでも経済活動の一環として政策化していく必要がある。

今後間違いなく増え続ける失業者には、国の負担による一律保障制度を提 案した。今までの制度と平行すれば、そんなに金の掛かる話ではない。 年金に就いては、個人の資産蓄積以外に上手い方法はない。すぐ出来る方 法として、相続税の撤廃を提案した。実際、年間いくらの相続税を徴収し ているのか知らないが、オーストラリアでさえやっているのだから、日本 で出来ない筈はない。余裕ががあれば、贈与税も廃止して欲しい。 これらの徴収には、えらく手間が掛かっているのだから、行政改革には良 い材料となろう。要らなくなった部は、廃止をすれば良い。

老人介護政策に就いて考えてみよう。 オーストラリアは、福祉大国として日本でも評判になり、最近は研修、見 学者よく訪れるが、オーストラリアには、老人介護保険は存在しない。

イギリスの影響を強く受けているオーストラリアでは、個人の独立心が強く、子供は学校を卒業すると家を出て独立する。 親は子供との同居は考えず、やがて年老いて、自活が困難になると、ナー シング・ホームに入る。ナーシング・ホームに入るのは、65歳以上の人 口の5%に過ぎないと言う統計があって、全部の高齢者が入る訳ではない。 多くの人は自分の家で生活する内に、病になって、病院で亡くなるのである。

ナーシングホームに入るには、地域のアセスメントチームの査定を受けな ければならない。このチームは、老人病専門医、看護婦、作業療法士、理 学療法士、ソシアルワーカーで構成されている。 このサービスは無料で、本人、家族、掛り付けの医者、又は入居施設の職 員など、誰でもアセスメントを依頼することが出来る。連絡先は、電話帳 の巻頭部に掲載されている。
チームはナーシングホーム入居の査定をするだけでなく、在宅サービスを 希望する高齢者には、例えば朝晩のベッドから起き上がる介助、シャワー を浴びる介助、就寝時に着替えやベッドに入る介助、訪問看護婦の派遣、 リハビリセンターやレスパイトサービスと呼ばれる家族に休養を与えるプ ログラムなど、その人のニーズに合ったサービスを、パッケージとして提 供する。
ボランティアが老人の家に、定期的に食事を配るミールズ・オンザ・ホイー ルという地域活動が有る。
その他にも、買い物の手伝いとか色々あるが、 何れもボランタリーが主体で、地方自治体や政府が助成金を出してセンター 的役割を果たす。
私は2年前から、コミュニティー・ビジターというボランタリーに参加を して、ナーシングホームにいる日本人高齢者を、毎週訪問をしてい る。
少数民族の高齢者にとって、言葉や食事の異なる人たちとの団体生活は困 難を極める。入居者の友人となり、又、ホームと入居者との仲立ちとなっ て、少しでも住みやすくするのが目的である。
これは連邦政府の政策とし て、各地の病院や赤十字に政府助成金によるセンターが設けられている。 ボランティアは、センターに登録をして、センターの職員と連携を保ちな がら日常的にボランタリーを行う。

シドニーには、374のナーシング・ホームと、383の老人ホーム、53のデイ・ ケア・センターがある。 ナーシング・ホームは、24時間サービスの、日本で言えば特別擁護老人 ホームに相当する。これらの施設は、個人の出資、チャリティ団体や寄付 によって、長い年月を掛けて整えられてきた。全て、民間施設である。
政府は、入居者の障害度合いによって、助成金を払う。 入居者は、自分の貰う年金で費用が賄えるようになっており、自立退職者 の場合は、それぞれの収入によって入居費用が計算される。入居費用の多 い人も少ない人も、取り扱いは一切一緒である。

オーストラリアの老人介護システムは、立役者は市民であり、政府は黒子 である。
施設の多くは、と言うより殆どが、個人の浄財や寄付で建てられ、 運営されている。 寄付には税金が掛からないので、全額施設の資金となる。寄付をした者 には、チャリティー団体への寄付は、経費として所得税の控除になる。 自分の寄付が、ここで役に立っているという実感が有る。

税金として払ったものが、政府をぐるりと一回りして施設に戻って来た場 合、何分の一に目減りをしてしまうだろうか。その間には、厚生省汚職の ような、スキャンダルの入り込む隙も有る。
ナーシングホームは、政府の負担が大きいのみならず、高齢者自身の快適 さから考えても自宅に勝るものはないので、最近は在宅介護に重点が移さ れている。 恵まれない他人に思いを馳せるには、自分にそれだけの余裕が必要である。
寄付をするにも、ボランティアになるにも…。 金が無ければ、夫婦喧嘩も起きる。

経済政策は、福祉政策も含めた人間コミュニティーの根幹を考慮したもの であって欲しいと思う。

「資産倍増政策」 近代日本になってから、時の指導者の明確な戦略が示されたことが何回か あった。明治の富国強兵論、池田勇人首相の所得倍増論、田中角栄首相の 列島改造論が思い起こされる。 一般に日本人は小器用で、戦術は上手いが戦略で失敗するケースが多い。
例えば、太平洋戦争がそうだ。 ハワイ奇襲作戦、シンガポール攻略作戦などは、世界中があっと驚く程の 戦果を上げながら、名誉ある終戦に結び付ける戦略が欠けていた。 戦後の復興から、経済発展まで、所得は増えたが、金が企業や銀行に一点 集中した結果、バブルが弾けて元の木阿弥になってしまった。
明確な戦略の無いまま金を貯め込んで、預かった企業や銀行の首脳は、ど うせ他人の金だからと、どぶに捨てるような放漫経営に走った。

日本人には、古くから金を卑しむ風潮がある。又、清貧思想に憧れ、金持 ち悪徳思想が根強い。 AGL社の同僚のエンジニアが、ミリオネヤーになるんだと、張り切って いた。まだパソコンが珍しいころ、投資のソフトを買い込んで、これでや れば金持ちになれるんだと、目を輝かしていた。素直に金持ちになりたい と言う彼の気持ちが、実に新鮮に感じられた。 誰だって、金持ちになりたいに違いない。

日本では不動産の値上がりで、相続を巡って骨肉相争うケースが、日常茶 飯事ではないか。金融機関の破綻で、預金者保護をすると言う。それなら、若し株が下がっ たら、不動産が下がったら、保護をしてくれるのだろうか。 銀行預金も、株も、不動産も、資産であることに変わりはない。日本人に は、銀行預金は善で、株や不動産投資はいかがわしいとする風潮がある。
若し、経済成長で貯めた金を、国民に幅広く分散していれば、バブルには ならなかったろう。
資産の分散は、危機管理の基本である。 若し、個人に資産が分散され、それが又危機管理の基本に則って、銀行預 金だけでなく、不動産や、株、債券などに分散投資をされていれば、例え ば銀行が倒産しても、それは資産の一部の損害で済む。

日本人は預金(saving)はするが、投資(investment)をしない。 銀行は、集めた金で預金者の代わりに投資をして、失敗をしてしまった。 若し、個人が自分の金を直接投資をしていれば、銀行のやったようなずさ んな投資はしなかったろう。
「若し」ばかりが続いたが、これからどうすればいいのだろうか。

先ず、相続税を廃止することだ。
オーストラリアに、相続税は ない。 相続税を廃止することによって、国民の資産は確実に増える。 死んだとたん に、家を売って税金の支払いに当てるのでは、まるで借家と 同じではないか。
全国に15万あると言われる小企業は、親父の社長が死ねば、相続税の支 払いで事業の継続さえ難しくなる。
日本は、個人的企業の減りつづけてい る世界でも珍しい国と聞いている。これでは、国民の資産は増えないし、 産業を支える小規模企業も育たない。 相続税が無ければ、財産を貯め、あるいは企業を引き継いで発展させよう と言う意欲も沸く。

国民の資産が増えれば、社会が安定して、国に底力がつく。 金融機関も、この資産を運用することで、利益を得る。 国の社会保障も、支出を少なくすることが出来る。

とにかく、何でもかんでも国が金を集めて、国が全てを取り仕切る様な非 能率なことは、一日も早く卒業すべきだ。

数年前、娘に家を一軒やった。オーストラリアには、贈与税も無い。 家を持つと、地方税が掛かるが、道路の清掃、ゴミ集めの費用に当てられ るもので、年額8万円位のものである。固定資産税もない。 娘はタダ家賃の家に住みながら、ローンを借りて、シティーの近くに新築 のマンションを買った。それを人に貸して、家賃収入に自分の給料を足し て、ローンを返済している。 年功序列はないし、男女の所得格差も少ないから、若い女性だからと言っ て、給料が安いと言うことはない。 投資用の家を買うと、ローン金利や不動産屋の手数料などは、経費として 給料や家賃収入に掛かる所得税から控除される。 娘は、30歳そこそこで、数年後に家を2軒持つことになる。

政府は、贈与税を取らなかった代わりに、今後娘が失業をしても、失業手 当てを払わなくて済む。スーパーを合わせれば、65歳になっても、政府 は年金を払わなくて済む。

オーストラリアの経済力は、GDPで日本の10分の1しかない。 主要輸出品の資源は、値段が付かず、最悪の状態である。貿易収支は、万 年赤字で、将来を憂える声が高い。
一方、サイゴン陥落以後、ベトナム難民を受け入れ、すでに15万人がオー ストラリアを我が家としている。職に就くまでは、失業手当てを払い、医 療費を負担している。 オーストラリアは、決して気楽な稼業をしている訳ではない。
所得税は高い。 日本と似たような累進課税となっているが、ちなみに97年度の年収に対 る税率は次のようだ。1ドルは現在86円位の交換レートであるが、簡 単に100円として計算する。 1-540,000 円 0% 540,001-2,070,000円 20%2,070,100-3,800,000円 34% 3,800.100-5,000,000円 43% 5,000,100円- 47% 物価のことを考えても、日本の所得税が如何に安いか、お分かりと思う。

昨日、オーストラリア政府与党連合は、10月に想定されている下院の選 挙の争点として、10%の消費税の導入を発表した。 オーストラリアに、今まで消費税はなかった。当然、賛否の議論が起こっ ているが、産業界は早々と賛意を表明した。

各界、 各層の人々が、自分の減税分の計算を始めた。 国が始まって以来の大税制改 革と銘打ったハワード首相は、「21世紀に 向かって、直間比率の是正をしておか ないと、やがては行き詰まり、問題 を先送りして経済危機を招いた日本のようにな ってしまう」と、この改革 案を売り込んでいる。
日本人としては、何とも情けない話である。
当然野党は反論をしているが、あまり勢いはよくない。与党の人気が落ち 目で、今選挙をやれば、労働党の勝利間違い無しと予測されていたのだが、 この消費税10%の税制改革案で、与党は人気を盛り返す気配である。

オーストラリアは、決して税金の安い国ではない。それなのに、なぜ国民 が豊かなのか。 政府の、税制を上手く使った、資産増やし戦略があるからである。 税金が高いから、蓄財のための税優遇処置の効果が高い。前述の娘の例の ように、蓄財をしようとすれば、殆ど税金を払わなくて済むようになって いるのである。 若い内に自分の家を持ってしまえば、後がずっと楽になる。

日本は所得が高く、所得税は低いが、自分の家を売っても税金を取られ、 家族に譲っても税金を取られ、死ねば相続税でとどめを刺されてしまう。

年功序列だから、若い内は給料が安く、失業保険や年金保険を払わされて、 余裕が無い。給料が上がるころには、出費が増えて、余裕が無い。 せめて、相続税くらいは、廃止できないものだろうか。

金融ビッグバンは、銀行改革だけの問題ではない。 私の取り引きをしているコモンウェルス銀行は、その名の示すように、か つては国立銀行であった。金融自由化に伴って、民営化され、株が一般に 公開された。今は、投資サービスから、株の売買まで行う、総合金融会社 になっている。
私はこの銀行に口座を持ち、年金投資や株の売買にも利用している。 普通、証券会社を通すと、100万円の株で8,000円の手数料を取られる が、この銀行の電話サービスを通せば5,000円、インターネットを通すと 2,900円で済み、口座から自動的に振り替えが行われる。買った株も、そ の場でEmailで報告が入る。上場会社の詳細な情報も、銀行のホームページ で見ることが出来る。

余談になるが、一つ困ったことが起きた。ウインドウズ95の日本語版で は、銀行のソフトが動かないのだ。やむなく、英語版のウインドウズ98 を入れて、バイリンガル・システムにしなければならなかった。 金は掛かるし、操作も面倒だ。トラブルも出る。日本がグローバル化をし ていく中で、通信分野で日本語が障害になるのではないかと心配になる。

今、オーストラリアの株式上場企業では、日本でも知られているルパート・ マードック氏率いるニュース社を筆頭に、トップ10社の内、銀行4社、 メディア・通信3社、保険1社が占めている。規制緩和、リストラの成果 である。重厚長大産業、資源産業は順位を下げた。 この銀行4社と保険1社は、いずれも投資サービス会社を持ち、記録的な 利益を上げてトップ10にのし上がってきた。オーストラリアの好況の牽 引車となっている。

政府財政は、昨年に続き、今年も黒字決算である。 銀行は厳しい競争の中で、金利差益を下げ、リストラを行い、投資サービスを充実させて、利益を上げてきた。 日本の金融機関も、投資信託などの新しい商品を出して、国民の蓄財に寄 与することで、みずからも利益を上げる方向で、競争すべきだ。
そのため には、国民が投資に回すだけの資産を持つ必要がある。そして、安易に預 金するだけでなく、資産の成長に頭を使うべきだ。 資産倍増政策は、ビッグバンにとっても、欠かすことが出来ないのである。

政府が銀行救済に気を取られて、リストラを怠り、国民の資産増やしに積 極的に取り組まないと、ビッグバ ンは空回りに終わってしまうかもしれない。
年金は、保険金として取りたてるのではなく、前号に述べたように個人の 資産運用に任せる。国の内外、株、債券、定期、不動産などに分散投資を すれば、リスクを減らし、利益を増やすことが可能 だ。

わずかな資産でも、自分の知恵と判断力で、盆栽や家庭菜園でも丹精する ように育てていくのは、面白いものだ。そこには、仕事の場では得られな い、別のドラマがある。
全ての人が、仕事に生きがいを感じている訳でもあるまい。職場では成功 出来なかった人も、リタイヤ後の生活に、敗者復活のチャンスがある。

この巨大な資金が金融機関に流れれば、金融機関の活性化に繋がる。金融 機関は、グローバルな投資商品を提供し、運用成績で競争をする。 個人に蓄積された資産が、代々引き継がれていけば、政府は小さくなって いくが、国民は豊かになって行く。

日本の縦割り行政では、大蔵、厚生、労働、経企、通産に跨るような戦略 は打てない。これは、政治家の仕事である。

国家とは何だろう。 所詮は、人間のコミュニティーではないのだろうか。 日本に一時帰国するたびに、道端に並ぶダンボール住まいが増えていく。 あそこには、人間の尊厳が存在しない。日本の福祉政策には、愛情のかけ らも感じられない。

日本の直面している経済危機の根っこは、政府も、銀行も、年金も信じら れない、国民の将来への不安である。

社内失業者を含めれば、リストラの 進展に伴って、失業率10%も時間の問題かもしれない。 3回の「シドニーからの手紙」で、最近私の身辺に起こっている情報をお 伝えした。 他山の石として、日本の矛盾を考え直していただければ、幸いである。


)「年金」 日本の年金が、国鉄、林野の累積赤字、金融機関の行き詰まりに続く、第三の爆 弾の様相を呈している。前二者に比べて、個人の生活に及ぼす影響の大きさから 考えると、その深刻さは比較にならない。
日本人は貯金をすることで、国際的に有名だ。なぜ貯蓄をするのか。将来に備え るために違いない。将来に不安が高ければ高いほど、貯蓄性向が高まる。

日本は金があるのに豊かさが感じられない。オーストラリアに移住をして、初め て原因が分かった。
オーストラリア人は、日本人と反対に貯蓄をしないので有名だ。 今は少し変わったけれど、少し前迄は、定年退職をすると、世界旅行をしたりし て、財産を減らす。あまり金があると、国民年金が貰えなくなるからだ。 現役中は失業手当て、定年退職すれば、国民年金で生活が保障されていれば、あ くせく貯蓄する必要はない。
今でも86%の退職者が、国民年金で生活をしてい る。

全ての国民と、10年以上定住した永住ビザを持つ外国人に支給される。 オーストラリアでは、今述べた全額国庫負担の国民年金と、個人年金のスーパー の2階建てになっている。個人年金も、強制加入である。
私は1980年にシドニーに移住をして、到着の1週間後から失業手当てを支給 された。医療保険もすぐに適用された。当時は医療保険があれば、医療費はすべて無料であった。仮住まいのアパートの家賃を含めて、当面の生活はこれで賄う ことが出来た。
日本にいた時は自営をしていたから、病気にでもなればさっそく生活に困ること になる。オーストラリアに来て、生まれて始めて、これで食う心配と、医者代の 心配だけは無くなったと実感した。

先月、7月3日に、65歳1ヶ月で、17年間勤務したAGL社を退職した。
オーストラリアでは、数年前から定年制が無くなっている。年齢を理由に解雇を るのは年齢差別になることから、事実上禁止さ れたのである。解雇をするには、 年齢以外の正当な理由を付けなければならない。
65歳から国の年金が支給されることから、今でも一般的には65歳になると任 意に退職をして、年金生活に入る人が多い。私もそろそろ生活を変えたいと思っ ていたので、会計年度の6月を過ぎた7月に退職をした。退職に伴う所得が翌年 回しになり、節税になるからである。

さて、ここで本題の年金に話を戻そう。


日本の年金制度の基本的な欠陥は、競争原理が働いていないことにある。
莫大な年金基金が、官僚によって独善的に運用されて、その結果がほとんど評価 もされず、公表もされず、責任も無いと言うのは、現代資本主義社会ではありえ ないことである。

加えて、現役時代の所得が、部長は部長、課長は課長、平社員 は平社員のまま年金生活に移行するのでは、夢も希望も無い。
20年もある残りの人生を、現役時代と違ったライフスタイルで過ごしたいでは ないか。 そのためには、年金も個人の希望に添ったバラエティが必要である。

日本の年金 にはそんな配慮が無い。

<オーストラリアの年金> 今回は、私自身が目下体験をしている、オストラリアの年金制度をご紹介したい。 2年ほど前に、そろそろ退職をしようと考えて、投資アドバイザーのに相談に 行った。銀行などが投資会社の経営もしているので、窓口で頼めばすぐにアポイ ントを取ってくれる。相談は無料である。
年金は、国から支給される国民年金と、個人の投資によるスーパーアニュエー ション(一般にスーパーと略称)の2階建てになっている。
私が就職をした17年前には、スーパーは任意加入で、会社の福利の一環として 扱われていた。 その後、国の財政が苦しくなってきたことと、生活レベルの多様化によって、国 民年金だけでは満足しない家庭が増えたことでスーパーが強制加入に法律で定 められた。

給与所得者は、給与の3%以上任意の額をスーパー基金に入れる。これは給与か ら源泉徴収される。会社は、給与の6%相当額を従業員の基金に加算給付をする。
会社給付を今後毎年1%づつ増やして、10%まで増額することが、すでに法律 で決まっている。 来年度から、会社は自前のスーパー基金と合わせて、五社の投資会社を従業員に 紹介をする事が義務づけられている。従業員は、この中から自分の気に入ったも のを選ぶ。 スーパーは投資信託に委託をされ、リタイヤするまでは原則として下ろせない。 配当には15%の分離課税が課されるが、株の配当の部分は殆どの場合無税であ るから、実際の課税はもっと低くなる。この配当が、元金に繰り込まれていく。 国は、スーパーの法律を作るだけで、1セントも出さない。すべて個人と会社の 責任である。

日本の年金との 違いは、スーパーは個人の資産であって、貯まった ものは確実に自分の手に入る。 強制スーパーで足りないと思えば、個人的に投資会社に、任意のスーパー投資を す る。
これには色々な種類の商品があって、個人の選択の幅が大きい。 会社のスーパーは年に一度、各従業員宛てに明細報告を送ってくる。成績が悪け れば、投資先を変更できる。 任意スーパーは、年に2回報告書が送られて来るが、一般的な成績は毎週新聞に 公表されるし、インターネットで詳細を知ることも出来る。投資先が気に入らな ければ、いつでも変更できるが、手数料が掛かる。

スーパーは、週20時間以上働いていれば、70歳まで続けることが出来る。 定年制が無いので、自分がリタイヤを宣言した時が定年退職になる。 スーパーはこの時点から90日以内に、任意の投資会社の年金に移転をしなけれ ばならない。現金で受け取ると税金が掛かるが、年金に移転をすれば無税である。

この年金も基本的には投資であるから、自分の考えで配当とリスクを勘案して、 国内、海外の株、債権、不動産、キャッシュなどを組み込んだ投資信託に分散投 資をする。配当はもちろん成績次第であるが、投資アドバイザーの使う予測は8 %と決まっていて、これが5年以上の投資の、かなり保守的な値と考えられてい る。この配当にも減税処置が取られていて、普通は無税である。

スーパーが増えれば増えるほど、国は税金から国民年金を払わなくて済む。
<国民年金の受給資格> 国の年金には、資産テストと収入テストがあって、限度を超えた収入や資産があ れば減額され、支給されなくなる。最低生活は国が保障をします、余裕のある人 は税金を安くするから、自分で自由にやってくださいと言うのが基本思想である。

今年度の国民年金と限度額は下記のようになる。これは毎年物価に合わせた見直 しが行われる。 金額は分かりやすいように円で示す。週単位である。2週間ごとに、社会保障省 から、受給者の銀行口座に振り込まれてくる。 オーストラリア・ドルは現在88円位であるが、計算のし易いこと、物価を勘案 して100円として計算する。 国の年金支給額(1週間) 独身者 夫婦 17,700円 29,580円 この金額は、下記の収入テスト、資産テストによって、限度を超えると限度の低 い方で減額、或は支給が打ち切られる。資産の内、持ち家、車など、テスト対象 外のものがあり、たとえばどんな豪邸に住んでいても、資産としてはカウントさ れない。 収入テスト(1週間) 独身者 夫婦 5,000円(まで満額) 8,800円(まで満額) この間比例減額 41,000円(支給打ち切り) 68,500円(支給打ち切り) 資産テスト(家、車などは対象外) 持ち家独身者 持ち家夫婦 12,575,000円(まで満額) 17,850,000円(まで満額) この間比例減額 24,350,000(支給打ち切り) 37,400,000円(支給打ち切り) 借家独身者 借家夫婦 21,575,000円(まで満額) 26,850,000円(まで満額) この間比例減額 33,350,000円(支給打ち切り)46,400,000円(支給打ち切り) この他にも細かな規則があって、たとえば預金資産は、金利3%の見做し収入と して計算される。しかし大まかには、上に説明したようなものである。

世界でも、最も持ち家率の高いオーストラリアでは、持ち家には特別の考慮が払 われていて、社会保障や税金面では資産の対象外とされる例が多い。
持ち家の売買には所得税が免除され、固定資産税もない。 相続税や贈与税も無く、一度手に入れたものは代々相続されるので、収入の割に は資産家が多い。
これも豊かさの原因であろう。

オーストラリア方式にも欠点はある。複雑なことである。法律は毎年のように改 正される。経済状況は日々変化をする。特に今のように、世界的に経済が不安定 な時は、ニュースをよく見て、世界の動きを掴んでいないと、適切な資産の運用 が出来ない。

しかし、こんな時こそ、自分の資産は自分で確かめて運用すべきではないのだろ うか。人に任せて失敗をしても、責任をとってくれるわけではない。 自分で失敗をしたのなら諦めもつく。 テスト基準以下の生活になったら、国の年金を申請すればいい。そう思うだけで、 心が平和になる。

<生 産性> オーストラリア式のスーパーを、日本式に計算してみよう。 23歳の初任給 を年俸200万円、昇給年4%、年金積み立てを所得の15%と する。積み立ての 内訳は、自分が3−10%、会社が10%と言うのがオースト ラリアの決まりであ るが、ここでは合わせて15%とする。

積み立てにかかる金利を5%と8%で計算してみる。
日本の今の金利は馬鹿げて いて話にならない。これはグローバル・スタンダードとしては、かなり控え目で ある。日本の投資会社で出来ないなら、外資系に頼めばいい。 年齢 年俸(4%昇給) 積立額(5%金利) 積立額(8%金利) 23歳200万円 32歳 285万円 446万円 509万円 42歳 421万円 1,387万円 1,852万円 52歳 624万円 3,236万円 5,114万円 62歳 923万円 6,717万円 12,693万円 所得の5%を積み立てて、62歳で1億円が手に入れば、悪くはない。しかこ れは全額自分の金である。死んでも、そっくり遺産として配偶者に引き継がれる。

この結果を、日本の年金と比較をして欲しい。 人口が減ろうが、老齢化しようが、所詮は自分の金だから、システムが行き詰ま るなんて事はない。会社を変えても、スーパーは影響を受けることなく、そのま ま継続される。 スーパーや個人年金(AllocatedPension)は、Fund Managerによって運用されて いる。

実際の成績はインターネットで見ることが出来る。 たとえばバンカーズ・トラストのURLはhttp://www.btfunds.com.au/ である。ホームページから、Fund Managers =>Performanceとたどっていけば よい。
10%以下の運用が、如何に控え目であることが分かるだろう。

厚生省は、5つの提案とかを公表しているが、崩壊しつつある現行制度の手直し に過ぎない。もっと創造的な発想が出来ないものだろうか。

「リストラの前に社会体質改革を」
日本の経済危機は、小渕、宮沢、堺屋体制で対策が進められようとしているが、 今の日本では他に上手い方法はない様に思う。問題があまりに深く、一夜で解決 できるようなものではない。
一円の違いも許さない日本の銀行が、自分の抱える不良債権を勘定出 来ないはず はなく、ムーディーズなどのレーティングがじりじりと下がっていくの に、ダン マリを決め込んでいるのは、よほど悪いと見なければならない。

ソ連式の改革か、中国式の改革か、どちらを選ぶかとなれば、中国式にならざる を得ない。

今の危機を、明治維新や太平洋戦争の敗戦になぞらえて評論される向きがあるが、当時の日本はどんな改革をやろうが、外の世界には全く影響がなかった。
世界に 対する今の日本のプレゼンスから考えれば、ドンと一度ぶち壊してと言うような 爽快な手段は採用できない。 構造改革が必要なことは当然の事ながら、その前に忘れていることがある。体質 改革である。 戦後以来の右肩上がりの需要に支えられて、企業にとって都合のいい終身雇用、 年功序列、失業者無しの社会体質ががっちりと固まってしまっている。

山一の社長が、大蔵省に助けてくださいと泣いてお願いをしたと言う一事に象徴 されるように、企業も個人も依存意識が強く、自立意識が弱い。自民党の総裁選 で、小泉さんが「中央官庁の人員を10年で半分にする」と述べていたが、いま の日本にそれを受け入れるだけの社会体制が整っていない。

このままで先進国並 みのリストラをやれば、社会不安が起きてしまう。 リストラをやれば労働移動が活発になる。失業者が増える。5%くらいの失業率 は、景気が好くなっても存在するのは、アメリカの例でも明らかである。

オース トラリアも好況が続いて、10%の失業率が8%に下がったが、これ以下に下げ るのは難しい。 日本も、4.3%に上昇した失業率を下げることよりも、5%位の失業者が常時いら れるような社会システムを、早く構築する必要がある。

構造改革、つまりリストラをやるには、先進国では常識になっている次のような 社会体質改革が先ず必要である。

1、 定年制の廃止 適材適所、実力主義がリストラの基本である。35歳を過ぎると就職のチャンス もないと言うのは可笑しい。不要な人は整理し、必要な人を雇用するのがリスト ラである。 定年が無くなれば、定年制延長の議論も不用になる。 オーストラリアでは、定年制は年齢差別になるので、事実上禁止されている。

2、 社会保障制度の大改革 日本の失業保険や年金は、上に厚く下に冷たい、文字どおり保険制度であって、 本来国がやるべき福祉制度になっていない。国はすべての失業者と老齢者など恵 まれない人々の福祉政策を早急に確立すべきで、民間保険会社のやるような保険 制度をもって社会保障だとするのは欺瞞である。

全国民が加入してる筈の国民年金の11%の人が保険料を払わず、そのうち 66%の人が民間年金に加入していると言うことは、すでに制度がコントロール を失っていることを示している。

厚生年金制度もまた然り。 GDPの60%を支える国内消費が冷え込んでいるの は、失業保障制度、年金制度 の不信に大きく原因していることを考慮すべきであ る。
オーストラリアでは、全ての恵まれない失業者と老齢者は国の社会保障でカバー され、高額所得者や金持ちは民間投資と言う風に、分担が分かれている。
オーストラリアで行われているリストラの実態を、以下にご紹介する。

「リストラ」 アメリカは20年前に、英国は15年前に、オーストラリアは10年前にリストラを始め た。今、英語圏が揃って景気が好いのは、その成果の現れである。その好況もピークに達し、スローダウンが予測される時期になっての日本の不況は、不運といえる。

今の不況が構造不況で、構造改革が必要だと、皆言っている。

構造改革は英語で(restructuring) つまり「リストラ」である。 リストラは、今や殆ど首切りと同意語である。首切りのないリストラなどは、考え られないのである。日本では、構造改革とリストラを使い分けて、首切りをしなく ても構造改革が出来るかの様な話しが横行している。これは全くの欺瞞である。

高度成長期ならいざ知らず、代替需要経済、脱工業化社会に突入しつつある現在、 リストラ無しの経済成長は不可能である。 終身雇用制、失業なしに長い間慣らされてきた日本では、失業がタブー視され、議 論さえもが憚れている。失業が恥と考えられている社会では、西欧先進国の様なス トレートなリストラは、難しい。

日本の社会保障制度が、実は保険制度であって、社会福祉になっていないのも問題 である。 不況で一番先に犠牲になる下請け、零細、未組織勤労者が国の保護を受けられず、 高給取りが多額の保障を受け取る今の制度は、根本的に改革の必要がある。

失業者を許さない日本の文化、上に厚く下に冷たい社会保障制度、この二つが日本 のリストラを困難にしている。 オーストラリアでは、すべての国民と、永住権を持つ外国人は、国の失業保障でカ バーされている。他に所得がなければ、就職するまで無期限に支給される。

失業を 望む人はいないが万一失業しても国が支えてくれれば、パニックにはならない。 私の勤めていたAGL社を例にとって、欧米型リストラ法を紹介しよう。

AGL社はガス会社で、日本で言えば東京ガスとか大阪ガスといったところである。 20年ほど前に天然ガスの転換プロジェクトがあって、それが終った時点で、マ ネージャー以下下請けまで、全員がリダンダンシー(redundancy)になった。 リダンダンシーと言うのは不要人材と言う意味である。

リダンダンシーになると、 三つのの選択が与えられる。 リ ダンダンシー・パッケージと言う割り増し退職金を貰って辞めるか、 社内の他の部 署の募集に応じて採用されるか、 強制的に配置転換されて、3年後にそこで適合しな いと分かると解雇されるかであ る。 これで結局、1000人ぐらいの人員削減が行 われた。

天然ガスの転換をすると、パイプからガス漏れを起こすようになる。これを防ぐ 為とキャパシティーを増やす目的で、リハビリテーションと言うプロジェクトが 少し遅れて進行して、これも今は殆ど終了した。これで又1000人程がリダン ダンシーになった。
この結果、10年ほどの間に従業員の数は半分に減り、売り上げは倍になり、株 の値段は4倍になった。 会社は儲かるので、今年は全社員に約1000ドルのボーナスと、1000ドル分の会社 株の無償配布があった。 本来は国内産業であるが、今は中国、チリ、ポーランドに事業を展開している。

これがリストラである。リストラをやると、会社は儲かるようになり、新しい投 資が可能になる。 リストラは、不要部署の廃止と言う形で行われるから、マネージャー以下、リダ ンダンシーにならないように皆一生懸命、新しい儲かる仕事を見つけて成績を上 げようと努力をする。
新しい仕事が発展すれば、人を募集する。同じ会社でも、リダンダンシーで出て 行く人と、新しい人材の募集が同時進行する。
AGL社の場合、今残っている 1500人足らずの従業員の内、10年前にいた人は、半分以下である。 だから、リストラが上手く進行してくると、失業率はその割に上がらない。会社 は儲かって、産業界全体が新しい事業で活気が出て、雇用が増える。失業は、 A社からB社に移る、労働移動の一過程である。

リストラの仕組みを、社会保障の関連で説明しよう。 例えば、年俸500万円の人がリストラされたとする。 一般的に会社は、給料の他に、建物のスペースから電気、電話、休暇、社会保障 費等の間接費をほぼ給料と同額負担しているから、年間1000万円の経費節約 になる。 この人が失業している間は、国が失業手当てを払う。月10万円(夫婦二人なら2 0万円)として、年間120万円を税金から払うが、国全体としては差引880万円 の経費節約が出来ることになる。 国は失業手当てを払っても、景気が良くなって税収が上がれば、それで回収でき る。

オーストラリアは所得税が高くて、普通のサラリーマンで25%は持っていかる。 でもいざという時には国が生活を保障してくれるから、高くてもしょうがないと 思っている。 生活に不安がないので、失業率が上がっても、その割には消費は落ち込まない。 グローバル・スタンダードからいって、所得税の低い日本で、所得税減税をやっ ても効果のでないのは、的を外れているからである。

日本式の、沢山払った人には沢山支給され、本当に困っている人には保障がない というのは、社会保障にならない。これは民間の保険会社のやることである。

新宿駅などに ホームレスが溢れているが、正に途上国並みの社会保障の姿だと思 う。

首が切れなければ、リストラが出来ない。リストラが出来なければいずれは競争 力を失って、景気が悪くなる。 日本が本気でリストラをやるのなら、先ず政府がすべての国民の最低生活を保障 する失業保障制度を実施して、失業してもとりあえずは食う心配のない社会を作 る必要があると思う。

失業率が5%として350万人、年120万円払うとして4兆2000億円。これでリ ストラが出来るなら、景気刺激に16兆円、銀行救済に30兆も使って、その上 に、超低金利で何兆円もの本来国民の懐に入るはずの金利を銀行に提供するより、 ずっと意味があると思うが如何であろうか。

ちなみに、今私の利用しているコモンウエルス銀行では、一年定期 5.4%, ホー ムローン5.9%で貸し出している。

日本の銀行は、預金者の負担で何倍もの利ざ やに恵まれている。不良債権をひた隠しにしながら、預金者の負担で穴埋めを 図っているのである。 少々金はあるけれど、失業と年金が心配で金が使えない、と言うのが今の日本であろう。

平均家族、年間10万足らずの減税では、不安の解消にはならない。 社会保障制度の、先進国並み改善が急務である。 日本と、今景気の好い先進諸国との基本的な違いは、労働慣行と社会保障制度 なのである。

アメリカは日本に、減税による国内需要の喚起を迫っているが、日本の社会保 障の実態までは知らないのではないか。 バンカーズ・トラストの投資セミナーに参加をした。スピーカーはドクターの タイトルをもつセニア・アナリストで、アジアのエキスパートと言われている クリス・ケイトン氏であったが、日本についての質問に「日本のことはよく分 からない」と答えていた。 ---------------------------------------------------------------------------- 皆さんのご意見をお寄せ下さい。camellia@ozemail.com.au どうも有り難うございま した。 海外有権者ネットワーク・オーストラリア 保坂 佳秀