SCM(サプライチェーン・マネジメント)で儲けるために…
物流は“材料調達・生産・在庫・販売の一体化”の要

株式会社コムズケア
代表 木村 早苗

思うように商品が売れない時代です。売価だけがジリジリと下がることが、ますます企業の体力を奪い消耗させていきます。本来、物流コストは、商品に付加された変動コストです。このコストをどのように付加価値とするか、です。
この当たり前の事実に一早く気づき、手を打っているA社は、物流部門の効率化を進めて10年が経ちます。
黒い作業服に身をかためた物流担当の幹部。毎日の作業スケジュール確認、荷捌きの予定表、整然と配置された倉庫…それらはすべて、生産現場と営業第一線との日々の情報交換に基づく動きであり、コミュニケーションが基盤になっているのです。
僅か5人足らずの物流担当幹部が、3千坪の倉庫とパートさん中心の総勢80人の物流メンバーを動かしています。5人のメンバーと経営幹部は週1回の会議で経営の動きを把握・確認し、直ちにそれが生産部門に、物流部門に流され、モノの動き、イコール、カネとヒトの動きに反映させています。
経営トップの「今年の利益も半分以上が物流部門の有形・無形の貢献です。在庫は5年前の1/3に減り、財務上の資金負担は大幅に軽減されました。物流が物流で終わっていないのが強みです」の言葉。
「物流」に注目が集まっているのは、「物流」が企業活動における重要なライフラインだからということだけではなく、「物流」にはコストダウンやサービス向上につながる目の付けどころが満載だからです。AMAZONしかり、UNIQLOにしても、「物流」の優劣が企業の業績や顧客満足度の差を生んでいるのです。

サプライチェーン・マネジメントと戦略物流

日本の物流は長く、勘と経験に頼った「見えない物流」時代にありました。ところが80年代になり、ITの進展が、情報に基づいた物流管理=「見える物流」を可能にしました。情報化によってムダな物流が見えるようになった結果、売上、イコール出荷動向に合わせて在庫を配置・補充する仕組みが生み出されたのです。
さらに90年代半ばには、原材料や部品の調達から生産、在庫、販売までの商品供給の流れを「供給の鎖」(サプライチェーン)ととらえ、全体の最適化を図ることを目的とする“SCM”の考え方が広がりました。なかでも物流部門は、各部門をつないでスムーズな流れをつくる重要な役割を果たすことから、単なる管理物流を超えた「戦略物流」(ロジスティクス)の必要性が叫ばれ、「欲しいときに」「欲しいものを」「欲しいだけ」、安定して供給できる体制づくりの構築が始まりました。
その結果、物流の現場には大きな変革の波が押し寄せてきました。荷主企業から“リードタイムの短縮”や“物流コストの削減”という強いプレッシャーを与えられ、今も多くの物流業者が業務フローの見直しや現場改善を迫られています。

物流改善を阻害する要因

成功例はたくさんあります。反対に、思うように改革・改善が進まない事例も、たくさん見聞きしました。
失敗の原因はいろいろありますが、もっとも厄介な問題は、“従業員の意識改革が進まない”ことにあるように思います。変化を嫌う従業員が、改善に伴うシステム変更に強硬に反発するのです。日々の業務を終えるだけで手一杯という状態におかれているのに、これ以上余計な仕事を増やさないでくれというのがその理由です。

物流改善の現場への落とし込み方

「物流で儲けるんだ!」の強い使命感と意志のもと、物流改善を現場に落とし込み、次の四段階を実情に合わせ実践することです。
(1)現状を正しく把握し、改善の必要性、目的・目標を明らかにする
(2)全メンバーが物流部門の重要性を自覚し、仕事の意義、役割を明確にして、改善意欲を高める
(3)改善モデルをつくり、それを【計画→実行→確認→改良】のPDCAサイクルで実行してみる
(4)改善後の効果(イコール、利益貢献)を公正に測定、評価し、通常業務化する
在庫管理システムの新規導入を試みたものの、(3)の“モデル化”に失敗したため改善が進まなかった事例があります。新システムは、コスト削減を意識し、ペーパーレスを基本とした設計でした。ところが現場では、照合やチェック業務に際して、伝票やリストといった紙ベースの帳票が不可欠です。現場との協議もせず事務系主導で導入したが故に、失敗したと言う、よくある話です。
また、(4)の“効果の測定”にも注意が必要です。いったん通常業務化したように見えても、改善箇所が元に戻ってきていないかどうかを日常的に目視化し定期的に測定、確認しなければなりません。

 

失敗事例の多くは、現場従業員を置き去りにした改善行動です。上からの改善計画ではなく、自分たち現場の声が盛りこまれた計画を、自ら実行するということが何より大切です。

 

物流部門が、倉庫保管機能と配送運搬機能を果たすだけでは存在価値はないのです。

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