経営トップのあり方!
−危機突破、6つのセオリー

株式会社エデュース
原 清

“企業寿命30年説”は日経で10数年前に言われ、関連著書籍の出版も相次いだ。
私が勤務していた同族会社Aが倒産したのは30才の時。小さな業界ではあったが創業28年、業界第3位の売上で、25年間、黒字決算を続けていた。当時、業界第一位であったB社は今、社員数30人規模の会社になってしまった。倒産したA社よりはまだまし、と言えるかもしれないが、500人近い社員が今は30人になるまで、縮小均衡に伴う固定費(特に人件費、土地・設備費)の削減が、小さく小さくしていったB社。
30年前、「今を盛り」と隆々としているように見えた企業の社長、自己破産・清算・整理・会社更生法・再生法…これらの適用を受け、倒産した人達の顔が今もチラチラと頭をよぎる。
“企業寿命30年説”に根拠はない、と思う。しかし少なく共、オーナーが自ら創業した会社を自らの力(気力・体力・能力)で経営できる物理的限界が30年と言うなら、充分に理解できるのが30年という時間だ。30年を越えることができるか否かは、「常に前を向いて」、いかに慢心せず、上手く事業経営継承ができるか否かにかかっている。
 順風満帆で経営が上手くいく保証など、どこにもない。「本来、会社というものは潰れるようにできている。潰れないようにすることが経営だ」、と思う。山も谷もあるのが経営。悪い時にどうするかが経営。よい時は、何もしなくても順調にいく。辛い時に、歯を食いしばり、肚をくくり、ヤルべきことをしっかりヤリ切ることが経営だ。

 

一、経営のやり方と方針を明確に示す。
一、家を建てるように、〈地ならし・基礎打ち・骨組み・屋根つけ・壁つけ…〉、と、誰が見ても、すぐに解るような手を打ち、実践をする。

 

1、“現状打開”の強力な実践力をもつ ―ポイントは、「自らの率先実践がすべて」―

経営がおもわしくない会社は、社員の士気(モラール)が沈滞している、社内の整理・整頓・清掃が乱れている。人の心の反映が、車の汚れ、トイレのありよう、机上の整頓に表われる。返事・あいさつ・身だしなみ…といったことから社内の乱れが表われる。会社がどう変わっていくのか、その流れの中で自分がどう処すべきか、を一人ひとりの社員が考え行動するためには、トップ自らが当たり前のことから手をつけ、実践することだ。
例えばトップ以下、役員の給料を大幅に下げる。不要不急の資産を売却する。より簡素で機動的な組織体制にする。思いつきからスタートした資料や文書類を廃止する。ここで初めて、トップの危機感や経営の切迫感が社員に伝わり、トップの決意と実践力に対する信頼感となっていく。

 

2、“方針・方向”を明確にしてオープンにする ―ポイントは、「焦点を絞り、シンプルな方針に徹する」―

小さなことを徹底しゼイ肉をそぎ落とす一方で、“明日の会社像”を描くことが安心し、希望をもって前進できるための設計図=ビジョンとなり、社員のヤル気を高める。
 業界に身を置き、キャリアを積んでおれば、経済環境や自社の能力(強味・弱味)から判断して、5年後ぐらいの大まかな“あるべき姿”が描けるはず。10年は無理でも3年から5年を、静かに2日、3日、一週間もかかってまとめれば、ビジョンの骨子はできる。それも解らなければ、トップとしての資質に問題がある。
トップ自らの思いである“骨子”を更により具体的なビジョンにするために、社員の力(経験と見識に基く知恵)を結集するのだ。

 

3、“明確な価値判断の基準”と信念をもつ ―ポイントは、「儲けること、生き残ること」がすべて―

明確な方向づけができ、更に具体的な月単位、週単位の実施項目がスケジュール化されれば、あとは何の迷いも躊躇も要らない。
ミーティングも会議も不要。やるならば、決めたことを確認するための短いミーティングで充分(会議などやらなくても、少人数幹部の意思統一でよい)。
ビジネスの目的は、売上と、結果としての利益の有無。売上をとるのは、“お客様満足(C/S)”を得るための現場の創造力(創意・工夫)。利益をとるのは、ヒト・モノ・カネの効率を上げるためのマネジメント力。経営は日々、迷いと葛藤の連続であるからこそ、「儲けること、会社が生き残り、発展するために!」の価値判断基準がいつ、いかなる時もブレないこと。そのことが必ず、社員が活き活きと明るく元気でいられる(E/S)ための原動力になる。

 

4、“揺るぎない信念に基づく継続力”をもつ ―ポイントは、「“継続は力なり”」―

継続力とは実践力。実践力の源は、目標がしっかりしていることと、トップとしての使命感(ミッション)の有無とその強さにある。愚鈍と言われるほど、信じたことをやり続けるためには、強烈な精神力を要する。精神力は、「我が身、我がため」だけではなく、「人のため、会社のため」という熱い思いと大義がなければ、信念までには昇華しない。継続するには、進捗の度合を担当者間で確認し、その場で必要な軌道修正をする。小事に煩わされて、大事を失い、大局を見誤ることは多い。人が好いだけなら単なる善人。会社を生き残らせ、発展させるために妥協のない自分を貫き、結果として成果を上げれば、理屈抜きの“存在価値ある経営者”なのだ。
「運命共同体」とは、ビジネス上も、それを支える私的な生活におけるものでもある(「会社があってこそ、お客様に喜ばれ、社員の生活も保たれる」という事実)。この“大義”に支えられているのだから、敢然と勇気をもって、くじけそうな自分と闘うことだ。

 

5、“他人ごとは自分ごと、自分ごとは自分ごと” ―ポイントは、「経営の責任は私1人に」―

経営者は孤独である。チヤホヤと周囲の人が持ち上げてくれても、そんな人ほど、イザという時は手の平を返すように変わるもの。「良薬は口に苦し」、と言う。言いにくいことを直言する人は遠ざけたくなるのが人の常。しかし、苦言を呈する人の言葉に耳を貸さず、すべてを失った人は数知れない。「委かして委かず」、とも言うが、自分一人でできることはたかが知れている。委かすべきを委かすことは放任ではない。自分の部下やメンバーがする仕事はすべて、自分の責任を分けて担当してもらっているのにすぎないのだ。だから、委かした仕事についてのチェック・確認は、必ず自らがヤルべきだ。
自分が安心して自分のヤルべき仕事を委かすことのできない人は、自分にとって無用なのだ。〈報告・連絡・相談〉がしっかりできない人は、上司との関係において信頼の絆をつくることはできない。

 

6、“信頼関係に基づくヤル気が、社員の力を引き出す”U ―ポイントは、「委せるパートナーは自分の分身」―

分身、と言っても人格を無視、の意ではない。自分自身が責任負うべきことを、他人に委かすのが組織であるからこそ、ビジネスに対する考え方の基本は、しっかりと意思統一されていなければならない。
その上で創造力を発揮できるために不可欠な要素は、「委かして安心、報告するから安心」、の“信頼関係”である。“信頼”のボーールを投げれば、“信頼”の球が胸元に返ってくる。もちろん間違いを犯さないためのルールやシステムは不可欠。しかし、信頼しなければ社員は育たない。私自身も自省するが、一生懸命さが性急な言動となった失敗は、数限りなく体験してきた。「ありがとう」の言葉は必ず、「ありがとう」で返ってくる。
 前記 1〜5の実践こそが、リーダーとしての“信頼”になり、会社を変えていく。

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